ピアノの演奏は、その人の心を映し出すと思っています。
もちろん、美しい心を持っていても、それを表現する技術力(テクニック)を持っていなければ表現できないこともあります。しかし、今弾いている曲を素直に美しく弾きたいと思えば、解決策を考えて練習することになりますから、結果的に美しい演奏につながります。
いらいらした事や不満が心にあり、ピアノに向かった際、良くない気分がそのまま音に出ることに、思い当たりませんか?
何も感じることなく義務的に練習をこなした時、「ただ音を並べてしまった」と思うことはありませんか?
「今日の夕食なんだっけ?」などと、ほかのことを考えながらでもピアノは弾けてしまいます。しかしそういう時は注意力も散漫ですから、もちろん、感動するわけがありませんね。
いつも言うことですが、感情を込めて演奏しても、何となく演奏しても、時間は同じだけ経過します。演奏することは心地良い気持ちになれる良い機会ですが、ただただ、時だけが過ぎてしまうこともあるのです。
皆さんはせっかく、ピアノを弾くことができるようになったのですから、この素晴らしい楽器に触れられる、貴重な時間を楽しみましょう。
前回までにも再三お伝えしてきた「心を音に表し、それを聴いて楽しむ回路」とともに、感じる心。さらには様々な出来事に感動する心を持っていると、表現力が高まり、演奏力もアップするわけです。
日常のちょっとしたことに感動できる事は、音楽家にとってとてもプラスです。ピアノを弾く時には、その感動が心の引き出しにたくさんあることが、演奏に表れると思います。
たとえば、海の青さを見て感動。
暑い夏が終わり、心地よい秋の風を感じて、静かな感動。
白い萩の花が満開。緑の芝生と萩の葉の中で輝いている様子に感動(植物は輝く時を逃さず、毎年忘れず楽しませてくれます。自然の美しさには常に感動します!)。
絵画であれば、その美しさや描かれた過程への賞賛とともに、この絵に出会えたという感動(そこに行かなければ出会わなかったわけですから)。
演奏会では、素晴らしい音楽が生まれる瞬間に立ち会えた感動。(時に、何も伝わってこずに、さびしく帰ることもありますが)
日々の出来事で受けるちょっとした「感じ」を「感動」と呼ぶのは言葉がオーバーな気もしますが、何気なく日々を送るより、「感動」しながら過ごすと得だと思います!
そして、その感動は音楽につながります。ピアノの音を敏感に聴き、感動しながら毎日練習できればどんなに幸せかと思います。
演奏する時も、ちょっとしたことに感動しながら進んでいきましょう。
「ここ、すごく好き!」とか、
「ここはすごく不思議! 不思議なハーモニー!」、
「作曲者は何を考えたんだろう?...これが言いたかったんだね!」
「なんて甘い音! なんて透明な音!(と、これは自分自身をほめているかのようですが)」
そんなことを考えながら弾いていくと、更にステキな音が返ってきて、また少し感動。
夕食のメニューを考えることより(?)、ずっとステキな時間になるはずです。
そして、それは自分ばかりでなく周りの人も幸せにします。自分の感動を心のこもった音で素直に伝えてあげれば、家族や先生など、その時その場所をともにした人たちが皆幸せになれる。音楽ってそういうこと、ピアノを弾くってそういうことなのではないでしょうか?
ピアノを通して、毎日感動がある、心豊かな日々を送れると良いですね。
ある男の子が、「サンセットプレリュード」(バスティン「コラージュオブソロ5」中の一曲)を弾いた時、「バスティン先生のおうちから、夕日が、海に沈んでいくのがすごく素敵に見えるのよ。この曲はきっと、それを見て作曲したのでしょうね!!といったのですが、その、お母様は、その子に、ステキな夕日の沈む海を見せに連れて行ってくださったそうです。
その夕日の美しさへの感動とともに、曲はとてもステキに仕上がり、その感動は、彼と彼のお母様。そして、私のステキな思い出にもなり、心の中に深く残りました。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。
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