Vol.12-2 親学講座(1) 小倉 郁子先生
「音楽の大好きな、音楽性豊かな子どもに育ってほしい」---そんな願いを込めて、音楽を学ぶ子どもたちの保護者、指導者の方々を対象に、各地で実施している「親学レクチャー・コンサート」(日本財団助成事業)の中から、毎回すてきなお話をお届けしていきます。
まず、昨年11月に京都で講演された小倉郁子先生のお話を、3回にわたってご紹介します。
親学レクチャー・コンサート:ピアノに合わせて、教科書でも有名な『スイミー』の朗読をされる、小倉郁子先生(朗読)と松田紗依先生(作曲・ピアノ)/09/11/16メルパルク京都にて
小倉郁子先生とご長男の崇以さん,ご二男の由資さん。郁子先生より手ほどきを受け,ピアノをともに学んできた。現在、崇以さんは,研修医として病院勤務をされ,由資さんは大学院の博士課程で研究に励んでいる。
このようなことは、表現の一つなんです。そして子供たちも、知らず知らずのうちに表現しています。たとえば、子供たちの遊びの中で、ままごとであるとか、何かのキャラクターに自分がなりきって遊ぶということは、必ず子供さんは経験していますよね、夢中で本当に楽しそうですね。あれそのものが表現です。自分が楽しく遊ぶために、状況、イメージを作り上げてなりきっていく。それを見て親の方も面白くなっちゃって、一緒に楽しんだという記憶があります。そのように、無意識のうちに、子供たちは自分でドラマを作って表現しているという事をやっているんですね。
そして、年齢が高くなっていくと、だんだん表現する世界を自分が見つけて行く。それが音楽であったり、美術であったり演劇であったり、文学であったり。バレリーナになりたいわとバレエのお稽古をしたり。それぞれのお子さんが自分の表現する世界を見つけて行きます。表現するというのは、持って生れてきたもので、無理やりに方向をつけて行くものではないかなという気がします。しかし、表現手段は、学ばなければできないことも多いという事だと思います。
私の考えている子育てというのは、「親元を離れる時まで」が子育て。うちの子供は、高校を卒業すると同時に家を出ましたので、高校卒業までが子育てというスタンスで考えております。、皆様の中にも大きいお子様を育てていらっしゃる方もいると思いますが、子供の成長と共に親の関わり方というのは全然変わっていくもので、小さい時よりも大きい時のほうが、大変になって行くんですね。手がかかるのは、小さい時かもしれませんが、非常に難しい時期を通り過ぎて行かなければならないので、親の関わりは非常に難しくなっていくという事を、経験されている方もたくさんいらっしゃるかと思います。親元を離れる時までが子育てというスタンスで話を聞いていただければと思います。
では、ピアノ学習の目的とはどんなものでしょうか。一般的には、ピアノの演奏技術を身につけて、そして情緒豊かな人間性を育むと言われているかと思うんです。つまりそれは「情操教育」であり、理性と共に豊かな感情を育てること、という事だと思うんですね。情操教育というのは、幼いころからしなくてはいけないものであると思うんです。やはり大きくなってから何とかしようとしても、そう簡単には身につかない。それなら、子育てとピアノ学習をリンクすることが理想なのではないかなということに気がついたわけです。それに気づいたのが、子育てを始める前ではなく、ずーっと後になってからなんですけれど。
それでは、ピアノ学習が、子供の成長にどのように関わって行くのだろうかということを、ピアノを1曲の作品を仕上げていく過程に沿って、お話させていただこうと思います。
まず、「読譜」ということ。読譜とは、ただ楽譜を読むという事なんですが、その中にはものすごく色んなことが含まれております。まず記号で書かれた楽譜を、音楽理論を手掛かりにして、楽曲を分析する、もっと平たく言えば、音楽の作りを知るということから始まります。
その音楽の作りを知るという過程でやらなければならないことは、段落分けをすること。つまり、1曲の曲がどんな形で出来ているか、「形式」を見るということですね。ピアノの世界ですと、ロンド形式とかソナタ形式とか2部形式、3部形式とか形式というのがあって、それがどれに当てはまるのかということを、楽譜から読み取らなければならない。この作業というのは、国語の段落分けと同じなんですね。国語のテストには、この文章はいくつの段落に分かれているでしょうかという問題が、必ず出てきますね。その次は、ひとつの段落の中にどんな事が書いてあるかという主旨を見つけなさい、という問題が出ますよね。それと全く同じことなんですね。
国語は日本語で書いてありますが、楽譜は言葉が何にもないので、今度は図形的なものの見方ができなければいけない。音符というのは点なんです。それを線で結んで行ったら、楽譜は形になるわけです。その音型を見極められなければいけない。同じ形がどこにあるのか、見つけるわけです。このように、図形的にものを見て解釈をしていこうというのが、楽譜を読むということなんです。
そして、その時に、ここの形と次の形は全く同じだろうか、それともちょっと違うんだろうか、全く違うのだろうか。全く違うのを見つけるのは簡単ですが、たった1音だけ違う事があるんです。そういう違いを見つける。これは理科の観察力です。小学校では、朝顔などの種を撒いて、芽が出て花が咲くまでずーっと観察して、記録にとって行くということをさせられますね。これは植物を育てるということと、観察をするということ、色んな意味で理科の教材としてやるわけですけれど、昨日と今日どこが違うかという、ほんのちょっとの成長の違いを見られるかどうか。そういう細やかな観察心というのを、必要としているんですね。この違いを比較して物事を解釈するという事が、非常に大きく影響してくるのです。ですから、音楽も図形的な目で見て、その違いを観察するということなのです。小学校に入学する時に知能テストを受けますよね。必ず知能テストの中には、左側に書いてある図と全く同じものを見つけなさい、という問題が必ずあります。反対になったり逆さになったりした色んな形があって、その中で同じものを見つけるわけですね。それと全く同じ事なんです。
読譜というのは、多方面から、楽譜を解読して行くということです。さらに実はそこから、その解釈したものがどんな風に仕上げていくのか、イメージして行かなければならないんですね。それも読譜の一つです。そのために、楽譜には、速度記号やタイトル、イラストや、表示記号のヒントがあります、そこから自由に発想していくわけです。お子さんの場合は、それだけでも良いかもしれません。もう少し大きな曲になってくると、イラストはありませんし、○○曲集の何番というのみで、タイトルもありません。そこからイメージをとるというのはとても難しい事なんですが、そこで何をするかというと、その作曲家の伝記を読むとか、時代背景、その作曲家がどんな時代に生きたのかというところから、いろいろひも解いていきます。建築物や絵画とか、その時代の美術的なものから、少しヒントをもらったりして。それに、ピアノという楽器が、すべての楽器の中で、完成されたのが一番遅いという条件があります。今のピアノになるまでの過程に、時代によって演奏法が違ってしまうわけですよね。
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このように、楽譜を読むということによって、それだけの色んな知識や経験が必要なんですね。ですから、音符がドだとかレだとか、これが4分音符だとか8分音符ということを知っているから、楽譜が読めたかと言えば、これは全く読めたと言えないんですね。楽譜を見たというだけで。そして、イメージをとっていくために、本当に総合的な視野を持って、対処しなければいけない。ですから、一言で読譜といっても、非常に幅広く大切なことなんだということを、まず認識していただければと思います。
著者:レオ・レオニ (著), 谷川 俊太郎 (翻訳)
価格(税込)¥1,530/ISBN-10: 4769020015
出版社: 好学社 (1969/4/1)
内容: 小さな黒い魚スイミーは、兄弟みんながおおきな魚にのまれ、ひとりぼっちに。海を旅するうちに、さまざまなすばらしいものを見ます。そして、再び、大きな魚に出会いますが...。世界中で翻訳され、日本でもロングセラーを記録しているレオ=レオニの代表作です。
(おはなしと音楽)
著者:松田 紗依/価格(税込)¥630(12ページ)/ミュッセ
内容:レオ=レオニ作の絵本「スイミー」に、訳された谷川俊太郎氏の詩的な文章に添うように、音楽をつけてみました。音楽がつくことで、おはなしがより深く聴く人の心に届くことを願っています。 楽譜には、音楽に合わせて朗読ができるように、おはなしも載せられています。