浜コン:3次予選1日目レポート
2009/11/17
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3次予選1日目、85名で始まった浜コンも、いよいよ12名でのセミファイナルとなります。3次は60分のリサイタル。得意の曲目で自分の世界を組み立てますが、疲労や緊張も極限状態の中で、6名のファイナリストを目指し、コンテスタントの熱演が続きました。
会場に掲示された参加者写真のボード。1次を通過した参加者にはピンクの花が、2次も通過した参加者には加えて赤色の花が飾られます。
※カッコ内は、ファイナルで予定しているコンチェルト曲目です。
16 Francois DUMONT(フランス、24歳)ヤマハ
・ベートーヴェン ピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」
・ドビュッシー 前奏曲集第1巻より「音と香りは夕べの大気に漂う」「アナカプリの丘」
・ムソルグスキー 展覧会の絵 (以上、演奏順)
(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」)
2次予選に続き、最初の演奏順で登場のデュモンさん。タッチの多彩さ、バランス、ぺダリング、各作品の深い理解、どれを取っても非常にハイレベルにまとまり、既にプロフェッショナルな音楽性を感じさせます。
今日は、冒頭ピアノの鳴りが悪く、こじんまりとまとまってしまった印象もありますが、それでもその条件下から最大限に美しい音を鳴らしていく技術は一級品。ベートーヴェンからドビュッシーを経てムソルグスキーへ到達する過程におけるタッチや音色の変化、プログラムの組み立て全体が高精度で、作品ごとのキャラクターが明確に描き分けられています。既に、「良し悪し」「優劣」を判断するコンクールというレベルを一人だけ飛び越えて、聴衆が思い思いに「好み」で判定してよい「芸術家」としての音楽が鳴っています。音楽への真心溢れる演奏に、大きな拍手が贈られました。
「演奏はどうだったかな?(またもや、自分のコメントもそこそこに印象をたずねてきます)演奏は無事終わったし、楽しんで弾くことができたから、良かったと思うよ。もちろん、音楽について100%満足するということはありえないわけで、もっとできたのにと思うところはたくさんあるよ。でもそれは僕らアーティストにはつきものさ。今日のところは満足している」
81 Alessandro TAVERNA(イタリア、26歳)ヤマハ
・ベートーヴェン エロイカ変奏曲 Op.35
・メシアン 「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より 喜びの精霊のまなざし
・プロコフィエフ ピアノソナタ第8番 変ロ長調 Op.84「戦争ソナタ」 (以上、演奏順)
(ショパン:ピアノ協奏曲第1番)
浜松で大人気のタヴェルナさん。デュモンさんの柔和な音色から一転して、タヴェルナさんのクリスタルの音色が響き渡るのは、既にこの浜松では三度目。好対照ながら、どちらもピアノから最大限の音色を引き出すという意味で、卓越しています。
ベートーヴェンでは、変奏ごとの性格の変化はよく練られ、時折古典の枠組みを意図的に踏み越えつつ、メリハリのある構成で聞かせます。ただ、それに伴う音質・音色・歌いまわしの変化は、彼が想定しているほどに効果的ではなく、途中やや冗長になった感もあります。メシアンの「喜びの精霊のまなざし」は、彼の音にぴったりの選曲。時に幻想的に、時に宗教的に、特に宇宙的に、音楽から感じられる温度は刻一刻とクレバーに変化させていくさまは見事。プロコフィエフは、第3楽章の途中で残念ながらカット。前ラウンドの彼の出来からすると、今日は音の伸びがやや悪く、もちろんテクニックや解釈は極めて安定して魅力的ですが、どこか消化不良感も否めませんでした。
「セミファイナルというのは、最も難しく、そして最も重要な作品を並べていました。今回のヤマハという楽器の可能性をフルに引き出すことができるか、というのも私にとっては大きなチャレンジでした。それは上手く行ったのではないかと思います。カットについては、ちょっと長いかなとは思っていたのですが、3-4分ほど出ていたでしょうか。切られてしまいましたね...(笑)仕方ないです」
62 野木成也(日本、20歳)ヤマハ
・ハイドン ピアノソナタ ヘ長調 Hob.XVI/29
・シチェドリン 2つのポリフォニックな小品
・武満徹 雨の樹素描II オリヴィエ・メシアンの追憶に
・ムソルグスキー 展覧会の絵 (以上、演奏順)
(チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番)
日本から3人のセミファイナリストのうち、トップバッターは野木成也さんの登場。
ヒステリックにならない、真珠のような渋い輝きを放つ魅力的な音で、タッチ・音色を高度に使い分けていきます。これには、指導者であるドミニク・メルレ先生の教えの影響を考えざるをえません。
冒頭のハイドンは、やや拍子感が不安定なところもありましたが徐々に落ち着き、シチェドリンあたりから本領発揮。ポリフォニーをコントロールする能力も高く、聴き手にイメージを喚起させる演奏です。武満は絶品。自分の音を最後の最後まで聞き分け、左右のタッチの違いによる遠近感の表出など、高度で立体的な音楽作り。特に中音域のまろやかなブレンドはちょっと聞けない美しさです。ムソルグスキーは、最後ややスタミナ切れとなりましたが、極めて色彩的で濃淡豊かな油彩画のような表現で、質の高い音楽性を聞かせました。
「とても良い演奏ができたと嬉しく思っています。聴衆の皆さんも、本当に温かい拍手を贈ってくださって、励まされました。演奏前は音楽を届けることに集中しようとしていました。終わった今は、ほっとしています」
04 ANN Soo-Jung(韓国、22歳)ヤマハ
・ラフマニノフ 前奏曲 Op.23-4,5,6,7,10,2
・リスト ピアノソナタ ロ短調 (以上、演奏順)
(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番)
1次、2次と極めて安定したテクニックが印象的だったアン・スジョンさんですが、このステージは集中し切れなかったのか、体調が悪かったのか、終始集中力を欠くパフォーマンスで散漫な印象を与えてしまいました。ラフマニノフから、彼女らしからぬつまらないミスが相次ぎ、明らかにコントロールを失っていることを窺わせます。ステージを諦めない情熱は痛々しいほどあるのですが、集中しきれません。ラフマニノフを終えていったんステージ袖へ戻り、再度登場。リストの大ソナタは、音楽のテンションに助けられて徐々に本来の輝きのある音や高いテクニックがうかがい知れる内容に。ただし各パートの処理に追われ、それらが有機的に連続して「音楽」としてのストーリー性をもって立ち上がってこないことに苦闘している様子が見られました。
演奏後、大粒の涙を浮かべて「ごめんなさい。ちょっと今お話しできる状態でなくて...」と声を絞り出すアンさんに、かける言葉が見つかりませんでした...。(写真なし)
極限の精神状態で、コンテスタントたちはステージに上がっています。逃げ出すほうがずっと簡単なこと。最後まで表現しようと努力し続けた今日のステージは、きっと彼女の糧になることでしょう。
55 James Jae-Won MOON(オーストラリア、23歳)スタインウェイ
・シューマン アラベスク Op.18
・J.S.バッハ トッカータ ハ短調 BWV911
・ハイドン ピアノソナタ ニ長調 Hob.XVI/37
・ラフマニノフ 前奏曲 ニ長調 Op.23-4
・ラフマニノフ ピアノソナタ第2番変ロ短調 Op.36(1931年版)(以上、演奏順)
(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番)
音楽への温かなまなざしと深い愛情が印象的なムーンさん。2次予選は課題曲を1曲まるまる弾かないほど時間オーバーしたのですが、各作品の歌心溢れる完成度で通過してきました。
シューマンから、通常よりかなり遅いテンポで、1つ1つの音型をじっくり歌い込み、個性を見せてきます。ただ、遅いテンポでも2次のように音楽が美しく流れるのがムーンさんの持ち味なのですが、今日はどこか音楽に流れがありません。バッハ、ハイドンも、どこか感興を示しきれず、シューマン同様の音色にも変化がなく、やや鈍重な作り。ただし、どの作品からも仄かなロマンティックさを丁寧に掬い取り、最大限の愛情をもってそっとホールの空間に提示していく彼の良さは随所に見られます。ラフマニノフは、集中力を欠いたのか、妙に低いテンションに落ち着いてしまい、推進力がほしいところで今ひとつエンジンがかからない印象。気分が乗っているときは音楽の流れの美しさを発揮しますが、そうでないときは途端に流れが停滞してしまう不安定さが、どのように評価されるでしょうか。
「ちょっと集中し切れなかったかな。どうしてかは分からないんだけど...。気持ちが乗ってこなくて、出来にはちょっとがっかりしているよ。まあ、こういうこともあるよね」
10 CHO Seong-Jin(韓国、15歳)ヤマハ
・モーツァルト ピアノソナタ第12番ヘ長調 K.332
・ショパン スケルツォ第2番、同第4番
・ラヴェル 水の戯れ
・リスト ダンテを読んで(巡礼の年第2年イタリアより)(以上、演奏順)
(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」)
セミファイナリスト中最年少は、15歳のチョ・ソンジンさん。2次予選は朝一でしたが、今度は夜の8時半からの最後の演奏者です。
冒頭のモーツァルトから、オーソドックスで無理のない健康的な演奏で、1次で披露したベートーヴェンとのテンションの違いなどもよく心得て、イメージを沸き立たせるようなタイプのモーツァルトではありませんが、純器楽的な美しさとチャーミングさで聞かせます。
続くショパンのスケルツォ、対照的なキャラクターの2番と4番が、圧倒的な名演。ライブの感興に乗ったエキサイティングな演奏なのですが、気品を失う一歩手前、ギリギリのバランスで作品の性格を大づかみに捉え、瑞々しいもぎ立てのフレッシュな姿で提示していきます。ラヴェルはテンポを速めに取り、ややエチュード的なそっけなさも散見されますが、微細なコントロールで調整されていく美しさも最高級。リストのダンテ・ソナタは、黒光りするような中音域の和音の美しさから、一気にストーリーに引きずり込み、途中スタミナ切れはありましたが、それでも自分の音を聴き、音楽が崩壊する方向に持っていかない本能のキャパシティがあり、余裕をきちんと残しての見事な構成。
世界最高の15歳の仰天の60分に、会場からブラボーが飛びました。
「緊張していましたから、とても疲れました。でも良い演奏ができたと思います。モーツァルトは花々のような美しさをイメージして、リストのダンテ・ソナタは地獄や魔王の世界を連想しながら、演奏前は準備していました」
明日は、10時30分から、後半の6名の演奏が行われます。加藤大樹さん、尾崎有飛さんの演奏にも期待が高まります。
会場に掲示された参加者写真のボード。1次を通過した参加者にはピンクの花が、2次も通過した参加者には加えて赤色の花が飾られます。
※カッコ内は、ファイナルで予定しているコンチェルト曲目です。
16 Francois DUMONT(フランス、24歳)ヤマハ
・ベートーヴェン ピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」
・ドビュッシー 前奏曲集第1巻より「音と香りは夕べの大気に漂う」「アナカプリの丘」
・ムソルグスキー 展覧会の絵 (以上、演奏順)
(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」)
2次予選に続き、最初の演奏順で登場のデュモンさん。タッチの多彩さ、バランス、ぺダリング、各作品の深い理解、どれを取っても非常にハイレベルにまとまり、既にプロフェッショナルな音楽性を感じさせます。
今日は、冒頭ピアノの鳴りが悪く、こじんまりとまとまってしまった印象もありますが、それでもその条件下から最大限に美しい音を鳴らしていく技術は一級品。ベートーヴェンからドビュッシーを経てムソルグスキーへ到達する過程におけるタッチや音色の変化、プログラムの組み立て全体が高精度で、作品ごとのキャラクターが明確に描き分けられています。既に、「良し悪し」「優劣」を判断するコンクールというレベルを一人だけ飛び越えて、聴衆が思い思いに「好み」で判定してよい「芸術家」としての音楽が鳴っています。音楽への真心溢れる演奏に、大きな拍手が贈られました。
「演奏はどうだったかな?(またもや、自分のコメントもそこそこに印象をたずねてきます)演奏は無事終わったし、楽しんで弾くことができたから、良かったと思うよ。もちろん、音楽について100%満足するということはありえないわけで、もっとできたのにと思うところはたくさんあるよ。でもそれは僕らアーティストにはつきものさ。今日のところは満足している」
81 Alessandro TAVERNA(イタリア、26歳)ヤマハ
・ベートーヴェン エロイカ変奏曲 Op.35
・メシアン 「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より 喜びの精霊のまなざし
・プロコフィエフ ピアノソナタ第8番 変ロ長調 Op.84「戦争ソナタ」 (以上、演奏順)
(ショパン:ピアノ協奏曲第1番)
浜松で大人気のタヴェルナさん。デュモンさんの柔和な音色から一転して、タヴェルナさんのクリスタルの音色が響き渡るのは、既にこの浜松では三度目。好対照ながら、どちらもピアノから最大限の音色を引き出すという意味で、卓越しています。
ベートーヴェンでは、変奏ごとの性格の変化はよく練られ、時折古典の枠組みを意図的に踏み越えつつ、メリハリのある構成で聞かせます。ただ、それに伴う音質・音色・歌いまわしの変化は、彼が想定しているほどに効果的ではなく、途中やや冗長になった感もあります。メシアンの「喜びの精霊のまなざし」は、彼の音にぴったりの選曲。時に幻想的に、時に宗教的に、特に宇宙的に、音楽から感じられる温度は刻一刻とクレバーに変化させていくさまは見事。プロコフィエフは、第3楽章の途中で残念ながらカット。前ラウンドの彼の出来からすると、今日は音の伸びがやや悪く、もちろんテクニックや解釈は極めて安定して魅力的ですが、どこか消化不良感も否めませんでした。
「セミファイナルというのは、最も難しく、そして最も重要な作品を並べていました。今回のヤマハという楽器の可能性をフルに引き出すことができるか、というのも私にとっては大きなチャレンジでした。それは上手く行ったのではないかと思います。カットについては、ちょっと長いかなとは思っていたのですが、3-4分ほど出ていたでしょうか。切られてしまいましたね...(笑)仕方ないです」
62 野木成也(日本、20歳)ヤマハ
・ハイドン ピアノソナタ ヘ長調 Hob.XVI/29
・シチェドリン 2つのポリフォニックな小品
・武満徹 雨の樹素描II オリヴィエ・メシアンの追憶に
・ムソルグスキー 展覧会の絵 (以上、演奏順)
(チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番)
日本から3人のセミファイナリストのうち、トップバッターは野木成也さんの登場。
ヒステリックにならない、真珠のような渋い輝きを放つ魅力的な音で、タッチ・音色を高度に使い分けていきます。これには、指導者であるドミニク・メルレ先生の教えの影響を考えざるをえません。
冒頭のハイドンは、やや拍子感が不安定なところもありましたが徐々に落ち着き、シチェドリンあたりから本領発揮。ポリフォニーをコントロールする能力も高く、聴き手にイメージを喚起させる演奏です。武満は絶品。自分の音を最後の最後まで聞き分け、左右のタッチの違いによる遠近感の表出など、高度で立体的な音楽作り。特に中音域のまろやかなブレンドはちょっと聞けない美しさです。ムソルグスキーは、最後ややスタミナ切れとなりましたが、極めて色彩的で濃淡豊かな油彩画のような表現で、質の高い音楽性を聞かせました。
「とても良い演奏ができたと嬉しく思っています。聴衆の皆さんも、本当に温かい拍手を贈ってくださって、励まされました。演奏前は音楽を届けることに集中しようとしていました。終わった今は、ほっとしています」
04 ANN Soo-Jung(韓国、22歳)ヤマハ
・ラフマニノフ 前奏曲 Op.23-4,5,6,7,10,2
・リスト ピアノソナタ ロ短調 (以上、演奏順)
(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番)
1次、2次と極めて安定したテクニックが印象的だったアン・スジョンさんですが、このステージは集中し切れなかったのか、体調が悪かったのか、終始集中力を欠くパフォーマンスで散漫な印象を与えてしまいました。ラフマニノフから、彼女らしからぬつまらないミスが相次ぎ、明らかにコントロールを失っていることを窺わせます。ステージを諦めない情熱は痛々しいほどあるのですが、集中しきれません。ラフマニノフを終えていったんステージ袖へ戻り、再度登場。リストの大ソナタは、音楽のテンションに助けられて徐々に本来の輝きのある音や高いテクニックがうかがい知れる内容に。ただし各パートの処理に追われ、それらが有機的に連続して「音楽」としてのストーリー性をもって立ち上がってこないことに苦闘している様子が見られました。
演奏後、大粒の涙を浮かべて「ごめんなさい。ちょっと今お話しできる状態でなくて...」と声を絞り出すアンさんに、かける言葉が見つかりませんでした...。(写真なし)
極限の精神状態で、コンテスタントたちはステージに上がっています。逃げ出すほうがずっと簡単なこと。最後まで表現しようと努力し続けた今日のステージは、きっと彼女の糧になることでしょう。
55 James Jae-Won MOON(オーストラリア、23歳)スタインウェイ
・シューマン アラベスク Op.18
・J.S.バッハ トッカータ ハ短調 BWV911
・ハイドン ピアノソナタ ニ長調 Hob.XVI/37
・ラフマニノフ 前奏曲 ニ長調 Op.23-4
・ラフマニノフ ピアノソナタ第2番変ロ短調 Op.36(1931年版)(以上、演奏順)
(ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番)
音楽への温かなまなざしと深い愛情が印象的なムーンさん。2次予選は課題曲を1曲まるまる弾かないほど時間オーバーしたのですが、各作品の歌心溢れる完成度で通過してきました。
シューマンから、通常よりかなり遅いテンポで、1つ1つの音型をじっくり歌い込み、個性を見せてきます。ただ、遅いテンポでも2次のように音楽が美しく流れるのがムーンさんの持ち味なのですが、今日はどこか音楽に流れがありません。バッハ、ハイドンも、どこか感興を示しきれず、シューマン同様の音色にも変化がなく、やや鈍重な作り。ただし、どの作品からも仄かなロマンティックさを丁寧に掬い取り、最大限の愛情をもってそっとホールの空間に提示していく彼の良さは随所に見られます。ラフマニノフは、集中力を欠いたのか、妙に低いテンションに落ち着いてしまい、推進力がほしいところで今ひとつエンジンがかからない印象。気分が乗っているときは音楽の流れの美しさを発揮しますが、そうでないときは途端に流れが停滞してしまう不安定さが、どのように評価されるでしょうか。
「ちょっと集中し切れなかったかな。どうしてかは分からないんだけど...。気持ちが乗ってこなくて、出来にはちょっとがっかりしているよ。まあ、こういうこともあるよね」
10 CHO Seong-Jin(韓国、15歳)ヤマハ
・モーツァルト ピアノソナタ第12番ヘ長調 K.332
・ショパン スケルツォ第2番、同第4番
・ラヴェル 水の戯れ
・リスト ダンテを読んで(巡礼の年第2年イタリアより)(以上、演奏順)
(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」)
セミファイナリスト中最年少は、15歳のチョ・ソンジンさん。2次予選は朝一でしたが、今度は夜の8時半からの最後の演奏者です。
冒頭のモーツァルトから、オーソドックスで無理のない健康的な演奏で、1次で披露したベートーヴェンとのテンションの違いなどもよく心得て、イメージを沸き立たせるようなタイプのモーツァルトではありませんが、純器楽的な美しさとチャーミングさで聞かせます。
続くショパンのスケルツォ、対照的なキャラクターの2番と4番が、圧倒的な名演。ライブの感興に乗ったエキサイティングな演奏なのですが、気品を失う一歩手前、ギリギリのバランスで作品の性格を大づかみに捉え、瑞々しいもぎ立てのフレッシュな姿で提示していきます。ラヴェルはテンポを速めに取り、ややエチュード的なそっけなさも散見されますが、微細なコントロールで調整されていく美しさも最高級。リストのダンテ・ソナタは、黒光りするような中音域の和音の美しさから、一気にストーリーに引きずり込み、途中スタミナ切れはありましたが、それでも自分の音を聴き、音楽が崩壊する方向に持っていかない本能のキャパシティがあり、余裕をきちんと残しての見事な構成。
世界最高の15歳の仰天の60分に、会場からブラボーが飛びました。
「緊張していましたから、とても疲れました。でも良い演奏ができたと思います。モーツァルトは花々のような美しさをイメージして、リストのダンテ・ソナタは地獄や魔王の世界を連想しながら、演奏前は準備していました」
明日は、10時30分から、後半の6名の演奏が行われます。加藤大樹さん、尾崎有飛さんの演奏にも期待が高まります。
ピティナ編集部
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