会員・会友レポート

ピアノラマ国際コンクールレポート/恒川洋子さん

2012/06/22
授賞式
Tunomas Hannikainen指揮のオーフス・シンフォニー・オーケストラと、コンチェルトを共演したコンテスタント達。
ピアノラマ国際コンクール
レポート

執筆・撮影:恒川洋子
Yoko TSUNEKAWA, Music Journalist

BANG & OLUFSEN PIANORAMA COMPETITION 2011
1st International Piano Competition for Young Pianists
March 20-26 2011 AARHUS, DENMARK
www.pianocompetition.dk
コンクール会場。建物内にはすばらしい音響のホールが五つもある。
コンクール会場。建物内にはすばらしい音響のホールが五つもある。

コンテスタントのくじ引き当日。競うコンクール会場のイメージよりも「世界中の同世代のピアニスト達と友達になれる絶好のチャンス」の雰囲気が伝わってきた。
コンテスタントのくじ引き当日。競うコンクール会場のイメージよりも「世界中の同世代のピアニスト達と友達になれる絶好のチャンス」の雰囲気が伝わってきた。

この春、ユトランド半島東部のデンマークの港町オーフスにて同国初の国際ピアノ・ユース・コンクールが開催された。このオーフスの人々は、たいへん合理的でありつつも、人情、誠実や愛情がバランス良く融合し合っている印象を受ける。それは街角で見かけるお店のデザイン、コンサートホールの照明や建物の暖色系の色使いや、人々が身につけている衣装からも総体的に感じられる。この町で今後、二年サイクルでこのコンクールを実施予定であり、第二回目は2013年2月24日から 3月2日を予定している。

ユースコンクールとしての賞金はこれまでの国際ピアノコンクールでは最高額で、計40,000euros。
年齢は二つのカテゴリーに分けられる。
カテゴリーAは1995年4月1日から 2000年3月31日生まれ。(11~15歳 )
カテゴリーBは1989 年4月1日から1995年3月31日生まれ。(16~21歳)
それぞれのカテゴリーは第一、第二ラウンドともに25分のプログラムを組まなければならないが、そのうちデンマークの作曲家カール・ニールセンの課題曲以外は選曲自由。
課題曲: 5 Kalverstykker op.3, Humoreske Bagateller op.11, Chaconne op.32そしてKlavermusik for Smaa og Store op.53.

第三ラウンドは以下のコンツェルトから選択し、第一楽章をオーケストラと演奏。
-L.v.Beethoven: Concerto no.3 in C minor, op.37
-E.Grieg: Concerto in A minor, op.16
-W.A. Mozart: Concerto no.20 in D minor, KV 466
-W.A. Mozart: Concerto no. 23 in A major,KV 488
-R.Schumann: Concerto in A minor,op.54
-P.I. Tchaikovsky: Concerto no.1 in B-flat minor, op.23

38カ国から148名が応募し、DVD審査を経て39名でコンクール開始。

Category A:
1st prize: Anastasia Sokolova, 8,000 Euro
2nd prize: Leonardo Colafelice, 5,000 Euro 3rd prize: Li Chu Ren, 3,000 Euro.
Category B:
1st prize: Beatrice Rana, 10,000 Euro
2nd Prize: Jamie Bergin, 7,000 Euro 3rd prize: Maria Lysenko, 5,000 Euro 4th prize: Lei Meng, 2,000 Euro
Carl Nielsen Prize A: Konstanca Dyulgerova, 1,500 Euro Carl Nielsen Prize B: Jamie Bergin, 2,000 Euro
Audience Prize: Anastasia Sokolova, 1,000 Euro
カテゴリーAで優勝したロシアのアナスタシア・ソコロヴァ。十四歳とは思えない程ユーモアと表現力豊かな演奏で楽しませてくれた。
カテゴリーAで優勝したロシアのアナスタシア・ソコロヴァ。十四歳とは思えない程ユーモアと表現力豊かな演奏で楽しませてくれた。
カテゴリーBで優勝したベアトリス・ラナ。
カテゴリーBで優勝したベアトリス・ラナ。

第一ラウンドから音楽的センスが飛びぬけていた、実力派の二人Anastasia Sokolova (ロシア、サンペテルスブルグ出身、14歳)とBeatrice Rana( 南イタリア出身、18歳)がそれぞれのカテゴリーで優勝。共通するところは両名共に抜群のリズム感、知性と感性が絶妙にプログラムの構成に反映、土台となるしっかりとしたテクニックと分析力、自由奔放でかつ自然な呼吸、見事なペダルの使い方である。課題曲としてたいへん人気の高かったカール・ニールセンのピアノ曲「6つのユモレスク・パガテルop.11 FS.22t」を二人とも選択。この作品は一度聴くとすぐに耳に残るほど単純な旋律なのだが、それだけに面白いほど個性が発揮できる。ベアトリス・ラナは静かにこっそりとまるで大事な秘密を明かすかのような演奏をしたに比べ、アナスタジア・ソコロヴァはユーモアたっぷりの楽しいストーリを、豊かなイマジネーションにのせて披露し、会場を沸かせた。「コンク--ル自体は昨年の秋に先生にすすめられて準備しました。プログラムはコンク--ル向きではないかもしれませんが大好きな曲をそれぞれ弾きました」とソコロバは話す。確かにSlonimskyを選曲するところはなかなか大胆で、これから成長するピアニストとして是非応援していきたくなる一人である。

Dominik Falenski & Anne Oland
Dominik Falenski & Anne Øland

このコンクールの魅力はなかなか話しつくせないが、まず第一に強く印象に残るのは音楽に対する愛情のかけかた。演奏家の目的がコンクールの初日から最終日の打ち上げまでビシビシと気持ちよく伝わってくる。「コンク--ルに勝つことが目的ではなく、一人でも多くの人に聴いて貰える喜びを持つこと」「コンクールをお祭りとして、その精神を大切にしたい」と話すDominik Falenski(ドミニック・ファレンスキ)。同氏が、このオーフス音楽院のピアノ学科長でありピアニストであるAnne Oland(アンヌ・オーランド) と共に、このコンク--ルを創立した。「全ての要素が自然と揃い、スポンサーシップも整った結果生まれたコンク--ル」とファレンスキ氏は語る。
現存する国際ユースコンク--ルの中では最高の条件が揃っていると言っても過言ではない。審査員の質はもちろんのこと、事務局運営やコンテスタントの練習室等のサポートまで行き届いている。音楽院の数々のホールは音響が抜群。またパートナーシップのBang & Olufsenはもとより、デンマーク王室からもサポートを得ている。

時代の流行もスマートに取り入れ、各コンテスタントのコンク--ル中の演奏はダイレクトにYoutubeで聴くことができる。そして第二ラウンド、第三ラウンドに残らなかったコンテスタントにも、それぞれにコンサートのチャンスが用意され、コンク--ル中に弾くことができる。他のコンクールでみかけるような、結果発表の翌日にしょんぼりと荷物をたたんで去るコンテスタントの姿はないのである。

世界中から集まった審査員の一人一人も実に面白いバックグランドを持つwww.pianocompetition.dkに各審査員のライブ・インタビューあり)。こうした審査員達と、めまぐるしく変動していくこのデジタル時代について語り合う機会も得られる。
リトアニアの青年独立運動家としてモスクワ音楽院時代に地下活動に携わったJustas Dvarionas審査員にとっては、人生にかける情熱と音楽にかける愛情が同一平面上で交わっている。これまでの貴重な体験から「直感を信じる、全てそこから始まる」と語る。現在コンサート以外にも多くの活動を行っている。EMCY(European Union of Music Competitions for Youth)の一員として世界中のユース・国際コンク--ルにも出向いており、時には戦争に巻き込まれてしまっている会場もある。「音楽」と言う世界共通語を自由に表現できる場があることを世界中の子供達に信じて欲しいと話す。

審査員の一人、エリック・タヴァスティエルナ先生
審査員の一人、エリック・タヴァスティエルナ先生

Erik T. Tawastsjerna審査員は、その父を継ぎシベリウスの大家。日本との縁もたいへん深く、数多く訪日しており、1990年には赤坂御所で天皇皇后両陛下のために演奏。現在は毎年夏に開催されるSuolahti 国際音楽祭や来秋フィンランドで開催される第三回Maj Lind国際ピアノコンクールの準備にあたっており、「是非日本からも沢山の若いピアニストに来て欲しい」とのメッセージを頂いた。

セブ島出身のアルバート・ティユ氏は、長年住んだニューヨークでの音楽経験を活かし、現在シンガポール音楽院で教鞭をとっている。「シンガポールには熱心な親が多いが、その子が芽を出すかどうかはやはり本人がいかに強い意志を持ち続けられるか次第」。今回このコンク--ルにはインドネシアやシンガポールの次世代のピアニスト達が集まっていたが、現在のアジアにおけるクラシック音楽の現状を伺うことができた。

国際ピアノ・コンク--ルは、ALINK ARGERICH FONDATION の統計によると現在750近くほどある。コンク--ルはあくまでも自分へのチャレンジの場や世界中の人々との出会いの場を提供してくれる。原点に戻って、どうしてピアニストになりたかったか、どんな音楽を聴いて欲しいのか、そしてこれからどういう道を歩みたいのか、などいろいろな考えがよぎる10代、20代であろう。このコンク--ルはそんな人たちにぴったりと言える。
キューバ出身の審査員のSolomon Mikowsky氏に「人生で大切なものは?」と伺ったところ、その答えは「愛情」であった。たしかにこのコンク--ルの大成功の秘訣は、音楽監督のアンヌ・オーランド女史と学生達の素晴らしい結びつきであり、友情であり、信頼関係と愛情の絆である。

練習する審査員長アンヌ・オーレン、ユスタス・デヴァリオナス、アルバート・ティユ、そしてクラウス・コフマン。
最終日の「ご褒美」演奏のため熱心に練習する審査員長アンヌ・オーレン、ユスタス・デヴァリオナス、アルバート・ティユ、そしてクラウス・コフマン。

コンク--ルのファイナルを迎える前夜、アンヌ・オーランド女史と審査員数名が音楽院の教室のピアノに向かい、1時間程の連弾の練習を始めた。このコンク--ルのメッセージである「音楽は愛情をもって楽しむ」ことをコンテスタント達に最終日にプレゼントしたいという熱い気持ちから、アイデアがまとまる。コンク--ルが幕を降ろそうとする寸前、二台のピアノがレセプション・ホールに運びこまれ、そして審査員、コンテスタント、音楽院の学生や関係者たちが混ざり合い、ピアノに合わせながら踊った。


そしてアンヌ・オーレンとその生徒が引き続け、みんなが踊る・・・そしてコンク ルの幕が降りる!
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ピティナ編集部
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