たたく音、心のない音、弱々しい音、響かない音、きつい音。
当たり前のようですが、これらは美しくない音です。
そして誰もが「美しいほうが良い」と思っているはずですね?
しかし実際には、美しい音ばかりが並んでおらず、美しい音を出そうとしているとも思えない事態(演奏)によく遭遇します。(笑)
先日、ステップの講評で、ある先生が、実際ピアノの音を出してくださいました。咲いているお花と、枯れかかった花の違いが誰にでもわかるのと同じくらい、美しい音は心に感じられると思います。
ではなぜ「美しくない音」を出す人がいるのでしょうか?
おそらく、美しい音を出そうと意識していない場合が多いと思います。楽譜に書いてある音を弾くと、書いてあるとおり、美しいメロディーが、出現します。音を間違えたり、隣の音を一緒に弾いたりすると濁って美しくありません。これは誰でも気づきます。
ピアノでは他の楽器や声と違って、音を楽譜どおり正しく弾ければ、一応音程の正しいメロディーが聴こえてきます。それで安心して良いとしてしまうのではないでしょうか。しかしそれだけでは、音自体を美しく出そうとしていることにはなりません。
次に、自分が出している音を「美しくない」とは思っていない場合もあります。
以前にも書きましたが、びっくりするほど、一音一音をたたきつけるように弾く子がいました。それは、「汚い音」とは思っていないから出せるのでしょう。
そこまで極端ではなくても、フレーズの最後を聞かずに乱暴に強い音を出すケースは多いです。それも、弾いている本人は気づいていません。ところが、そのような生徒たちがどんな音を出しているのか、本人の前で真似をして見せ、それと、美しく音を出したものを聴き比べると、誰もが、「美しいほう」を美しいと言います。そして自分もそのような音を出そうと気を使うところから、美しい音に近づいていきます。
音の美しさは、ピアノを弾かない方でも、理屈抜きでわかるものです。
上記の「一音一音をたたきつけるように弾いていた子」も気づいて、美しい音に近づき始めましたが、その子はまだ幼稚園生です。美しさは年齢に関係なく求める事ができるものだと思います。
美しい音を出したいと思う気持ちをまず持つことが大切です。美しくない音が出たときは、何故、何が美しくない原因かを考えることで、解決につながります。
美しい音が出ていないということを聴ける事が大切です。まず「美しくない音」を知り、考えた結果、美しい音が出たときは、とても幸せに感じますよ。
その1
昔、あるお母様から、発表会の後の感想で、こんなことを言われました。
「先生の門下生は、音で、入門した順番がわかります。きれいな音が出ている人が長く習っている人ですね」と言われた事があります。まったくピアノの弾けないお母様です。純粋な感想で、とても素直で耳のよい方、心で音が聴ける方だと思いました。
とてもうれしく、今でも忘れられません。
その2
これを書いている今日、飛行機の中から美しい夕日を見ました。
あまり天気は良くなく、雲の間に夕日だけが濃いオレンジ色の光を出していました。
下を見ると、薄暗い中、山々の稜線がくっきりと黒く、山は裾野に行くほど、グレーが薄くなり、墨絵のように美しかったです。
そしてその上には、ふわふわとした薄い雲や、真っ白な厚い雲がおもしろい形でたくさん浮いていました。
どれもが個性的で、異なる美しさを見せていました。
音楽と同じで、この風景は2度と見られない瞬間芸術のようなものです。たとえようもなく美しい景色を目にできる幸せを、深く感じました。
「全く違うそれぞれ美しいものが重なっている、この景色のようなバッハを弾きたい」と、ふと思いました。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻科卒業。武田宏子氏・吉岡千賀子氏に師事。バスティン・ メッソードの講師として全国各地で講座を行う一方、地元鹿児島ではピアノ指導法研 究会を主宰。生徒育成においては、ジュニア・ジーナ・バックアゥワー国際コンクー ル第2位輩出のほか、長年にわたりピティナ・ピアノコンペティションにて高い指導 実績を全国にアピール。特に1999年度は、ピティナ全国決勝大会のソロ・デュオ・コ ンチェルト部門に計7組の生徒を進出させ、ソロF級で金賞、コンチェルト初級で優 秀賞などを受賞した。導入期から上級レベルの生徒までまんべんなく育て上げる指導 法は、全国のピアノ指導者の注目の的となっている。ピティナ正会員、コンペティシ ョン全国決勝大会審査員。ステーション育成委員会副委員長。
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