前回までにご紹介した「即読譜法」は、メロディーの中での音と音のつながりのうち90%が3度以下の音程であることに着目し、3度までの音程を「即」見極めて指の動きつなげるようにします。この方法によって、初見が早くなるということがわかっていただけたと思います。しかし「メロディーだけのこと?」とも感じられるかもしれません。
和音や重音では、同時にたくさんの音を弾くことになります。読譜もより要領良くする必要があります。和音を見る際も、「即読譜法」の感覚を取り入れてください。
和音は3度ずつ重なっている形として見る事が基本です。
音が3度ずつ(三和音の場合は3つの音が)重なっていれば、それは和音の基本形(串団子のような形)です。転回形で現れる場合は、4度の音程が含まれます(7の和音の場合は2度の音程も含まれます)。それを見分けるだけで、とても楽に弾けるようになります。一つ一つの音が完全にわからなくても、その音程の感覚を使えるからです。
楽譜の和音の部分では、まず、3度を見つけてください。
たとえば、ベートーヴェンのソナタ1番、冒頭の左手、2小節目の初めの和音は、f mollの主和音の基本形(ファラ♭ド)です。
次の和音の形をみると下3つの音が3度音程です。前の和音では、「線」どうしの3度でしたが、それが「間」どうしの3度に下がっています。この3つの音で(ミソシ♭)となります。この和音では、その2度上にも音(ド)が加えられています。
このように、音名を下から一つ一つ調べていくのではなく、どのように隣に動くのかを考えると、手の形がスムーズに移行すると思います。
2段目は、もう少しわかりやすいかも!
一小節目は一段目と同じく主和音(ファラ♭ド)から。そして下の2つの音の流れを見ると、ずっと3度で移行しています。しかも、「線の3度」の次は「間の3度」。と、3度の重音で音階になっています。最後は1音ですが、8小節目のドの音まで、バスのラインは、(ファソラシ♭ド)。
一方、一番上の音は、最初のドから3度上がって「ミ」になった後はやはり音階。下線が付いた音でも、横に読んでいけば簡単に音がわかりますし、より音楽的に弾けると思います。
和音の形も、6小節目から同じ第一転回形の形が平行移動していく、ということがわかると覚えやすいと思います。
ベートーヴェンのソナタを練習するまでになって「音がわからない」という人も少ないと思いますが、同じ事は、特にチェルニーの練習曲やソナチネなどでも役立つと思います。
和音の構成音を一つ一つ読んでいると、3音×和音の数だけあります。この譜例上だと、8小節で、51個ありますが、同じものを除いたとしても、24個の音を読まなければなりません。しかし「即読譜法」のやり方ならほとんどその神経はいらなくなり、和音が連結するところ7回だけに注目すれば済みます。しかも連続して覚えることができ、続けて弾けますので、このほうが一つ一つ音を拾うよりも絶対に音楽的です。
結局、和音の場合も、音程はそれほど飛んでいない事が多いです。譜面に和音が現れると緊張してしまう人がいますが、ステキな音の重なりに心が向かうように「譜読みは簡単!」と、気分も体もリラックスして美しく響かせてください!
もう一言。分散和音になっている伴奏形が多いです。その場合は、どんな響きかを確かめるため、また、読譜を早くするためにも、(楽譜と手の動きを即、繋げるために)元の和音を分散させずに弾いて、和音の連結を「スムーズ即読」することをお勧めします。
あるとき高校2年生の生徒がやってきました。とても音楽性のある人でした。
ところが新曲を渡した翌週、まるで練習をしていないような譜読みの状態です。一段弾くのに止まり止り、間違え間違え。とても音楽といえるものではありません。毎年コンペでも上位に行く人でしたので、びっくりしました。
観察していると、10個くらいある和音の下の音から一つずつ確かめて弾いているようです(リストの曲なので音の数が多い)。そして次の和音を読むときも、ほとんど1音か2音違うだけの和音なのに、確認作業がまた下の音から繰り返されていくようです。
こんなことをしていて、「いつこの曲は弾けるの?」と言う感じでした。
聞いてみるとやはり、コンクールの曲とかの譜読みに相当な時間がかかるため、課題曲が出てから、4~5ヶ月その曲だけしかしていなかったようです。
なんとステキな曲に出会わずに子供の頃を過ごしたのだろうと、かわいそうになりました。そして、こんなに譜読みに時間を取られても、ピアノを弾き続けてきた事に感心しました。とても好きだったからこそ、なのでしょう。
そこで、即読譜法のやり方を指導したところ、2、3ヵ月後には、10倍くらい早くなったと思います。
2、3年たつと、ショパンのエチュード2曲スケルツオ1曲程度を、平気で1週間で、譜読みができるようになりました。その生徒は大学卒業後ドイツに留学し、リサイタルを開くピアニストになりました。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。
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