2009浜コンレポート

浜コン:3次予選2日目レポート&ファイナリスト発表!

2009/11/18
3次予選2日目、いよいよ今日の演奏終了後にファイナリスト(入賞6名ですから入賞者になることは決定)が発表されます。

※カッコ内は、ファイナルで予定しているコンチェルト曲目です。

07 CHANG Sung(韓国、23歳)ヤマハ
・リスト 愛の夢第3番
・リスト ピアノソナタ ロ短調
・チャイコフスキー 四季 より 11月「トロイカ」12月「クリスマス」
・ストラヴィンスキー 「ペトルーシュカ」からの3楽章(以上、演奏順)
(リスト:ピアノ協奏曲第1番)

2次予選でショパンの練習曲をたっぷり弾いた印象が強烈ですが、テクニックのみでねじ伏せていくわけではなく、センスの良さを随所に感じさせます。シンプルであっさりとした語り口ながら、重要なポイントでは機敏に反応し、すっと表現のポイントを突いてくる繊細なピアニスト。リストのソナタのような大曲では、大きなスケールで捉え、一見情熱的な表現を用いるのですが、終始演奏を客観視する自分が勝ってしまっているような「よそよそしさ」もどこかに残し、メカニックが安定しているだけに、かえって感動から乖離していく違和感が残ります。とはいえ、ペトルーシュカでは高い技術と時に魅惑的な音響を披露し、強い印象を残しました。
チャン3次
「とにかく眠いです。ドイツから浜松へ入ったので、ドイツ時間でいうと今は深夜ですから、疲れがどっと出ています。でも、このコンクールで、良いピアノ、素晴らしい聴衆、見事な運営の中で演奏することができて、嬉しいです」


32 加藤大樹(日本、19歳)ヤマハ
・バルトーク ピアノソナタ Sz.80
・ショパン=リスト 私のいとしい人、家路
・ヴェルディ=リスト 「アイーダ」より 神前の踊りと終幕の二重唱
・グラズノフ ピアノソナタ第2番ホ短調 Op.75
・シュトラウス=グリュンフェルト ウィーンの夜会(喜歌劇「こうもり」等のワルツ主題による演奏会用パラフレーズ)
(プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番)

音楽への衷情と誠実さがとにかくどの作品からもいっぱいに感じられるピアニスト。バルトークは野趣には乏しいもののリズム感が良く、見通しの利いた仕上がり。ショパン=リストでの真心こめた歌は、加藤君ならではの誠実さですが、ロマン派的な感情のうねりはやや控えめ。ヴェルディもこだわりの選曲。自分の持っている音色の配置は成功していますが、音色のパレットは今後さらに多彩にしたいところ。グラズノフでも、パレットの限界を感じさせるのが惜しいところですが、スケールの大きさは日本人にはなかなか聞かれないレベル。シュトラウスも、もっと「遊び」があってもよいところですが、華麗に決めて演奏を締めくくりました。
加藤大樹3次
「コンディションは必ずしも100%といえない状態だったかもしれませんが、でもそのなかで自分のベストを尽くすことはできました。(選曲は)世界でも今同時に10人弾いてる人がいるかいないか、といった曲が多かったですが(笑)、ショパン=リストの心からの歌だとか、アイーダの愛と死のテーマとか、グラズノフの大きな大地や海のイメージとか、シュトラウスの優雅さとか、それぞれ強烈な個性をもった曲を集めてこの舞台で弾けたことは、本当に感謝すべきことでした」


64 尾崎有飛(日本、20歳)ヤマハ
・ベートーヴェン ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110
・シューベルト=リスト セレナード、水に寄せて歌う、どこへ
・メトネル 主題と変奏 Op.55-1
・リスト スペイン狂詩曲
(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番)

ベートーヴェンでは、冒頭から独特の音の充実を見せるところに尾崎君の良さが出ていますが、左右のバランスを工夫しすぎたり個々の音質を考えすぎたりして、むしろ音楽全体の安定や推進を阻害してしまっているのがやや惜しいところです。試行錯誤の跡が見て取れました。得意のシューベルト=リストは、伴奏音型とメロディとのバランスが見事で、音楽としてこなれています。後半はメトネルからリストと、彼の十八番のプログラムですが、音の伸びがいつもに比べて悪く、どこか気持ちが乗ってこない印象がありました。世界的なスケールを持った類まれなピアニストなので、今後、さらなる飛躍に期待したいところです。
尾崎有飛3次
「2次とはずいぶん違う心持ちでステージに上がりました。2次が終わってから限られた時間の中で最後の練習をして、それぞれの曲の評価としては、まあまあだったかな、と思います。」


29 HUH Jae-Weon(韓国、22歳)
・シューマン クライスレリアーナ Op.16
・武満徹 雨の樹素描II オリヴィエ・メシアンの追憶に
・ラフマニノフ コレルリの主題による変奏曲
・リスト=ヴォロドス ハンガリー狂詩曲第13番イ短調
(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番)

若々しく清清しい現実感のある音と高い技術で魅了するピアニスト。シューマンは、やや健康的なキャラクターに偏り、練習で計画したように弾きすぎるきらいはありますが、後半から乗ってきて、音楽に没入しようとする情熱を見せました。武満は、昨日の野木さんとは対照的に、かなり思い切って「歌って」いってしまう解釈ですが、やや疑問を感じます。ラフマニノフ、リスト=ヴォロドスは、持っている音質やピアニズムと相性の良い選曲で解釈の完成度が非常に高いものでしたが、ラフマニノフではヒヤっとさせる箇所もあり、音楽に集中しきれない場面も見られました。
ホジェウォン3次
「とにかく、本当に聴衆の皆さんに申し訳なく思います!!ラフマニノフとリストで、自分でも何が起きたか分からないんですが暗譜が飛んでしまって...。とにかく聴衆の皆さん、ごめんなさい!!!」


20 Elmar GASANOV(ロシア、26歳)ヤマハ
・シューベルト ピアノソナタ第20番イ長調 D.959
・シューベルト=リスト ワルツ・カプリス第6番
・メトネル 若者のためのロマンティックなスケッチ Op.54
・リスト メフィストワルツ第1番
(ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲)

シューベルトの長大なイ長調から開始。細い音ですが、自分の出せる音色の範囲をよく心得ており、その範囲でクリアに響かせ、芯を常に捉えている美しさが他のコンテスタントとは一線を画して成熟しています。時折思い切ってアクセルを踏む箇所も、気分ではなく緻密な音楽的理解に基づいており、1つ1つの要素にたっぷりと音楽的意味を含んでいるピアニスト。洒脱で軽妙なシューベルト=リスト、美しい夕暮れを見るかのような和声感抜群のメトネルを経て、メフィスト・ワルツでさえも音楽の美しさを最優先にした高い音楽性で、独特のピアニズムを印象付けました。
ガサノフ3次
「今日はとにかくダメでした...。どうにもうまく行かなくて。緊張していたのでしょうか、悔いが残ります」(いや、でも素晴らしかったですよ、といくら伝えても、ダメでしたの一点張りのガサノフさん)


36 KIM Hyun-Jung(韓国、18歳)
・ベートーヴェン ピアノソナタ第26番変ホ長調「告別」
・ヴァイン ピアノソナタ第1番
・ラヴェル 「鏡」より 悲しい鳥たち
・シューマン 謝肉祭 Op.9
(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番)

音に深みと力があり、ベートーヴェンから意欲のある音楽を提示して情熱を示していきます。アグレッシブですが、音楽が伸縮性・柔軟性に富んでいるので、乱暴さはなく、かえってしなやかで無理のない表現として成立しています。最近のコンクールでレパートリーに入るようになったヴァインのソナタや、ラヴェルの「悲しい鳥たち」でも、音響の精密さや音色で聞かせるわけではないのですが、自然な流れを体内に感じているので、心地よい安心感があります。シューマンは一転、冒頭から濃厚で骨太な響き。テンションが高く、スケールの大きなコントロールでロマンティックな感性を十二分に見せました。
キムヒョンジョン3次
「シューマンでたくさんのミスをしてしまって...。とりあえず今は終わったので嬉しい気持ちもありますが、それにしてもシューマンでたくさんのミスを。。。」(シューマンが、シューマンが、と繰り返すキムさん)


1時間程度の休憩(審査会議)の後、2日間の中断をはさんで21-22日に行われるファイナル(協奏曲)への進出者が発表されました。
ファイナリストと審査員

★ファイナリストとファイナル演奏曲目

11月21日(土)18時開演
16 Francois DUMONT(フランス、24歳)ヤマハ ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
04 ANN Soo-Jung(韓国、22歳)ヤマハ ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
10 CHO Seong-Jin(韓国、15歳)ヤマハ ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

11月22日(日)14時開演
29 HUH Jae-Weon(韓国、22歳)ヤマハ ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
20 Elmar GASANOV(ロシア、26歳)スタインウェイ ラフマニノフ:パガニーニ狂詩曲
36 KIM Hyun-Jung(韓国、18歳)ヤマハ ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

韓国勢の躍進目覚しく、15歳の天才チョ・ソンジンさんと、韓国国立芸術大学のカン・チュンモ先生門下(または元門下)の3名という、4人の韓国人ファイナリストが並びました。また、フランソワ・デュモンさんとエルマール・ガサノフさんは、既に大人の音楽を確立している成熟した「芸術家」。

日本人3名は残念ながら今一歩のところで姿を消してしまいましたが、多彩な才能の競演に、ファイナルへの期待が高まります。

ファイナリスト記者会見
ファイナリストと中村紘子先生・ウォーターマン先生の記者会見


ピティナ編集部
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