日々雑感~レッスン現場で思うこと その5 意識を移す
ある日、小学校2年生の男の子が、ベートーヴェンのソナチネ ト長調を弾いた。16分音符がよたよたして危なっかしい。
「指が弱いからよたよたする」のだろうか。そうではなさそうだ。私は即座に「フォルテとピアノをはっきりつけて弾いてみよう」といった。
彼はたちまち蘇ったように、メリハリのはっきりした素晴らしい演奏をした。もちろん16分音符も転ばずに弾けた。
これはどういうことだろう?おそらく、彼は「フォルテとピアノをはっきりする」ために神経を指先に集中した。そして姿勢もよくなった。当然神経が指先に集中しているので、転ぶことはない。
音の強弱をつけたりすることによって、手のフォームがよくなったり指返しが楽になったりすることは多い。それは「注意ををどこに持つか」をコントロールすることにつながる。たとえば4オクターブのスケールを弾く時、指返しがスムーズでないときに大きいフレーズを感じてゆったりした表情で弾こうとすると、大きなスラーに小さな細かい動きが吸収されて指返しが大げさなフォームにならないので、きれいになることが多い。
中学生のレッスンで、曲はショパンのエチュード作品25-9である。これは青で囲った右手のオクターブが難しく、なかなか軽やかに弾けない。そこで、左手の赤で囲った○、特に1の指に注意を向けさせてみた。この1の指を「歌わそう」と思うと、右手の重さが抜け、全体がまとまった響きになる。
このような場合、演奏者はどうしても「技術的に難しい」と思いがちなところに意識を向ける。ところが多くの場合この「意識」により、過重に力が入ったり、余計な動きが混ざったりする。特にこのオクターブは「縦揺れ」をしやすい。左の親指に意識を向けることにより、この縦揺れがなくなり、軽やかなリズムを作り、響きの中核として全体の響きをまとめる。
難しいときには、もう片手のやさしいパートにも意識を向ける。「必ずしも」というわけではないが、今までにないようなまとまった演奏になることがある。最初の例では「指のもつれを音楽の強弱、表情」に、次の例では「右手を左手に」意識を移すことにより問題を解決する。このような考え方が、もっとうまく使われるといいと思う。
※本稿は大竹道哉先生がご自身のfacebookページに掲載された文章を加筆修正のうえ転載したものです。
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