何でも「生み出す」ことが出来るのは、人間の持っている最高の力だと思います。
ピアノの美しい音も「生み出す」ものです。平面上に残された楽譜を、音にして生み出し、感動を呼びます。
芸術作品はもちろん、日用品である工業製品、便利なパソコンなどの精密機械。すべて人間が考え出し、生み出したものです。日々便利になり、豊かな生活を送れるようになっているはずです。それなのに、本屋さんには「心の豊かになるための方法」やら「精神力アップ」にかかわる本が数多く並んでいます。私の本棚にもたくさん並んでいます。なぜか頼りにしたくなるということでしょうか。
心を豊かになるためにこそ、ピアノを弾いて欲しいところです。
何にでも言えることですが、同じ「作る」なら、合理的にしたほうが良いと思います。それを行おうとするとき困難にぶち当たったり、相当な努力が必要だったりします。
それを、速く合理的に解決するためには、創意工夫が必要です。
これだけの最新技術を生み出せる人間です。簡単な事でも、少し頭を使えば、さっと解決してしまうことも多いでしょう。
「人間、頭は生きているうちに使う!」というのは、私の母の口癖です。「ちょっと頭を使えば、できるでしょう!」と、生活上の不便を創意工夫でさっさと解決していきます。器用で行動力のあるその仕事振りはいまだに真似できず、敬服しています。
ピアノの練習も同じです。
これまで述べてきたテクニックや読譜に関して、指導者が考えた創意工夫はこれまでの指導法を大きく変えています。
子供たちが忙しいという現実は変えようがなく、きっと、もっと頭でっかちで心遣いの出来ない人間が増えていくのではないかと懸念する今日。縁あってピアノを習い始めた子供たちだけでも、心優しく豊かに育って欲しいです。
そのためには、創意工夫することによって、良い方法を教え、回り道をせず、努力がそのまま結果にでるようにしてあげたいです。努力しても無駄になってしまった場合が、最も悲惨です。「方法」まで導いても努力する気がないなら、こんどは努力させる方法を創意工夫します。
指導者にとって、教えている子が上手くならない、ピアノを嫌いになるという最悪の困難を克服することほど、やりがいのある事はありません。それには、年齢にあった創意工夫が必要です。それを見つけて、上手くいったときの喜びは極上です。工夫のし甲斐があり、さらに違うことも試したくなります。
私の場合、それを他の指導者の先生方に、伝える機会を頂いています。そのことによって、指導に意欲が出たというようなレポートや、「目からうろこです!」などのコメントを頂いた時には、また違った感動があります。
世の中には、特許を取るような発明・工夫があります。ピアノ指導者の創意工夫には、特許こそありませんが、同等の価値があると思います。
先生方がよりよい指導を目指し、習い始めた人皆が、ステキなピアノを弾けるための近道を創意工夫する事が、指導者の生きがいになると思います。
そして、学ぶ人たちには楽しく合理的に学んだものが定着し、自分でも創意工夫が出来るようになって、レッスンでの色々な経験が、曲作りにも、人間の生活においても役立つ事を願います。
現代には「マニュアル人間」という言葉も生まれました。指示されないと動けない。創意工夫して合理的に教えてあげた事も、いつも助けがないと自分では「使えない」。それでは困ります。
ただ、知らない事をいくら「知りなさい」と言っても、どうしようもありません。創意工夫は、あくまで自分の力で、ピアノが弾けるようになることを導くためのものです。練習上での創意工夫も身に付けていかないと、曲が難しくなるにつれ、弾けなくなってしまいます。
ピアノのレッスンとは、ピアノが弾けるようになるだけではなく、人間的にも成長でき、生活をしていく上での大切な事も共に学べることだと思います。
私は、一人でも多くの人にピアノを学んで欲しいと思っています。そしてその中から、日本の将来を引っ張っていく人たちがたくさん誕生すると良いと思っています。それは、色々な苦難を乗り越える創意工夫が出来る人たちかもしれません。音楽を心から楽しむことができる、心に余裕のある人がリーダーにならなければ、豊かな国にはならないのではないかと思います。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。
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