会員・会友レポート

韓国音大訪問記(後編)/久元祐子先生

2003/03/12
韓国大訪問記
今日は実技試験の日!

― 韓国人の身近な友人を見ても、みんなとにかく積極的で、それが国民性になっているように思えるのですが、積極的な国民性は音楽家にとってプラスだと思われますか?
「ええ、そういう国民性は音楽家にとってたしかにプラスでしょう。そういった積極性に加え、この大学の生徒たちは、自分たちは延世の学生であるという高いプライドを持っています。延世の名に恥じないよう勉強しよう、という前向きな心構えと誇り、そして自分を高めようとする意識の高さ、積極性、強い表現意欲、これれらの精神は、間違いなく音楽家になるための必須条件だと思います」

― 先生ご自身の生活についてお聞かせくださいますか?
「学部長になる前は、海外にも演奏旅行に出かけたりしていました。川口のリリアホールや広島の教会などでも演奏しましたよ。けれど、今は学部長職がとても忙しくて海外での演奏会はできません。年間2,3回の国内のコンサートに限られている状態です」

― そういったことにご不満はありませんか?
「学部長職の任期は2年なのですが、私は1年間延長となり3年間の任期になりました。ですから来年まではこの生活が続きます。私はもともと教えることが大好きで、教師になりたかったのです。演奏家になろう、と思って音楽を始めたわけではないのですが、教授としても自ら演奏をした方がいい、ということに気付き、演奏も始めたわけです。」


校内掲示板

他国からの留学生の姿も。。。

― これからの先生の音楽学部長として取り組まれたいのはどんなことでしょう?
「学内の設備を充実させていきたい。そして立派なコンサートホールを造りたいですね。今もあるにはあるけれど満足というわけではないのです。いい設備を完備し、国際的にも有名な大学に成長させていきたいと思っています」

 チョウ先生は、まだハード面での整備がじゅうぶんではないことをおっしゃっていました。確かに、設備のほか、調律や楽器の面でもこれから、、、ということをおっしゃる音楽関係者もいらっしゃいました。
 しかしチョウ先生のインタビューを通じて、音楽への情熱と力強いエネルギー、そしてゆるぎない自信を感じました。この大学から幅広い視野を持った優れた演奏家、プロフェッサーが輩出され、国際的にも活躍していくだろう、ということを確信させるインタビューでした。

 韓国の人はとにかくよく働きます。私の家のまわりには、ハングルが飛びかうエリアがあり、韓国人が経営するお店がたくさんありますが、それらのお店のほとんどが年中無休、とにかく休みません。家族だけでやっているようなお店も多いのですが、ほんとうに頑張っています。
 韓国では子供たちも頑張っています。日本では子供があまり勉強せず、学力の低下が問題になっていますが、韓国の中学生は朝から晩まで実によく勉強するようです。中には、朝7時から夜の9時半まで学校で勉強し、それから塾に行ったり、さらには夜中の3時まで家庭教師が来て勉強する子供もいると聞き、たまげてしまいました。もちろん、このような受験社会は弊害もあります。成績が上がらない、テストでいい点がとれなかった、といったことを悲観してノイローゼになったり、自殺する子供も出たりして、社会問題になっているそうですが、まわりがとにかく勉強をするので、勉強をしないととてもついていけないそうです。競争社会が子供の頃からすでにできあがってしまっているように思えました。

 以前、ハワイにある国際人教育の研究所で学んだことがありますが、ダントツに優秀な学生は韓国出身の女性でした。英語のトイック試験はほとんど満点。ネイティブよりも上という成績です。あるとき、「人生で大切だと思う項目に順に番号をふりなさい」という授業があり、我々日本人は、「仁義」「正義」「友情」などの項目に1番をふっていたのですが、その韓国女性は迷うことなく「競争」を選びました。「競争のないところに努力はなく、努力のないところに向上はない」というのが彼女の説明でした。
 でも、韓国の人たちはとても親切です。家の近くの韓国料理店にソルロンタンを食べに行き、財布を忘れたことに気がついたのですが、まだ2回目だったのに「次のときでいいですよ」と気にもとめませんでした。また、今回の韓国旅行でも、道がわからなかったらとことんわかるまで説明してくれたり、電話のかけ方がわからない私に、自分が代わってかけてくれたり、、、と、ほんとうに親切な方ばかりでした。

 エネルギッシュで厳しい競争と優しさが同居しているように見える韓国人社会。音楽をやっていく上で、このような要素はきっと必要なのでしょう。
 チョン・ミュンフン、チョン・キョンファなど韓国出身の演奏家を見ていると、血の中に「燃えるもの」がまぎれもなくあり、その中から情念がわき起こってくるように思えます。
 韓国の若手音楽家の中から、第2、第3のチョン・ミュンフンが現れるのを期待したいと思います。

文: 久元祐子先生/通訳:ペク・ユンキョンさん


ピティナ編集部
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