100のレッスンポイント

039.人に伝わるためには?

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2010/08/27

 表現したいものを人に伝えるには、よほどはっきりとした意思を持たなくてはならないと思います。度々言ってきたように、「音」というすぐ消えてしまう、抽象的なものによって自分の言いたいことを伝えるのですから。

 しかもコンクールなどで、ホールで弾くような時はなおさら大変です。広い会場の、客席の隅々の人まで、空気の振動によって伝えるわけです。「ここはこう思って弾いています」と言葉で説明を付けられるわけではないので、「強く深く想い、伝えたい気持ち」をしっかり持つことが必要と思います。

 単純なフォルテやピアノに関しても、もちろん、作曲者の気持ちを考えつつ、必ず書いてある指示に従って演奏することになります。ところが、指導をしていても、知っていて演奏しているつもりなのか?無視しているのか?ほとんど変化のない演奏があります。
当然、その理由を尋ねてみると、たいていの場合「やってるつもり」らしい。自分が「思っていても伝わっていない」ものは、残念ながら「思っていない」のと同じくらいにしか表現していないことになります。

 「音色を変える」ことの大切さも、近頃のコンクールなどではよく指摘されます。音色の変化を工夫することを覚えた生徒たちの多くは、面白くなって色々と試みます。しかしその変化を人に伝えるには、かなり大きく前後の変化がないと伝わらないと思います。コンクールなどでの広い会場では、さらに必要です。

 バレエの本番のメイキャップは近くで見ると濃すぎておばけのようですが、客席からだととても美しく見えます。そのくらいはっきり描かないと、目も口もわからない。

 ピアノも同じかもしれません。

 コンクールでは、オーバーなアクションが付く過度な表現もよく見かけます。それは見た目に疑問を感じますが、がちがちの体で「心がどこに??」という演奏では、やはり伝わりません。強く訴えたいところと、流れるように進む時では、体の動きも違ってくると思います。自然な動きで、自分の表現が、聴く人が理解しようと努力しなくても伝わる、そのような演奏のためには、ややデフォルメ(強調)が必要かと思います。

 単純な強弱の付け方について考えてみます。
よく「フォルテは3種類くらい持っていればよいが、ピアノは無限大にたくさんのピアノの種類がないといけない」と言われます。
 フォルテは、特に女性や子供には出せる限界があります。私自身、柔らかい深い音を目指すことを心がけているくらいでしょうか。いっぽう、ピアノを出す場合は、ソフトペダルもありますし、コントロールの仕方次第で、かなり感情のこもった音が出せそうな気がします。
鳥肌が立つほど感動する部分とは?
 それは、たいていピアノの部分だと思います。極上の美しい音を、耳を済ませて聴きたくなるような、ぞっとするピアニシモが出せると感動をよびます。
 その対極に、はっきりとしたパワフルなフォルテを併せ持ち、ピアニシモとフォルテシモの間で、いくつものレベルの強さで演奏できると、かなり表現力がアップすると思います。

 人に伝わる、はっきりと差のある演奏を目指すには、特にピアニシモを磨くと良いと思います!

 美しい音楽を奏でられれば、同時に何人もの人を幸せに出来ます。せっかくなら是非、聴く人を意識し、(自分自身も聴衆の一人になります)理解しやすく、わかりやすい演奏を!


池川 礼子(いけがわ れいこ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。

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