カプースチンを語る~その人柄、創作姿勢と音楽~ 2
2015/02/25
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2.ピアニストにとってどんな意味をもつ作曲家なのか
作曲家を"知る"ことの大きな意味
- 川上
- カプースチン作品は、楽譜をどう解釈したらいいか分からないからレッスンできないとおっしゃる先生が多いかな。楽譜どおりに弾けばいいじゃないか、と思うんだけど、そうは言っても奥が深い部分も確かにある。誰かに聞かれたときに、「楽譜どおり忠実に、クラシックと同じように譜読みをして弾くだけでいいんだよ」と言ったんだけど、その一言がなかなか言えないくらい、まだカプースチンが知られていない。
- 西本
- 例えばそれがカプースチンではなくショパンだったら、今までたくさんの演奏を見て聴いているから、ショパンはこうあるべき、と何となく見えていますよね。
- 川上
- カプースチンについてはまだ情報が少ないので、本人に会いに行くのは大きな意味がありますね。西本さんは、本人と会わなかったら分からなかった、ということは何かあった?
- 西本
- これは、直接音楽に関係しないかもしれないですけど、人柄を知ることはすごく大きいですね。ただ、それだけでは音楽を正しく理解したことにならないですけど。
- 川上
- どんな思いで、どういうスタンスで作曲したかが分かるだけでも、その曲を演奏する上で大きな情報になるんだよね。
- 西本
- それに、会いに行くとカプースチンが結構ピアノ弾いてくれますし。
- 川上
- そう、それもすごいよね。今回も弾いてくれたでしょう? 「実は、最近練習し始めた曲があるんだ」と言って僕にも弾いてくれたんだけど、それが一番新しい曲で驚いたよ。
- 西本
- 作品152と作品153ですか。
- 川上
- この2曲は、昨年(2013年)に作曲された新しい作品なんですが、それを練習して僕らに弾いてくれるのは、涙ぐましいというか、もう、嬉しいよね。
- 西本
- 作曲家本人も練習しないと弾けないということは、私たちはもっとがんばらないと!
- 川上
- 彼の中では、曲を頭の中で発想してそれを作曲する行為と、それを弾けるように演奏レベルまで完成させるのとは、全然別の作業みたいですね。
- 西本
- 「作曲と演奏はまったく別だから、僕も練習するし、僕にとっても大変なんだ、」とおっしゃってました。だからこそ、即興でそのときに何となく弾いて生まれた音を紙に書いてる訳じゃないのが分かります。
- 川上
- 吟味して音を選んで、こだわって書いてるということなんだよね。
カプースチンを演奏するうえで、知っておきたいこと
- 西本
- カプースチンの作品は、ニュアンスがしっかりしていると思います。例えば、最初の8小節が、また次の8小節で繰り返されるとき、最初と次とではスラーとかが同じように見えて、実は細かい違いがあるなど、細部までちゃんと楽譜に書かれています。
- 川上
- 違いは本当に微々たるものなんだけど、それは聴いている人にはとても心地の良い、ちょっとした変化なんだよね。
- 西本
- 昔よりも最近の作品は楽譜に指示が増えているかも。
- 川上
- つまり、かなり微細な要求が増えているんだね。一番新しい作品152を演奏しているのを見せてもらっておもしろかったのが、メトロノームに合わせて最後まで弾ききっちゃったこと! 普通、テンポがよれたりするでしょう?でも彼には、指をストップさせることができる技術があるんだよ。
- 西本
- 実は、彼の手はそんなに大きくないんですよね。
- 川上
- いや、一見はそうだけど、手を合わせると僕より大きいんですよ。
- 西本
- でも、びっくりするほどの大きな手ではないですよね。
- 川上
- 彼は指のコントロール力がすごい。メトロノームを使うと機械的になるイメージがあるじゃない? でも、メトロノームをかけても音楽的に弾ける。それもリラックスしてできちゃう。リラックスしているんだけど、音楽に乗って指をコントロールしてる。
- 西本
- お腹の中にリズムがある感じですよね。決して派手な動きはしないし、鍵盤からほとんど指を離さず、何てことなく弾くんですよ。
- 川上
- これがまた、いい味が出るんだよね。
- 西本
- 今回はお会いしたとき、「『正しいテンポ』に乾杯!」と何回も乾杯したんですが、テンポが大事だということを、どうしても言いたかったみたいです。よほど伝えたいんでしょうね。
- 川上
- それだけテンポに思い入れがあるんだね。実際、技術がないと、彼の指定したテンポで弾くのは難しいと思う人は多いと思う。ちゃんと指をコントロールしないとダメだからね。
◆コンサート情報◆
日時:2015年5月4日(月・祝)13:00~20:00
会場:ティアラこうとう小ホール
- 第1部:カプースチン愛好家によるプロローグ・コンサート (13:00-15:30/入場無料)
- 第2部:「カプースチンを深く知ろう!」~奏法のエッセンス~ (16:00-17:15/2500円)
- 第3部:カプースチン作品スペシャル・コンサート (18:00-20:00/2500円)
ピティナ編集部
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