浜コン:「審査員は何を考え、何を聴くか」インタビュー(3)ジョン・オコーナー先生
2009/11/16
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「審査員は何を考え、何を聴くか」、第3回は、アイルランドのジョン・オコーナー先生です。
オコーナー先生は、現在、アイルランド王立アカデミーで教鞭を取り、またダブリン国際ピアノコンクールを主宰しています。その一方で、TELARCレーベルから多くの素晴らしいレコーディングを発表し、コンサートも数多く行っていらっしゃいます。ピティナでは、2005年の第2回福田靖子賞選考会の教授・審査員として招聘しています。
現代の国際コンクールの全てを知り尽くしたオコーナー先生は、何を考え、何を感じ、何を聴いていらっしゃるのでしょうか。
審査期間中の貴重なお時間をありがとうございます。まず、先生方に同じ質問を投げかけているのですが、コンクールの場で、未知のピアニストたちに初めて出会うとき、先生はどのような点を特に聴いていらっしゃるのでしょうか。
O:もっとも重要なことは、彼らが良い技能を持っているかどうか、です。その技能とは、楽器をコントロールできているか、美しい音を持っているか、自分を生かす作品を選曲しているか、ステージに出てきたときにある種のカリスマや演奏の輝きを持っているか、これはつまり聴衆とコミュニケーションを図ろうとしているかとも言えましょうか、そういった事柄です。
もちろん多くのことを聞き取ろうと努力していますが、まとめて言うと、おおむねそういうものになろうかと思います。
もし生徒さんがコンクールを受けると言ってきたとき、先生はどのようなアドバイスをし、指導をなさっているでしょうか。
O:コンクールに挑戦しようと思うときに最も大切だと伝えているのは、課題曲をなるべく多く弾いておくこと、それによって作品に対する理解を磨き、ベストを尽くしてその作品をステージで表現できる状態に準備しておくことです。
まず、もしコンクールのステージ上で、ピアニストが依然として音符と格闘するのに忙しい状態だとしたら、我々聴き手はまだ何も言える段階にありませんし、感動するはずもありません。さらに申しますと、作曲家や作品のスタイル・演奏マナーについて、十分に理解がなされていない場合も、聴くべき状態にないといえるでしょう。つまり、作曲家がどんな時代に生き、どこに暮らし、周囲では何が起きていた時だったのか、といった事柄こそが、その作品を生み出した背景に必ずあるわけで、それを理解せずに音符だけをなぞって演奏することに意味があるとは思えないのです。
これらについての準備を十分にしたうえでコンクールのステージに臨むことができるのか、私は生徒たちに問いかけるようにしています。
先生は、レコーディングやコンサート、教授活動、審査などで世界を飛び回っていらっしゃり、本当にお忙しいことと思います。その合間を縫って、演奏活動のための準備をきちんとなさる、その秘訣は何かあるでしょうか?
O:・・・(しばし考え)「Just Do It」ですね(笑)。自分にもよく分かりませんが、幸いにして私はまだたくさんやりたいことがあり、その意欲も十分ですから、今の活動を楽しんでやっていこうと心がけています。
今は、一時期ほどは国際コンクールの審査をしていません。自分自身の演奏活動や他の活動も多くなってきましたから。ですが、時間を見つけて、「教える」活動をしていくようにはしています。教えることが好きなのです。
かつて私は、ベートーヴェンをウィルヘルム・ケンプのもとで勉強し、彼が亡くなると、彼の重要な活動であったポジタノでのマスターコースの教授を引き継ぐことになり、毎年そのコースを担当するという重要な仕事を今も持っています。ケンプがそのコースを始めたのは1957年ですから、ちょうど2007年には50年を記念したドキュメント番組も作られ、NHKでも放映されたと聞いています。私自身、こういった伝統を、次の世代に引き継ぐ使命を持っていると感じています。
最後に、1次予選を終えて、これで今回浜松に登場するピアニストたちを一通り聴いたことになりますが(注:このインタビューは2次予選2日目に行われた)、今回の印象を差し支えない範囲でお聞かせください。
O:今回の浜松では、何人か、特筆すべき才能に出会うことができていますので、本選(ファイナル)も素晴らしいものになると既に確信しています。若い人たちの何人かは本当に輝く才能を持っていますし、もう少しキャリアを重ねているコンテスタントにも内容の深い音楽を発揮している方々がいらっしゃいます。
審査員の控室で、あるいは審査会議の際、我々はお互いに個々の演奏の内容について一切会話をいたしませんので、他の先生方が心の中で、どのコンテスタントが良いと思っているか、何を考えているか、まったく分かりません。よく聴衆の皆さんが「どうしてこの素晴らしい子が次に進まなかったのだろう!?」と仰いますが、私たち一人ひとりも、実は心の中にまったく同じ気持ちを持っているのです。
今回も、実際、1次予選で私が特に気に入ったコンテスタントが1-2名、姿を消しました。とても残念です。コンクールでは、いつもこのストレスが付き物です。審査員が13人もいるわけですから、いつも全員一致などということはありえないのです。
とはいえ、全体のレベルは非常に高いです。まだ2次予選の途中ですが、この2次でさえ、世界的にも特筆すべきレベルの高さで、今日も全ての演奏者が何か特別なものを必ず持っているということに感動しました。1次予選で85名から24名を選ぶのも本当に厳しいものでしたが、2次予選を終えて12名を選ぶのは、これまた難しい仕事になりそうです。
お疲れのところ、ありがとうございました。
常にパワフルで、エネルギッシュ。言いたいことが次々と出てくるオコーナー先生。これからは次の世代を育てていきたい、と仰る真剣さが印象的でした。
審査員は何を考え、何を聴くか。次回は、スペインのホアキン・ソリアーノ先生にお話を伺う予定です。
オコーナー先生は、現在、アイルランド王立アカデミーで教鞭を取り、またダブリン国際ピアノコンクールを主宰しています。その一方で、TELARCレーベルから多くの素晴らしいレコーディングを発表し、コンサートも数多く行っていらっしゃいます。ピティナでは、2005年の第2回福田靖子賞選考会の教授・審査員として招聘しています。
現代の国際コンクールの全てを知り尽くしたオコーナー先生は、何を考え、何を感じ、何を聴いていらっしゃるのでしょうか。
審査期間中の貴重なお時間をありがとうございます。まず、先生方に同じ質問を投げかけているのですが、コンクールの場で、未知のピアニストたちに初めて出会うとき、先生はどのような点を特に聴いていらっしゃるのでしょうか。
O:もっとも重要なことは、彼らが良い技能を持っているかどうか、です。その技能とは、楽器をコントロールできているか、美しい音を持っているか、自分を生かす作品を選曲しているか、ステージに出てきたときにある種のカリスマや演奏の輝きを持っているか、これはつまり聴衆とコミュニケーションを図ろうとしているかとも言えましょうか、そういった事柄です。
もちろん多くのことを聞き取ろうと努力していますが、まとめて言うと、おおむねそういうものになろうかと思います。
もし生徒さんがコンクールを受けると言ってきたとき、先生はどのようなアドバイスをし、指導をなさっているでしょうか。
O:コンクールに挑戦しようと思うときに最も大切だと伝えているのは、課題曲をなるべく多く弾いておくこと、それによって作品に対する理解を磨き、ベストを尽くしてその作品をステージで表現できる状態に準備しておくことです。
まず、もしコンクールのステージ上で、ピアニストが依然として音符と格闘するのに忙しい状態だとしたら、我々聴き手はまだ何も言える段階にありませんし、感動するはずもありません。さらに申しますと、作曲家や作品のスタイル・演奏マナーについて、十分に理解がなされていない場合も、聴くべき状態にないといえるでしょう。つまり、作曲家がどんな時代に生き、どこに暮らし、周囲では何が起きていた時だったのか、といった事柄こそが、その作品を生み出した背景に必ずあるわけで、それを理解せずに音符だけをなぞって演奏することに意味があるとは思えないのです。
これらについての準備を十分にしたうえでコンクールのステージに臨むことができるのか、私は生徒たちに問いかけるようにしています。
先生は、レコーディングやコンサート、教授活動、審査などで世界を飛び回っていらっしゃり、本当にお忙しいことと思います。その合間を縫って、演奏活動のための準備をきちんとなさる、その秘訣は何かあるでしょうか?
O:・・・(しばし考え)「Just Do It」ですね(笑)。自分にもよく分かりませんが、幸いにして私はまだたくさんやりたいことがあり、その意欲も十分ですから、今の活動を楽しんでやっていこうと心がけています。
今は、一時期ほどは国際コンクールの審査をしていません。自分自身の演奏活動や他の活動も多くなってきましたから。ですが、時間を見つけて、「教える」活動をしていくようにはしています。教えることが好きなのです。
かつて私は、ベートーヴェンをウィルヘルム・ケンプのもとで勉強し、彼が亡くなると、彼の重要な活動であったポジタノでのマスターコースの教授を引き継ぐことになり、毎年そのコースを担当するという重要な仕事を今も持っています。ケンプがそのコースを始めたのは1957年ですから、ちょうど2007年には50年を記念したドキュメント番組も作られ、NHKでも放映されたと聞いています。私自身、こういった伝統を、次の世代に引き継ぐ使命を持っていると感じています。
最後に、1次予選を終えて、これで今回浜松に登場するピアニストたちを一通り聴いたことになりますが(注:このインタビューは2次予選2日目に行われた)、今回の印象を差し支えない範囲でお聞かせください。
O:今回の浜松では、何人か、特筆すべき才能に出会うことができていますので、本選(ファイナル)も素晴らしいものになると既に確信しています。若い人たちの何人かは本当に輝く才能を持っていますし、もう少しキャリアを重ねているコンテスタントにも内容の深い音楽を発揮している方々がいらっしゃいます。
審査員の控室で、あるいは審査会議の際、我々はお互いに個々の演奏の内容について一切会話をいたしませんので、他の先生方が心の中で、どのコンテスタントが良いと思っているか、何を考えているか、まったく分かりません。よく聴衆の皆さんが「どうしてこの素晴らしい子が次に進まなかったのだろう!?」と仰いますが、私たち一人ひとりも、実は心の中にまったく同じ気持ちを持っているのです。
今回も、実際、1次予選で私が特に気に入ったコンテスタントが1-2名、姿を消しました。とても残念です。コンクールでは、いつもこのストレスが付き物です。審査員が13人もいるわけですから、いつも全員一致などということはありえないのです。
とはいえ、全体のレベルは非常に高いです。まだ2次予選の途中ですが、この2次でさえ、世界的にも特筆すべきレベルの高さで、今日も全ての演奏者が何か特別なものを必ず持っているということに感動しました。1次予選で85名から24名を選ぶのも本当に厳しいものでしたが、2次予選を終えて12名を選ぶのは、これまた難しい仕事になりそうです。
お疲れのところ、ありがとうございました。
常にパワフルで、エネルギッシュ。言いたいことが次々と出てくるオコーナー先生。これからは次の世代を育てていきたい、と仰る真剣さが印象的でした。
審査員は何を考え、何を聴くか。次回は、スペインのホアキン・ソリアーノ先生にお話を伺う予定です。
ピティナ編集部
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