浜コン:2次予選3日目レポート
2009/11/15
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浜コンは15日、2次予選最終日をむかえました。日曜日ということもあって、1階席はほぼ満席の入り。
Sara DANESHPOUR(アメリカ、22歳)
・ドビュッシー 「版画」より「塔」
・ドビュッシー 練習曲「8本指のための」
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 イ短調 Op.39-6
・西村朗 白昼夢
・ショパン ピアノソナタ第2番(以上、演奏順)
ドビュッシーは、クリアで芯のある発音。印象派的アプローチではなく、タッチの質・スピードを使い分けることで遠近感を出していきます。ラフマニノフでも、瞬間的なアタックで聞かせてきますが、やや整理されていない印象も。メインはショパンですが、集中力の高いパフォーマンスながら、ハーモニーや色調の変化に乏しく、即興的な気分で乗り切っているように感じられる箇所も多く、左を出すなども工夫もありましたが、やや尻すぼみな印象を残してしまいました。
「演奏前は、コンペティションということではなく、皆さんに音楽を届けるという気持ちを持って臨むようにしていました」
尾崎有飛(日本、20歳)
・リスト 超絶技巧練習曲第8番「荒野の狩」
・スクリャービン 練習曲 Op.65-1
・ショパン バラード第3番
・西村朗 白昼夢
・ラヴェル ラ・ヴァルス(以上、演奏順)
リスト冒頭から尾崎君らしからぬミスでヒヤリ、その後、力強さとダイナミクスの幅で聞かせますが、ポテンシャルを知っているだけに、どこか調子に乗り切らないものを感じます。得意のスクリャービンの九度で持ち直し、持ち前のオリエンタルで広がりのある美音で聞かせ、ショパンは、各声部の細部の動きにも俊敏に反応すると同時に、音楽のスケールで見せていきます。難曲ラ・ヴァルスはフランス的音響に偏らず、オーケストラ的な音響で奥行きを感じさせますが、特に後半など、やや作為的な対応で表面をなぞったような箇所があり、今ひとつ気持ちが乗り切らなかったところが心配です。とはいえ、全体のレベルは非常に高くまとめました。
「今日の演奏は、うーん、どうでしょう。練習してきたものに立て直さなければ、というような気持ちがステージ上で働いてしまいました。弾く前は妙に落ち着いていたので、それがかえって怖かったんです。でも、思いっきり弾きました」
Gintaras JANUSEVICIUS(リトアニア、24歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.25-10
・スクリャービン 練習曲 Op.8-12
・リスト ペトラルカのソネット第123番(巡礼の年第2年イタリアより)
・リスト ダンテを読んで(巡礼の年第2年イタリアより)(以上、演奏順)
エチュードでもペトラルカのような静かな曲でも、テクニックは全体に安定し、安心して良質な音楽を常に聞くことができるピアニストですが、一方で、ダンテ・ソナタではやや一面的な捉え方で平板な構成・ストーリー展開になるなど、もう一つ音楽に広がりが感じられません。ペトラルカで見せた叙情は見事なもので、伴奏のコントロールは特筆に値します。ロマンティストのキャラクターがよく出ていました。
「実は、今日は何も食べてないんだ!何か食べて、飲みたいよ。(スタッフから差し出された水を一気飲みして一息)。西村作品は苦労したよ。毎日、彼が言いたいことを考えては、これは違うと思い、また別のことを考え、まるでパズルを解いているようだった」
HUH Jae-Weon(韓国、22歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.10-1
・リスト 超絶技巧練習曲第2番イ短調
・シューマン 謝肉祭(以上、演奏順)
西村、ショパン、リストともに、夢幻的な雰囲気はなく、むしろくっきりとした輝かしい音で現実的な音楽。若々しくもあり、自分の得意な音の種類を心得た清清しさがあります。シューマンも、どの曲でも硬質な音色でのアプローチはやや物足りなくもありますが、強靭なテクニックと器楽的な面白さの表出で、よく神経の行き届いた演奏を披露しました。
「緊張しすぎてしまったのがとても残念です。1次のほうが良くて、今日はひどかったです...」
Tamila SALIMDJANOVA(ウズベキスタン、17歳)
・メンデルスゾーン 厳格なる変奏曲
・ショパン 練習曲 Op.10-2
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 イ短調 Op.39-6
・西村朗 白昼夢
・ショパン バラード第4番
・ドビュッシー 喜びの島(以上、演奏順)
メンデルスゾーン冒頭から魅惑的で幻想的な音色でぐっと引き付け、変奏ごとの音色やタッチの使い分けにレベルの高さを感じさせます。ショパンやラフマニノフの練習曲も、ポジションの移動の際にやや音楽が途切れる箇所はありますが、テクニックの高さが窺えます。ショパンのバラードでは大人びた抑制で微細な表現を、ドビュッシーの喜びの島ではのびのびとした音楽を聞かせ、プロフェッショナルな態度で説得力のある演奏でした。
「まあまあね。(英語がうまくできないので、すみません、とのこと)」
Elmar GASANOV(ロシア、26歳)
・西村朗 白昼夢
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 変ホ短調 Op.39-5
・リスト 3つの演奏会用練習曲第2番「軽やかさ」
・リスト ピアノソナタ ロ短調(以上、演奏順)
西村作品から、かなりアグレッシブで現代的な表現。ラフマニノフは情景が浮かぶ遠近感がありますが、リスト「軽やかさ」はやや危なっかしく、集中しきれない様子が感じられます。ペダルに頼らない音の品の良さはありました。ソナタは熱演。これも時に油断が生じるのですが、適度な感興を乗せながら、テンションを上手に配分し、時間いっぱい(むしろオーバー?)にまとめました。
「何と言ったらいいのか、あまり良くなかったよ...。もっとできたと思う。演奏前は、ベストを尽くして良い演奏をしようと思っていたんだけど、緊張してしまったね」
KIM Hyun-Jung(韓国、18歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.25-11
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 ハ短調 Op.39-1
・ショパン ピアノソナタ第2番
・リスト リゴレット・パラフレーズ(以上、演奏順)
ショパン、ラフマニノフの練習曲は、ミスが皆無ではありませんが、情熱的でごまかしのない力演。何と言っても名演だったのがショパンの2番ソナタ。テクニック的に無理がないのは強みとして、1-2楽章では表現意欲の高い濃厚な歌いまわしが、クセでもありますが「思い」と感じさせるだけの説得力に満ちています。3楽章は一点して沈潜しすぎず現実世界の歌として表現、等身大の無理のない解釈がかえって共感を呼びます。リストのリゴレットも、タッチや歌い方を適度に使い分け、ストーリー構成も見事な熱演となりました。
「無事終わった今はホッとしました。たくさんのミスをしたし、うまく行かないところもあったけど、とにかく終わったから嬉しいです」
以上で、2次予選24名の演奏がすべて終了しました。レベルの高い熱演に、聴衆も大きな拍手を送っていました。
Sara DANESHPOUR(アメリカ、22歳)
・ドビュッシー 「版画」より「塔」
・ドビュッシー 練習曲「8本指のための」
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 イ短調 Op.39-6
・西村朗 白昼夢
・ショパン ピアノソナタ第2番(以上、演奏順)
ドビュッシーは、クリアで芯のある発音。印象派的アプローチではなく、タッチの質・スピードを使い分けることで遠近感を出していきます。ラフマニノフでも、瞬間的なアタックで聞かせてきますが、やや整理されていない印象も。メインはショパンですが、集中力の高いパフォーマンスながら、ハーモニーや色調の変化に乏しく、即興的な気分で乗り切っているように感じられる箇所も多く、左を出すなども工夫もありましたが、やや尻すぼみな印象を残してしまいました。
「演奏前は、コンペティションということではなく、皆さんに音楽を届けるという気持ちを持って臨むようにしていました」
尾崎有飛(日本、20歳)
・リスト 超絶技巧練習曲第8番「荒野の狩」
・スクリャービン 練習曲 Op.65-1
・ショパン バラード第3番
・西村朗 白昼夢
・ラヴェル ラ・ヴァルス(以上、演奏順)
リスト冒頭から尾崎君らしからぬミスでヒヤリ、その後、力強さとダイナミクスの幅で聞かせますが、ポテンシャルを知っているだけに、どこか調子に乗り切らないものを感じます。得意のスクリャービンの九度で持ち直し、持ち前のオリエンタルで広がりのある美音で聞かせ、ショパンは、各声部の細部の動きにも俊敏に反応すると同時に、音楽のスケールで見せていきます。難曲ラ・ヴァルスはフランス的音響に偏らず、オーケストラ的な音響で奥行きを感じさせますが、特に後半など、やや作為的な対応で表面をなぞったような箇所があり、今ひとつ気持ちが乗り切らなかったところが心配です。とはいえ、全体のレベルは非常に高くまとめました。
「今日の演奏は、うーん、どうでしょう。練習してきたものに立て直さなければ、というような気持ちがステージ上で働いてしまいました。弾く前は妙に落ち着いていたので、それがかえって怖かったんです。でも、思いっきり弾きました」
Gintaras JANUSEVICIUS(リトアニア、24歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.25-10
・スクリャービン 練習曲 Op.8-12
・リスト ペトラルカのソネット第123番(巡礼の年第2年イタリアより)
・リスト ダンテを読んで(巡礼の年第2年イタリアより)(以上、演奏順)
エチュードでもペトラルカのような静かな曲でも、テクニックは全体に安定し、安心して良質な音楽を常に聞くことができるピアニストですが、一方で、ダンテ・ソナタではやや一面的な捉え方で平板な構成・ストーリー展開になるなど、もう一つ音楽に広がりが感じられません。ペトラルカで見せた叙情は見事なもので、伴奏のコントロールは特筆に値します。ロマンティストのキャラクターがよく出ていました。
「実は、今日は何も食べてないんだ!何か食べて、飲みたいよ。(スタッフから差し出された水を一気飲みして一息)。西村作品は苦労したよ。毎日、彼が言いたいことを考えては、これは違うと思い、また別のことを考え、まるでパズルを解いているようだった」
HUH Jae-Weon(韓国、22歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.10-1
・リスト 超絶技巧練習曲第2番イ短調
・シューマン 謝肉祭(以上、演奏順)
西村、ショパン、リストともに、夢幻的な雰囲気はなく、むしろくっきりとした輝かしい音で現実的な音楽。若々しくもあり、自分の得意な音の種類を心得た清清しさがあります。シューマンも、どの曲でも硬質な音色でのアプローチはやや物足りなくもありますが、強靭なテクニックと器楽的な面白さの表出で、よく神経の行き届いた演奏を披露しました。
「緊張しすぎてしまったのがとても残念です。1次のほうが良くて、今日はひどかったです...」
Tamila SALIMDJANOVA(ウズベキスタン、17歳)
・メンデルスゾーン 厳格なる変奏曲
・ショパン 練習曲 Op.10-2
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 イ短調 Op.39-6
・西村朗 白昼夢
・ショパン バラード第4番
・ドビュッシー 喜びの島(以上、演奏順)
メンデルスゾーン冒頭から魅惑的で幻想的な音色でぐっと引き付け、変奏ごとの音色やタッチの使い分けにレベルの高さを感じさせます。ショパンやラフマニノフの練習曲も、ポジションの移動の際にやや音楽が途切れる箇所はありますが、テクニックの高さが窺えます。ショパンのバラードでは大人びた抑制で微細な表現を、ドビュッシーの喜びの島ではのびのびとした音楽を聞かせ、プロフェッショナルな態度で説得力のある演奏でした。
「まあまあね。(英語がうまくできないので、すみません、とのこと)」
Elmar GASANOV(ロシア、26歳)
・西村朗 白昼夢
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 変ホ短調 Op.39-5
・リスト 3つの演奏会用練習曲第2番「軽やかさ」
・リスト ピアノソナタ ロ短調(以上、演奏順)
西村作品から、かなりアグレッシブで現代的な表現。ラフマニノフは情景が浮かぶ遠近感がありますが、リスト「軽やかさ」はやや危なっかしく、集中しきれない様子が感じられます。ペダルに頼らない音の品の良さはありました。ソナタは熱演。これも時に油断が生じるのですが、適度な感興を乗せながら、テンションを上手に配分し、時間いっぱい(むしろオーバー?)にまとめました。
「何と言ったらいいのか、あまり良くなかったよ...。もっとできたと思う。演奏前は、ベストを尽くして良い演奏をしようと思っていたんだけど、緊張してしまったね」
KIM Hyun-Jung(韓国、18歳)
・西村朗 白昼夢
・ショパン 練習曲 Op.25-11
・ラフマニノフ 絵画的練習曲 ハ短調 Op.39-1
・ショパン ピアノソナタ第2番
・リスト リゴレット・パラフレーズ(以上、演奏順)
ショパン、ラフマニノフの練習曲は、ミスが皆無ではありませんが、情熱的でごまかしのない力演。何と言っても名演だったのがショパンの2番ソナタ。テクニック的に無理がないのは強みとして、1-2楽章では表現意欲の高い濃厚な歌いまわしが、クセでもありますが「思い」と感じさせるだけの説得力に満ちています。3楽章は一点して沈潜しすぎず現実世界の歌として表現、等身大の無理のない解釈がかえって共感を呼びます。リストのリゴレットも、タッチや歌い方を適度に使い分け、ストーリー構成も見事な熱演となりました。
「無事終わった今はホッとしました。たくさんのミスをしたし、うまく行かないところもあったけど、とにかく終わったから嬉しいです」
以上で、2次予選24名の演奏がすべて終了しました。レベルの高い熱演に、聴衆も大きな拍手を送っていました。
ピティナ編集部
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