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精霊たちの踊り/グルック:精霊たちの踊り

2008/10/10 | コメント(0)  | トラックバック(0)  | 

ピアノを弾く時に「天国の中を覗いているような」瞬間がたまにあります。ものすごく幸せな瞬間です。別にピアノを弾かなくても、音楽を聴く時、同じような瞬間を時々経験する事ができます。まだはっきり覚えているのは高校時代・・・音楽史の先生が授業でパーセル作曲のオペラ「ディドとエネアス」から、最後にディドが歌う嘆きの歌「When I am laid in earth」を聴かせてくれたこと。歌の最後"Remember me, but ah! forget my fate."(私を忘れないで、でも、私の運命は忘れて!)、という歌詞と美しい音楽がじーんとさせるところがあります。クラスの皆がすごく静かになって教室中に特別な雰囲気が漂っていた。私だけではなくクラス中が感動していました。

ピアノを練習する時もたまにそんな瞬間があります。朝練(朝の練習)の時にはあんまり無いですが、時々夜に。私の家には蛍光灯がありません。全て間接照明でとても弱い光を出すライトばかりです。そしてキャンドルも・・・。その雰囲気の中で音楽を聴くと、周りにある世界を忘れて幻想の世界に入り込んでしまう時がある。練習というより「演奏」になるような感覚です。練習の時は自分の音を1音1音、客観的に聴こうとして音を確認しながら慎重に弾きます。でも夜ひとりの演奏の時は頭を使うよりハートで弾きます。客観的に聴かないから良い演奏かどうか分かりませんが、とても乗っていて「超気持ちい?い」気分で弾けます。ピアノの調子が良くて・・指の調子も良くて・・雰囲気も良いと、一瞬天国の中を覗いているように感じます。ピアノを弾いている人には是非同じような気持ちを味わってみて欲しいです。

やっぱりこれは芸術の力ですね。ある作品を見る・聴く・読む(食べる!)と心がどこかへ移動してしまいます。口の中にウニを入れて「あ?天国です!」とよく聴きますが、音階を弾く人の口から同じセリフが聞こえた事がないです。ま?音階は芸術作品ではないかも知れませんが、素晴らしい素材です。ピアノからド・レ・ミの音色が出る事・・耳で聴ける事・・はすべて素晴らしいことです。1人の先生がこんな事をよく言っていました。何日間も砂漠にいる自分をイメージして。音が一切どこからも聞こえない・・・とその時に突然ピアノの音が聴こえたら何と嬉しいだろう!私はその言葉を忘れられません。

今回の曲はグルックのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」からの「精霊たちの踊り」です。これはギリシャの神話の話を元にしたオペラです。この神話の主人公、オルフェオは1人のミューズから生まれました。そして彼はアポロから金のリラ(竪琴)をもらいました。オルフェオの演奏はなによりも美しく、神様たちは彼の演奏が大好きでした。ある日のこと、オルフェオの奥さんエウリディーチェが蛇に噛まれて死んでしまいました。彼女のお墓で嘆き悲しんで歌っていたオルフェオに、クピド(キューピッドまたはアモル)が話しかけます。「亡くなったエウリディーチェを取り戻すために君を天国に行かせてあげよう、ただし、彼女を連れて帰る時に絶対に顔を見てはいけないよ。」

天国の入り口にたどり着きましたが、亡くなった人々の怒りから生まれた「復讐の3女神」がオルフェオを通してくれません。でもオルフェオがリラを弾き出すと、その美しい音楽に3女神の心が溶けて優しくなって、彼の音楽に合わせて踊り、天国への入り口を空けてくれます。

ギリシャの神話によると天国の中に「エリジウム」があります。ここには英雄や心美しい人々が死後に住む極楽・理想郷があります。オルフェオがここに着くと、エリジウムの精霊達が踊ります。グルックがこのシーンのためにとても美しい音楽を書きました。その旋律は普段フルートが演奏しますが、私は今回それをピアノで弾きます。・・・この話はどう続くかは、 グルックのオペラで聴いてみて下さい。

今回の曲の中に感動する瞬間がいくつかあります。オルフェオの嘆きは本当にジーンと来ます。亡くなった人に「戻ってきて」と小さな声で叫ぶように聴こえます。連載に愛猫「ヌキちゃん」が亡くなったことを書きました。これを弾く時、私はヌキちゃんに向かって歌い、弾いている。とても、とても悲しくなりますが、大好きな曲です。

オペラには出ていませんが、オルフェオが亡くなった時、ミューズ達が彼のリラをお空の星の間に置きます。今でも空を見ればオルフェオのリラが見えて、彼のなによりも美しい音楽が星から流れてくる。そして、私が空を見上げるとヌキちゃんが見えるように感じています。神話って本当に素敵ですね!!!

それでは、また!


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