会員・会友レポート

韓国音大訪問記(前編)/久元祐子先生

2003/03/12
韓国大訪問記

伝統あるヨンセイ大学

キャンパス内地図

音楽学部キャンパス内

 2003年12月9日成田を発ち、ソウルへ。2時間半のフライトで、鹿児島に行くのとほとんど変わらない飛行時間。その上時差もなし。。。外国という言葉が当てはまらないような近さです。
 翌10日、延世大学の音楽学部をお訪ねし、音楽学部長のチョウ・ミョンザ先生にいろいろとお話を伺うことができました。
 延世大学は、私立の名門として知られる総合大学で、たくさんの学部がある規模の大きな大学です。
 右の写真は、キャンパスの地図ですが、地図を見て音楽学部を探し、10分ほど歩いてようやくその建物に着きました。しかも音楽学部は、長い長い石の階段を上がった丘の上にあります。重い楽器を持っている学生さんなどには、つらいのではないかしら。。。と思いましたが、演奏家にとって必要な体力養成も兼ねて?という気もしてきました。階段ですれ違う音楽学生さんは、しっかりとした足取りでまっすぐに前を見ながら颯爽と歩いていました。

 延世大学は、クリスチャンの大学で、プロテスタントの教えに則って教育されています。ですから音楽科も宗教音楽を教えることから始まったと聞いています。2005年に音楽学部は創立50周年を迎えますが、大学本体は120年になります。
 附属高校などは持たない、大学だけの教育機関ですが、社会教育の役目も持ち、オープンカレッジ(1年コース)も併設されています。去年の新入生は、教会音楽が20人、声楽が30人、器楽が65人、作曲が25人の計140人でした。器楽科65人のうち25人がピアノ科で、残りの40人が、弦、管、打楽器です。
 競争率の高さでも知られる人気大学です。日本では子供の数が減り、音楽大学志願者の減少に伴ってそのレベル低下も指摘されていますが、延世大学にはその心配はまったく無用のようです。

 試験で見るのは、「まず何といっても演奏の基礎的テクニック」でほかの普通学科は参考程度とのことでした。課題曲は、1次がベートーヴェン・ソナタ の一つの楽章とショパンのエチュード、ここで合格者数25人の150パーセントが通過し、2次試験で50パーセントがふるいにかけられるというやり方です。1月が試験ですが、2次試験のうち1曲は自由曲、そして11月15日に指定される課題曲で短期間に仕上げる能力を見る、、、という具合です。日本の大学とそんなに変わらないシステムのように思えます。高校時代の成績が10パーセント、演奏が70パーセント、センター試験の結果が20パーセントという配分で点数が出るそうです。


音楽学部長:チョウ・ミョンザ先生

広いキャンパス

 2001年に音楽学部長に就任されたチョウ先生は梨花大学の出身。
「ほかの教授はみな延世大学出身で、母校に帰ってきて後進の指導にあたっている人ばかり。その中でたった一人の梨花大学出身なのよ」とのことでした。
 梨花大学は、延世の近くにある女子大ですが、地理的に近いのと梨花大学も教義をキリスト教プロテスタントに同じくするという近い関係にあり、昔からこの2つの大学のカップルが多く結婚しているとのことです。近くにはデートコースあり、教会あり、ウェディングドレスを扱うウェディング通りまである、、、という揃いすぎている?!状況で、ドラマを見ているような感じでした。
 話が逸れましたが、チョウ先生はパイプオルガン奏者でいらっしゃいます。もともとはピアノ科出身でオルガンに転向され、アメリカに留学されてパイプオルガン奏者としてのキャリアをスタートされました。
 延世大学が力を入れている宗教音楽科は、パイプオルガンと指揮の分野でできています。オルガン奏者としての実績とあたたかな人柄でチョウ先生が音楽科をまとめていらっしゃるということが容易に想像がつきました。 チョウ先生は、長い演奏活動の中で培われた自信が感じられましたが、権威主義的な雰囲気はまったくなく、フレンドリーで気さくな方でした。そして慈愛に満ちた笑顔、明るくエネルギッシュな声で、私の質問に答えてくださいました。

  ― 好きな事はなんですか?
「うーん。そうねえ。食べることかしら。あなたもそう?やっぱり演奏家は食べなくっちゃね。体力が勝負ですもの。あたし、学生たちと飲みに行ったり、食べに行ったりするのが大好きなの!」
 気軽に学部長と飲んだり食べたり語り合ったりできる学生さんたちは、実に恵まれていると言えるでしょう。「今の学生の間では海外情報があふれていて、世界各地のマスタークラスを受けに行ったり、夏休みなどに積極的に海外に出かけてくることができる。情報を集めてヨーロッパから学び吸収する術をたくさん持っている点で私たちの時代では考えられなかったほど恵まれています」

― 逆にハングリー精神がなくなってしまうことは?
「与えられた条件の中で、それぞれの生徒は、キャリアアップに忙しい。無気力病というのは、私の大学では考えられません」
 延世大学では、特別プログラムが組まれていて、マスタークラスも開かれています。4つの分野で海外から先生を招き、指導を受けることができます。その恩恵に浴することができる学生は、オーディションで選ばれたり、高学年のみということもあるようですが、いずれにしても学生には大きな刺激になっているようです。この試みは2001年から始まったそうですが、2001年といえば、チョウ先生が音楽学部長に就任された年。学部長に就任されるとすぐにこういった意欲的なプログラムにも取り組まれていったと思われます。

― 卒業生の進路は?
「留学する人がほとんどで、ほかは、大学院に進むか、学校、教会、オーケストラに就職する人もいます。」
 レッスンは、週に1回50分。男女比は、4年生までのピアノ120人のうち男子は10人。オルガンは1人しかいません。作曲科も女子が多いようです。ピアノ専攻の学生では、男子学生は入ったときはパッとしなかったり、入学試験の成績が今ひとつでも、入ったあとがんばり、スキルも飛躍的に進歩して成績もアップする人が多いそうです。。

― 先生が教育の上で最も大事にお考えのことは?
「音楽以前の"人間性"です。正しい人間であること。音楽以外の全般的な教養、そういった勉強も非常に大切に考えています。入るときは、たしかに演奏でとりますが、入ってからの私たちの教育では人間教育を重視します。近年韓国では、礼儀作法の乱れが指摘されていますが、この大学ではそういったことも含め、人間性の教育に力を入れています。礼儀や仁義といった伝統の部分を何とか大事にしたいと思います。やはり、人間性は音楽にすべて出るものですから。。。。」

 韓国は、目上の人を敬い、乗り物でも目上の人を前に坐るなんてことは考えられないと言われてきました。韓国の年輩の方からは、「日本に優先席などがあること自体が信じられない。ましてやその優先席でお年寄りを目の前にして座っている若者などがいると目を疑ってしまう」という話を聞いたことがありますが、そういった韓国でも、「近頃の若い者は礼儀を知らない」という声があがっているそうです。


ピティナ編集部
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