<洋上演奏記>豪華客船で太平洋横断演奏旅行/佐藤展子さん
<洋上演奏記> リポート◎佐藤展子さん |
SAGA RUBY |
その1
イギリスからのお誘い
以前ロンドン留学の際に大変お世話になったフルーティスト、ウィリアム・ベネット氏とその奥様からお話をいただいたのは昨年12月。1月4日にイギリスを出航するワールドクルーズの船に、横浜~ロサンゼルスの航海の期間中、日本から乗船可能なアーティストがいないかということで、お声がかかりました。
乗船するのはイギリスの豪華客船「SAGA RUBY」。全長191.08 m、全幅26.62mという巨大な船で、今回1月4日にイギリスを出発し、南アフリカのケープタウンを通り、マダガスカル~インド~クアラルンプール~シンガポール~タイ~ベトナム~香港~上海~と来て、日本の神戸~名古屋に寄航し、3月7日に横浜にようやく到着。その後、太平洋をミッドウェイ諸島、ハワイと通ってアメリカ西海岸サンフランシスコ~ロサンゼルス、そしてメキシコからマイアミ、バミューダと通って、4月23日にイギリスへ戻るという、通算110日の旅!私たちが乗り込んだ横浜からロサンゼルスまでは16日間の旅でした。
トリオがよいということで、友人や先生のお力も借りながら急いでメンバーを探し、最終的にヴァイオリンの赤池美礼さんとチェロの関根優子さんが引き受けてくださいました。3人が顔を合わせたのは年明けでした。トリオの名前は「桜トリオ」に決定!
6年前のロンドンへの短期留学がきっかけで、これほどまでに素晴らしい機会、レアな体験をさせていただけて幸せだなと感じています。しかし、豪華客船で演奏とは!!まったく想像がつかない世界でしたから、準備の間は「私は本当に船に乗るのかしら・・・?」という感じでした。トリオの名前を大慌てで決め、クルービザを取りに行ったり、予防注射を受けに行ったり、3人で楽譜をかき集めて合わせをしたり・・・大学の仕事の傍ら、経験のない仕事の準備はなかなか大変でした。出発前の合わせは(ほぼ初見で)すべての曲の時間を計るだけで精一杯。豪華客船はどんな世界なのか、情報も少なくかなり不安なまま乗船し、いよいよ船は太平洋の大海原へ・・・!
その2
Sakura Trioデビュー!
レセプションに行くと温かく迎えられ「早速今夜あなたたちの演奏をお願いするわ!」と。演奏日程は知らされていなかったので、まさかとは思いましたが、本当に初日とは・・・さすがイギリス船です。私たちのキャビンやボールルーム、ダイニングルームなど案内していただいた後、船は出航し、プログラムを考えリハーサルをすることになりました。
そしていよいよSakura Trioのデビュー第1回目のステージが広いボールルームで幕を開けました。「桜トリオ」という名の紹介も兼ね、「さくらさくら」で始め、日本の春の歌メドレー、沖縄の歌メドレー、ハンガリア舞曲やユモレスク等数曲、チャールダーシュで締めくくり大きな拍手をいただきました。しかし、船の揺れは予想以上にきつく、弾いていて椅子が前後するほど。その夜は船酔いで、着ていたドレスを放り出してベッドに倒れました・・・。
船のお客様は穏やかでやさしいイギリス老夫婦。3人とも船酔いで2日目ティータイムの演奏を直前でキャンセルさせていただいたところ、次の日カフェテリアで会う人会う人「大丈夫かい?」と声をかけてくださる。ウェイターたちは「薬や水を飲みすぎずとにかくいっぱい食べなさい!」と言って青い顔をした私たちを笑うし、あるおばあさまは船酔い止めのリストバンドを勧めてくれます。フレンドリーで家族のような気さえするような人たちばかりで、恵まれた環境でした。
毎日ディナーの後がショーの時間。21:00~コンサート形式45分間が7回と、ティータイムのBGM16:15~45分間が2回、すべて違うプログラムです。その日のイベントが載る広告用に、プログラムには毎回タイトルをつけ、曲目はコンサート前日に、バランスやお客様との会話を通しての反応を見てその都度3人で決めました。1回に13曲程度、曲目とそれにまつわるエピソードをお話しながら、という感じです。英語がこれでも一番話せる私がプログラムのアナウンスをするのが何より大変でした。
意外と日本の歌が人気で、かっちりとしたハイドンやベートーヴェン、メンデルスゾーンのトリオのリクエストも多くありました。コンサートの次の日には、船のあちこちで皆感想を言いに駆け寄ってきてくれました。その全員が心から私たちの演奏を楽しんでくれているのがわかり、本当にホッとしました。16日間で9回のコンサートを行いましたが、皆、毎回私たち「桜トリオ」の演奏をとても楽しみにしてくれました。
その3
航路アメリカへ・・・!
トリオを組んで間もない私たちが一番心配だったのが合わせの時間があるかということでした。曲の時間を計るだけで、フィーリングとかタイミングとか、そんなことまで気を回す暇がなかったので、昼食後~夕食までの間に空いているシアターやバーを見つけて毎日練習ができたことはラッキーでした。
一緒に生活しているとお互いの性格やペースがわかってきて、チームワークが増していくものです。私たちの演奏を楽しみにしてくれるお客様のために、どの曲も心を込めて演奏しようと。言葉に苦労していたので余計にその思いは強くなりました。
3人の音色を大事にするフレーズ感や息遣い、間の取り方など、本番になるとより一層気持ちよく音楽的コミュニケーションができるパートナーでした。それはお客様にも伝わっており、「トリオを組んで長いの?」「CDは出してないの?」「是非イギリスに来て演奏会を!」と声をかけてくださいました。
クラシックファンが多いということで、ボールルームで行われるメインのショータイムでもう一度演奏させていただくことができ、シュトラウスのラデツキーで手拍子を誘ったり、「あなたたちと同じレパートリーを歌っていた歌手と是非コラボレーションを!」というリクエストに答えて彼女との共演が実現したり、私たちこそ楽しませていただきました。100曲近くを弾き切った最後の日は3人で感動の涙を流してしまいました。そういえば私たちの前には小川典子さんが乗っていたと聞きました!シンガポールから中国までだったとか。
ミッドウェイ島に立ち寄り観光
日光浴
私たちは3/10横浜を出て、日付変更線を通過し(火曜日が2日ありました)15日にミッドウェイ、18日ホノルル、19日ハワイ島、24日サンフランシスコ(ゴールデンゲートブリッジの下を通りました!)、26日ロス、というスケジュール。ありえないほどの数の愛くるしい鳥がいたミッドウェイは忘れられません。
その間はの日はすべて海の上。お天気の日は皆デッキをウォーキングしたり日光浴しながら読書、船の中ではダンスレッスンや水彩画、刺繍、ゲーム大会、クイズ、映画、ゴルフ、水泳、ジム等で過ごしています。定期的に礼拝も行われていました。
私たちはのんびり起きて、合わせ、船内探検、洗濯、ジグソーパズルに没頭したり、お客様と話しながらアフタヌーンティーを楽しんだり。一度きつい揺れの中でダンスレッスンに参加しました。毎日のドレスコードに合わせておしゃれをするのも楽しみのひとつ。夜はデッキでのバーベキューやダンスパーティーがあったり、腹話術やジャズ歌手、コメディアンやクラシックギターのショーをお酒を飲みながら楽しみました。
たった16日間の音楽を通した心の交流は密度の濃いものでした。温かい人たちに囲まれて過ごすことができ、本当に幸せな気持ちにさせてくれたので、最後はちょっとさびしかったです。前日の夕方まで帰りの便を知らされなかったり、すべてが臨機応変というイギリスの大らかさもすごく気に入りました。SAGA RUBYのホームページのキャプテンのブログに「Sakura Trio」の名を見つけました。エンターテイナーの一員として認めてもらえたのだなぁと感激してます。キャプテンにはカクテルを1杯ご馳走になりました。
またこの船に戻ってきたい!と言い残して船を降りました。貴重な貴重な体験でした。
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リポート◎佐藤 展子(さとう のりこ)
東京音楽大学付属高校、同大学ピアノ演奏家コースを経て、2002年同大学院修士課程修了。在学中、特待生奨学金を得る。 1997年モーツァルテウム音楽院サマーアカデミーに奨学金を得て参加、A.ヤシンスキ氏に師事。 1998年彩の国埼玉新進音楽家オーディションに合格。マラソンコンサートに出演。 2000年卒業演奏会、讀賣新人演奏会に出演。東京音楽大学シンフォニーオーケストラと共演。英国王立音楽院に奨学金を得て短期留学、C.ベンソン氏に師事。 2001年ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ受賞。 2002年沼尻竜典氏指揮・日本フィルハーモニー交響楽団と共演。越谷、ヤマハ銀座店にてリサイタル開催。 これまでに神野明、加藤一郎、加藤恭子、播本三恵子、倉沢仁子各氏、 室内楽を土田英介、迫昭嘉各氏に師事。学校クラスコンサートでも活躍中。