ダヌビア・タレンツ国際音楽コンクール(ドナウ国際音楽コンクール)を審査して/赤松林太郎先生
2016年9月28日~30日の会期で、ダヌビア・タレンツ国際音楽コンクールが開催された。初回にもかかわらず、この美しい街ヴァーツには、ハンガリーのみならず、近隣諸国(オーストリア、スロヴァキア、クロアチア、ポーランド)をはじめ、日本や韓国から百名におよぶ参加者が集い、それぞれに熱演を繰り広げた。
このコンクールを提唱されたキッシュ・ユリアンナ先生とは、私が毎春ブダペストで主催しているマスタークラス(リスト音楽院共催)をとおして交流が続いており、今回のコンクール開催にあたって、審査員長を任される経緯となった。バーゼル音楽大学からヤン・シュルツ教授が招かれ、ユリアンナ先生をはじめ、室内楽のコースではハンガリー人の演奏家も審査に加わった。
生年によってAからEまでのカテゴリーに分かれており、Eカテゴリーは年齢の上限を持たないプロフェッショナルなコースとなっている。自由なプログラムによる30分のリサイタルでは、演奏家の個性がよく見える。それぞれが得意とするものをアピールすることで、私たちはその個人を知ることができる一方、彼らの演奏家としての資質や課題の多くを見出す。審査員の仕事は演奏家の良し悪しを点数に表していくことだが、統一した見解はなかなか得られず、今回のコンクールでは各級が終わるたびに、審査会議は紛糾して、英語・ドイツ語・ハンガリー語が大声で飛び交った。もっとも、これは私たちが音楽に対して熱い思いを抱いている何よりの証で、私たちはヴァーツで多くのすばらしい才能の原石を見つけることができた。
とりわけ2000~2004年生まれ(B・Cカテゴリー)の才能の豊かさに驚かされた。審査後に若いコンペティターと話して、演奏や解釈をめぐる音楽観について尋ねたのだが、彼らは思考と洞察の深さを表現するだけの語彙と話法を持ち合わせ、そのためにどういった技術が必要かということを冷静にとらえることができていた。ヨーロッパの若者たちが日本人の同年代と決定的に異なるものは何か。私を含めて、日本人の教育にあたる姿勢を問われているような気がした。
Eカテゴリーで満場一致の第1位を獲得したWon Hyun Jungは、イギリス王立音楽アカデミーを卒業後、ミシガン州立大学で博士課程を修めている秀英。ハンガリー国内とローマでのリサイタルが与えられた。同じくEカテゴリーで第1位を受賞した杉元太は、ポーランドで名教授ピョートル・パレチニに師事し、ヴァーツで協奏曲を演奏する権利を手にした。
特筆すべきはCカテゴリーで満場一致の第1位を得たペクニック・ミア。彼女はすでにクロアチア国内で多くのコンクールで結果を残しており、その音楽観はプロフェッショナルな技術と豊かな感性によって完成されている。来年3月にブダペストで開催を予定している受賞者コンサートにも招聘を考えている。
このようなコンクールはイタリアやフランスに多いものの、中・東ヨーロッパでは数えるほどしかないため、若いピアニストたちにとっては大変意義のあるコンクールに位置づけられていくだろう。来年度開催の成功も心より祈念したい。
Cカテゴリー | 第3位 | 陶山瑞季、竹内日菜多 |
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Eカテゴリー | 第1位 | 杉元太 |
第3位 | 石澤優花、間世田采伽 |