理想の生徒、指導者について述べましたが、ではレッスンはどうあるべきか?
「どうあるべきか」など、決められるものではありません。「理想の指導者」であれば、良いレッスンができるものだと思います。また、その人その人に今必要な何かを見極め、与え、導くことが出来るのが理想なので、その実態は種々さまざまだと思います。
しかし、あえて指導者、生徒の双方からみた「理想のレッスン」を考えて見たいと思います。
「週に一度の定期レッスン」という形は多いと思います。その練習期間に見合う宿題が出され、生徒が取り組んだ成果を先生が聴く、というのが基本だと思います。
しかし弾いてきた内容のチェックだけで終わるなら、とても楽です。弾けてないところを指摘し、練習してきたことへの評価が必要です。ある程度までは、生徒が自分で出来なければなりません。自分の出来ないこと―たとえば、楽譜に書いてあること以外のこと―その曲に必要なニュアンス、センスなどを伝えることこそ、最も重要だと思います。
生徒が「知らない事」を伝えるのが大事です。自分の出している音を客観的に聴けず、知らず知らず、美しさから遠のいていることへの指摘。もっと感じ方を変えた方が良いという指摘など、自分では気づけないポイントを伝える事が重要でしょう。
一回のレッスンで最も大事にしている事は、「生徒が、自分の指摘・指導によって、より良く変化する。」ということです。
そのためには、生徒にはよく話を聞いてもらうしかありません。聞かない言い訳をさせないように、わかりやすく興味の持てる話を年齢に応じて考えないといけないかもしれません。
そして効果が上がり、音やムードがより良く変化した時には、しっかり、良くなった事を伝えてあげる!
これがなかなか日本の指導者は出来ないようです。導入期のレッスンで使用しているバスティン・メソード作者の、ジェーン・バスティン先生は、少しでもよくなったときには「ブラボー!」と言って満面の笑み浮かべます。バスティンスマイルという名前が付いているほど、ステキな笑顔です。
自分が導くことにより、成果があったことを心から喜ぶとともに、それを伝えることで、相手にも「がんばって注意したから良くなった」という「嬉しい!」気持ちを自覚できることが、理想だと思います。
抽象的な音や音楽のことですから、自己評価が出来るまでには、かなりの経験が必要です。それでも、誰もが自分のしたことを喜ばれるのは嬉しいはずです。最初はそれを頼りに、先生の評価を求めて弾くことも良いと思います。そういう嬉しい事がたくさんあるレッスンは理想ですね。
レッスン中に不機嫌になる場面が多いことには反省です。でも、理想の音楽から遠いものを聴かされるということは、理想に導くために、これから、数々の喜びに出会えるかも知れないということでもあります。
ですから、その場で適切にアドバイスし、生徒がどんどん変わってくれるようにレッスンしたいと思います。そして、共に良くなった事を喜べるレッスンにしたいものです(88理想の生徒でも述べています)。
ピアノのレッスンは、長い期間の教育と思っています。年齢に応じたレッスンのポイントも必要です。
まず導入から初歩までの間は、知らないことだらけです。0からの出発です。指で鍵盤に触れること、理想の手の形(テクニックの項目をご参考に)など、初めにきちんと指導しなければなりません。全ては基本からですね。良くない弾き方になることは、ほとんどすべて指導者が悪かったと思うべき、と感じるほど、初歩教育は難しいです。しかも、「がみがみ」言って、ピアノを嫌いにさせたのでは仕方がありません。初めからできるわけではなく、じっくり様子を見ながら、悪い癖が付かないよう見守る事が大切です。常に「遊んでいる=学んでいる」状態のレッスンが理想です。早く先生のところに行きたいと思う楽しいレッスンが理想ですね。たくさん弾くより良い指でよい音でという「質」が大切な時期だと思います。
次に、初級に入った段階では、音楽の仕組みや基本テクニックなど、まだまだ教えるべき事が多いので、弾いてきた事への指導より、予習や、曲の興味が持てるような知識を注入する時間が必要です。
知る喜び、知って弾くことで充実できることをレッスンで積み重ねます。今、自分の力で弾ける簡単な曲にたくさん出会って、それを聴かせてもらい、共に喜ぶこともこの時期です。質も大切ですが、より「量」にこだわる時期です。練習の習慣性も付いて欲しいです。
基本が出来、弾き方や、音楽の仕組みもわかった、中級・上級になると、はっきりした一週間の目標を持てるようにします。一挙にレベルアップできるコンクールなどを利用しながら、より良くなるためのアドバイスしてもらえるように、自分で努力してレッスンにやってくる。
毎回のレッスンでの変化を共に喜び、それを元にさらに次回までモチベーションを保てるようなレッスン。もちろん、努力しないと弾けない曲を選ぶところまでレベルが上がってきて、それを効率よく弾かせてあげる事も、この段階で大事なことです。「質」も「量」も必要な時期です。少しずつ確実に、「芸術」を深めていく自覚を促せるレッスンが理想となるでしょう。
しかしどの段階でも、指導という行為によって、より良くなる事をめざし、良くなった事を心から喜んであげ、指導者と生徒の双方にとって大切な時間となる事はかわらず、「理想のレッスン」でしょう。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。
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