広島発!レッスン室だより~先生・生徒・保護者の『コミュニケーション』いろいろ~ 第1回「駄々をこねる」
美穂(小3) |
お母さん |
私(先生) |
コンクール前のレッスンで、思うように弾けず、表情も暗く、質問にもまったく答えない美穂ちゃん。
- なんだか今日は元気がないね~。
何かあったの? - ・・・・(無言)
- 黙ってたら分からないよ
- ・・・・(無言)
- じゃぁちょっと休憩しよう。美穂ちゃん隣の部屋で練習していてくれる?
と言って、私は美穂ちゃんと二人で隣の部屋へ。
美穂ちゃんはその時泣いていましたが、こう告げて私はレッスン室に戻りました。
- 後で先生が聞きに来るから、その時までにここの部分をこれくらいの速さで弾けるように練習しておいてね!
レッスン室に戻ってお母さんに事情を聞くと、この1週間ずっとこんな調子とのこと。
もうコンクールまで日がないのに、「こんなことでは結果は見えている」
「他の子がどんどん結果を出している」と、つい本人にも言ってしまった。
どれだけ練習しても全然できるようにならない、親として焦ってしまい、どう声をかけていいのか分からないと、悩まれていました。
おなじ母親としてその気持ちが手に取るように分かるので、私の体験談を少し話しました。
私も娘がなかなか弾けるようにならない、何回やっても出来ない時に、腹を立て、「何回言ったらわかるの?」「やる気がないなら止めなさい!」「どうしてできるまでやらないの?」とヒステリーを起して、私の方が泣きたい気持ちで叫んでいました。
親としての焦り、絶望と失望が渦巻いて、自分がコントロールできない状態。
ある日、そんな自分の状態に、「これってまるでデパートのおもちゃ売り場で、子どもがひっくり返り、『あれ買って~~~~!!』と泣き叫んで駄々をこねているのと同じだ」とふと気づきました。
出来なくて焦っているのは当の本人なのに、その横で大の大人が「落ちたくない」「どうして頑張ってくれないの?」「どうして他の子みたいに上手く弾けないの?」「どうして気にならないの?」「どうして必死で練習しないの?」とさらに激しくわめいてひっくり返る。
私はそんなことにも気づかずに、娘たちを責めていたのか、と自分自身にがっかりした経験があったことを、話しました。
お母さんは、私の話に共感しながら耳を傾けてくださり、最後に「私も娘を責めていました。考えてみたらあの子はこの一年ずいぶん成長していたんです。でもその成長では足りない、と勝手に私がハードルを上げていたんですね」と、心の内を話してくれました。
- 今、隣の部屋で美穂ちゃんが何をしているかはわからないけど、もしかしたら気持ちをリセットして練習してくれているかもしれない。それだけでも偉いと思わない?
- そうですね。一度リセットする事も必要ですね
- 私たちのためにもね!(笑)
お母さんの胸のつかえを少し取り去ったところで、私は一人で隣の美穂ちゃんの様子を見に行きました。
美穂ちゃんは私に言われた課題を一生懸命練習していました。
さっきまでの下を向いた美穂ちゃんはすっかり姿を消していたので、私もその事には一切触れませんでした。
そして、美穂ちゃんの演奏を聞いてびっくり!弾けるようになっていました。
- すごいねぇ~~、美穂ちゃん、頑張ったね!どうやって練習したの?
- 早く弾けるように、ここだけ取り出して部分練習して・・・これが出来たら次に行って・・・
はっきりとした言葉で元気に、嬉しそうに答えてくれました。
- ねぇ、これをお母さんに聞いてもらう?呼んでこようか?
- うん!(笑顔)
そして何も知らないお母さんが部屋に入り、美穂ちゃんの見違えるような演奏を聞き、
- わぁ、どうしたの!できたじゃない!すごい!!
と、すぐさま歓声をあげました。
私はそのお母さんの笑顔が嬉しくて「よかったね~~~!」と美穂ちゃんの方を見ると、美穂ちゃんが泣いている。
びっくりしてお母さんの方を見ると、お母さんも泣いていました。
しばらくして、お母さんが感激して泣くのを見て美穂ちゃんも泣いたんだという事がわかり、私も胸が熱くなりました。
美穂ちゃんのいる部屋に入る時のお母さんの気持ちの中には、「まだ出来ないの?」「いつになったらできるの?」「いったい何してたの?」といった言葉はなかったはずです。
どうにかしたい、と一番思っているのは美穂ちゃんであり、それをサポートしよう、信じよう、と気持ちをリセットして部屋に入ったのではないでしょうか。 子どもを散々叱り飛ばした後で、なかなか気持ちのリセットが出来ないのは大人の方です。
子どもは怒られたことも忘れて「お腹がすいた~~。今日のご飯なに?」聞いてくるといった、本能的なリセット機能がついていますが、大人はなかなか気持ちの切り替えがうまくいかないものです。
子どもを信じる気持ちを忘れず、ついつい熱が入り過ぎてしまったときには、意識的に気持ちをリセットしながら、どんなときも一番の子どものサポーターで居たいものですね。