100のレッスンポイント

031.表現をするとは?何を表現したいのか?

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2010/07/02

 テクニックのポイント全二十回、音づくりのポイント全十回が終わりました。
読んでくださった方々から、数々の感想や励ましのお言葉を頂きました。ありがとうございます。

 音楽上の事を言葉にすることの難しさやもどかしさを感じています。項目をを分けたものの、関連していることや同じ事を言いたくなる事も多く、そこにも、自分の至らなさを暴露しながら、進んでおります。

 連載の第31回からは、表現のポイントです。15項目の予定です。
これまた、複数回にわたって重なる想いもたくさん出てきそうですが、そんなものだと諦めて、進みたいと思います。(笑) 


 音楽というのは、自分の想いを音を通して伝える手段の一つだと思います(日本人が一番伝えやすい日本語ではなく)。
 うれしい時には「こんな事があったよ!」と人に言いたくなるように、楽しい曲を「こんなに嬉しくなれるよ」と、聴かせたくなる。悲しい切ない曲があると、それをそのような気分に乗せて、人に伝える。

 想いがあれば、伝わります。

 言葉で説明できない分、聴き手は色々な想像を膨らませます。そこも音楽のおもしろいところです。
 まずは、書いてある楽譜の、音符とリズムをピアノの音で表すだけでなく、それによってどんな事が伝えられるか考えて見ましょう。

 初歩の曲には、よく絵や歌詞がついています。タイトルを見れば何を表している曲なのかはっきりしますが、それらのことを表現するために、ピアノの音を借りているという感覚が大切だと思います。

 本当は生き生きした楽しい曲なのに、生徒があまりリズム感のない、平べったい音を並べただけの演奏をすることがあります。
 そのような時は、楽譜にかえるの飛び跳ねた絵がついていれば「かえるがピョン!と、飛んでるような音かな?」などと生徒にというと、音楽が変わります。
 やさしいレガートで弾いて欲しいステキなメロディーがあったとします、「柔らかなステキなスカーフがふわっと風に吹かれているような感じで」などとと言うと、心の中にイメージが沸き、そういう風に弾こうかな?と思います。それでいきなりレガート奏法がマスターできるほど、ピアノは簡単ではないのですが、「どたどたと大きな靴で泥んこの上をばしゃばしゃ歩くような音」からは、少しは変化すると思いませんか?

 特に、小さい頃には、具体的に何を表現すればよいかを、はっきりさせて、弾いてみるのが効果的だと思います。
 小さい子供と、その曲についてお話をして、空想(夢)の世界に入っていく事があります。とても楽しい時間です。そして、そういう会話が続く子ほど音楽にも表現力が出て来ます。「お口ストップ!弾きましょう!」と言わなければならない子ほど、その後、どんな曲を弾いても自ら表現し、だれからも「ステキなピアノ!」と評されるようになります。

 でも、小さい子だけではありませんよね。
 よく、外国の教授によるレッスンを聞くのですが、その最中にも、音楽のシーンに合わせて「こんな風景」「こんな感じ」といったアドバイスがされます。それが本当にぴったりなので、次に弾く時、生徒の音楽が確実に変わります。ステキなレッスンですね。

 音楽が「音が苦」に決してならず、「音を楽しむ」にならないとさびしいですね。音楽が持っている本来のちから・・・「音を聴いて楽しむ」あるいは「音を聴いて心が豊かになれる」ことを、毎日練習の時に感じながら、弾いてくれると、すばらしいと思います。指導者はそれを導き、お母様方は、それをサポートするようになると良いですね。


★エピソード

エピソード1

 悲しい曲の冒頭のスタッカートを、ウキウキと弾く子がいました。
何度、弾いてみせても同じです。

「悲しいってわかる?」というと、首をかしげます。 驚いて「仲良しのお友達が転校します。どう思う?」と聞いてみると「困った!」という答え。
「????」

そばからお母様は「この子は悲しいってしらないかも」。「私以外の皆がチヤホヤしてますから」と。

それ以前にもピティナのコンクールで毎年決勝に出場し、上位にも入賞していた子がいて、やはり悲しい曲の感性に乏しかったのですが、そのお母様も「この子には悲しいことの経験がないかも」とおっしゃっていたことが思い出されます。

日本は平和で、ピアノを習いに来る家庭はある程度裕福でしょうから、そういう「幸せな子」も多いのかもしれません。とはいえ本を読むなどして、空想の世界で悲しい想いや切ない想いを経験しないと、音楽的にも人間的にも魅力ある人になれない気がします。
そういえば、最初の子は「本はよまない!」とも言ってました。
音楽を聴いてその美しさに涙するような人になってほしいと思っています。



エピソード2

小学2年生の生徒が、コンペの日にカラフルな「魔法の杖」を作ってきました。
「この杖を振って、ここで鳥が鳴くの!ピロピロピロ!」などとやって見せてくれました。本番、まるで天使のような音でした。

他の生徒の中にも、よく自分が弾いている曲の「絵」を書いてきてくれる子がいます。なかなか思うように表現できる子は少ないですが、少なくとも、彼等の心の中で何を表現したいのかははっきりと見えてくるので、そのたびに感動します。




池川 礼子(いけがわ れいこ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。

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