会員・会友レポート

6手と8手の為の国際ピアノコンペティションを審査して(ドイツ)/アレクサンダー恵子先生

2006/05/01

<ドイツ音楽訪問記>
6手と8手の為の国際ピアノコンペティションを審査して
[前編][後編]

リポート◎アレクサンダー恵子先生


アレクサンダー恵子先生と審査員の方々
4月29日~5月3日、ドイツ・ミュンヘン郊外にて行われた「第5回6手と8手の為の国際ピアノコンペティション」。審査にあたったアレクサンダー恵子先生(当協会正会員)より、レポートが届きましたのでご紹介します。

前編

東欧、アジア諸国より27グループ参加


審査会場となった音楽院は、マルクトバードルフ城という館風のお城である。


主催者のアンドレアス・グランドル氏(右奥・バイエルン音楽アカデミーマネージャー)らと。

 第5回6手と8手の為の国際ピアノコンペティションは、ミュンヘンの南西にあるマルクトーバードルフにて行われました。コンクールは10年前から2年毎に行われ、今年で5回目です。会場はマルクトーバードルフ城で、バイエルンミュージックアカデミーと呼ばれています。この施設では、審査員、先生、生徒が皆一緒に宿泊し、コンクール開催中は1階のカフェテリアで、朝食、昼食、ディナーを共にします。
今年の審査員は、審査委員長のトミスラフ バイノフ氏(ブルガリア)をはじめ、ヨハン・ヴァン・ビーク氏(オランダ)、ルイージ・カッセリ氏、ガブリエル・オッタイアーノ氏(イタリア)、ウィンフリード・ロンフ氏(カナダ)サリー・ピンカス女史(米国)と私の7人でした。

 今年は、1台6手のみの参加で、9カ国?リトアニア、ロシア、ブルガリア、チェコ、ウクライナ、ギリシャ、ドイツ、韓国、中国より80人ほど参加しました(27グループ)。このコンクールは6段階に分かれており、A級(9歳以下)、B級(10~12歳)、C級(13~15歳)、D級(16~20 歳)、E級(21歳?)、F級(年齢制限なし)となっており、指導者も参加可能です。

選曲、演出に工夫が光るグループも

29日は予選が行われましたが、この日はとても寒く、驚いたことに、午前中、雪が降りました。朝9時半からまずE級(21歳以上)が3組、一次予選ではチェルニー1曲を含む15~20分のプログラムで演奏しました。テクニック、音楽面でほぼ完璧で、息の合ったウクライナ(キエフ)のグループと、3番目に演奏したチャーミングたっぷりのドイツーウクライナーギリシャのグループがとても優れていました。

午後から最年少グループ、A級の4組の演奏を聴きました。
どのグループの子供達もとても可愛らしく、中でもリトアニアのグループがとても光っていました。
休憩を挟んで、午後4時からB級の6組を聴きましたが、このグループの演奏は、あまり冴えなくて、少しがっかりでした。審査員達は、6組もあるので、審査が大変と予想しておりましたが、なかなか光った演奏に巡りあえませんでした。ですから、4番目のチェコの3人兄弟がハチャトリアンの剣の舞を息の合った解釈で弾いてくれました時は、ほっといたしました。


右が審査員長のトミスラフ・バイノフ氏、同コンクールの創立者、作曲家でもある。左はイタリアのカッセリ氏。

ディナーの後、夜7時半からD級を3組聴きました。"MYX"という中国人2人を含むグループと、"Tastenflitzer"というリトアニアのグループが1位になりました。MYXトリオが演奏した"Reception Waltzz"では、ワイングラスを持って、一人づつステージに出てきて演奏して、また一人づつワイングラスを持って退場するという演出がとても面白く、聴衆を楽しませてくれました。
Tastenflitzerトリオの演奏した"Revancha"という素敵なタンゴ調の曲は、Geberovichという作曲家が前回(2004年)のコンクールの為に書かれたもので、テクニック、音楽共にしっかりとした演奏で、金物でピアノの弦をはじいたり、現代曲の特権を生かした面白い演奏を聴かせてくれました。

一日目は午後9時頃に終了し、会議の後、我々審査員はとても疲れたのと、緊張がほぐれたせいか、皆でワインを飲みに行こうということになったのですが、主催者のグランドル氏が「ドイツのワインを用意していますよ」と嬉しい発言をしてくださったので、このお城の1階のBierstubeで、ドイツやイタリアの美味しいワインをいただいて、夜中まで乾杯して楽しいひと時を過ごさせていただきました。


後編

2日目は、朝9時半からC級の7グループを聴きました。グルリットの"セレナータ"をても綺麗に演奏したリトアニアのグループと、"Velichkova"という名のブルガリアのグループが優勝しました。このグループが弾いたブートゥリ作曲の"Le Voleur D'Etincelles"という曲は、直訳すると、「きらめく泥棒」となるそうですが、タイトルの通りきらきらとした輝きで、聴き応えのある演奏でした。最も、泥棒がきらきらと輝いているわけではないのでしょうが。。。

午後のF級では4組を聴きましたが、ブルガリアのグループが、自国作曲家Pantscho Wladigeroffによる大変演奏困難な曲"ラプソディー ヴァルダー"を、先生を交えて立派に演奏して優勝しました。因みにこの楽譜は、手書きで、私も購入してきましたが、とても音符が読みにくいのです。

E級で優勝を分け合った二つのグループとは・・・


チャーミングな"Some Handsome Hands"のメンバーと(E級優勝)。


同じくE級で優勝したウクライナ出身グループ

そして本選。E級は2グループが優勝を分け合いました。一つは、全曲暗譜でステージ演出効果を狙ったチャーミングなグループ"Some Handsome Hands"。ドイツ、ウクライナ、ギリシャ出身の女性3名のトリオでした。演奏した"Metrorhythmia1"というジャズ風の素敵な曲は、審査委員長バイノフ氏の作品。この曲は別のグループでも、それぞれ違った解釈で演奏していましたが、このグループはステージに一人づつ出てきて演奏し始める、というお洒落な演出をしておりました。
余談ですが、私も韓国人の生徒3人にこの曲を練習させておりますが、皆とても気に入って、楽しんでおります。

もう一方の優勝者、ウクライナのグループはテクニック、音楽性共に完璧でした。特に予選で演奏したチェルニーは完璧で、チェルニーがこんなに綺麗で音楽的な曲を書いたのかと感動してしまいました。(E級は、予選で必ずチェルニーを一曲弾かなければならない。またC級以上の参加者は、20世紀または21世紀の作曲家の作品を、必ず1曲は演奏することになっています。)

このウクライナのグループとは、7年ほど前に特別ゲストとして訪問したキエフで行われたホロヴィッツ青少年の為の国際ピアノコンクールで会っているようです。ウクライナの子供達の勤勉さとテクニック、音楽性の完璧さにはいつも頭が下がります。Special Music Schoolに所属する生徒達は、一日に10 時間以上練習しているそうです。

音楽のどの点を評価するのか?

今回興味深かった体験ですが、このE級において、堅実なウクライナのグループだけを優勝させようとした審査員と、"Some Handsome Hands"と1位を分けさせようとした審査員と、意見が分かれたことでした。真面目で堅実な演奏をしたウクライナのグループは、誰も優勝に文句はつけませんでしたが、"Some・・・"は全曲暗譜の上、カリスマたっぷりな演奏でステージ演出にも優れており、明日コンサートをさせてもお客様を魅了させる力があると判断したわけです。音楽も商売ですから、チケットを買ってくださる聴衆がいなくではビジネスになりません。


車窓に見えるドイツの田園風景


ホーエンシュヴァンガウ城

過去に世界で有名な国際コンクールに優勝した音楽家を起用して、技術的には完璧で、真面目できちんと演奏しているのに、聴いていてとてもつまらない演奏に沢山出会いました。審査員には、世の中に出して、成功する可能性のある音楽家達を選ぶというとても重大な責任があるのです。そのことを改めて実感しました。

5月1日?3日目は、夜7時半から始まる優勝者演奏会まで自由時間でしたので、ピンカス女史、カッセーリ氏、オッタイアーノ氏らと共に、有名なノイシュヴァンシュタイン城とホーエンシュヴァンガウ城へ行ってきました。

ドイツに着いた時の冬のような寒さはどこへやら、この日は快晴で気温も20度近くなり、最高のお天気でした。美しいアルプスの山を背景に、あちこちに湖を見ながら、美しいお城を楽しい観光客気分で見学してきました。

こうしてバイエルン地方で行われた国際ピアノアンサンブルコンクールを経験して、19時間かけてヴァンクーヴァーへ帰ってきました。ここにもとても綺麗なカスケードマウンテンがあります。


ピティナ編集部
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