ピアノステージ

Vol.12-1 Stage+人(12) 国府 弘子さん

2010/03/01
国府 弘子さん
Stage+人(12) 国府 弘子
昨年春に放送されたNHK教育テレビ「趣味悠々・国府弘子の今日からあなたもジャズピアニスト」。共演者の林隆三さん・藤井隆さんを温かく指導し、素敵なセッションも披露された国府弘子さんの姿は、まだ記憶に新しい。プロの音楽家として、「音楽は、とにかく耳が大事。」と語る国府さんに、お話を伺った。

耳で聴いて覚える音楽

 「小学校に上がる前の話になりますが、夕方五時になると町内で鳴る『夕焼けこやけ』。このメロディーに、よく自宅のピアノで伴奏を付けながら弾いていましたね。」
すでに、自然と"耳コピー"を楽しんでいた幼少時代。三歳から始めたピアノレッスンでは、「耳のよさ」が引き出されていった。
「その頃私は、バッハのインベンションを移調で弾くという練習を、子供心にまるで一種のゲームのように面白がっていました。思い返してみると、これって今に生きているなあと思いますね。とても応用力が鍛えられる経験でしたから。」

音楽を、"楽譜を見て弾く音楽"と"耳で覚える音楽"の二つに分けるとすると、"耳で聴いて覚える"ということに、スリルとやりがいを感じていたという国府さん。"楽譜から離れて、耳に入ってきたメロディーを自由に弾いていいんだ"という喜びは、クラシックからジャズの世界へと移行させていった。

人生の全てが土台になる音楽

vol12-1_002.jpg
2009年5月昭和音楽大学管弦楽団とのコンサート
(撮影 土居政則)

 ソロのコンサートで地方に行った時のこと。観客からのリクエストで、リストの『ラ・カンパネラ』を弾いて下さい、と言われた。「弾けません」と言ってリクエストに応えられないのは、悔しいこと。そのとき国府さんは、、メロディーを軸に自分なりにアレンジして、即興で弾き終えたのだ。会場の盛り上がりは、言うまでもない。
 「メロディーは、家で例えるならば骨組みの部分、連打はカーテンの部分です。カーテンはなくても、別のものでもいいけれど、床・柱・天井を変えてしまったら、何の曲かはわかりません。どんな曲でも、どれが大事な音で、どれがなくても大丈夫な音なのかを考える必要があるわけですね。そうしたアナライズ(分析)をして、しっかりと骨格をつかむことができれば、好きなようにアレンジして弾けますし、曲としても説得力が出ると思います。」

演奏活動において、演奏者に求められることの1つが、こうした"応用力"ではないだろうか。クラシック音楽の場合は、直前までの練習不足が影響しても、ジャズの場合は、「前日に何を練習していいのかわからない音楽」だという。「実際、ピアノに向っていても公演とは全然関係のない曲を弾いていることもあります。それまでやってきた全てが土台になるというか、自分の人生すべてを投入するというような感じでしょうか。」

vol12-1_003.jpg

昨日より深まっていく音楽

 最後に、ピアノを学ぶみなさんにメッセージをいただいた。

 「まず、ジャズやポピュラー音楽をクラシックとのジャンルの違いとして捉えずに、自分の中から表現されるものだと思ってほしいですね。いい音色・豊かな音色は、それが何のジャンルであれ、ピアノの音に癒されるという意味では、ノンジャンルであると言えますから。"自分の耳で聴いていいものはいいんだ""自分の好きなものは好きでいいんだ"と思うことが大切です。そして、これは自分にも常に言い聞かせていて、後輩にも伝えたいことなのですが、"音楽は気持ちを伝える手段であって、人と比べるのではなく、昨日の自分と明日の自分を比べる時、幸せなものになる"ということですね。人と比べ出すとあせったり、悩んだりしますよね。この基本精神を忘れなければ、コンクールも楽しめるものになると思いますよ。音楽って本当に、とりわけ情感に関しては、昨日よりも明日の方が必ず深まっていますから。こうした姿勢で音楽に向き合えば、全員が幸せな気持ちになれると思います。」

"これからもジャズの世界への橋渡し的な存在でありたい"と語って下さった国府さん。一つ一つの言葉に音楽への思いが込められていた。今後の活躍により一層の期待が高まる。

(取材・文:霜鳥 美和)
20thアルバム:オラ!/HOLA!
CD
20thアルバム:オラ!
/HOLA!

定価3,000円(税込)
ビクター(株) VICJ-61528
楽譜
国府弘子のもっとエンジョイ・ジャズピアノ
国府弘子のもっとエンジョイ・ジャズピアノ~ジャズの魔法使い~
定価1,890円(税込)/ヤマハミュージックメディア
※ステップ課題曲
・応用5「A列車でいこう」収載
国府弘子のアレンジ一丁!
国府弘子のアレンジ一丁!
定価1,890円(税込)/ヤマハミュージックメディア
※ステップ課題曲・応用7「ウェーブ」、
発展2「ワルツ・フォー・デビー」/発展5「クレオパトラの夢」収載
国府 弘子さん
国府 弘子 Hiroko Kokubu(ピアノ/Piano)
ピアニスト・作曲家。国立音楽大学卒業後、NYでジャズ修行。1987年のデビュー以降、20枚以上のアルバムを日米で発表。音楽の喜びと情熱、そして安らぎにあふれる独特のピアノの魅力は聴く人々の心を捉え続ける。2008年にはNHK教育「趣味悠々」にてジャズピアノ講座を務めた。
国府弘子オフィシャルホームページ
今後の主な公演予定

● 2010年3月27日(土)28日(日)新潟
  「ゆく冬、くる春 ピアノシュプール」国府弘子スペシャルトリオ
  会場・新潟 岩原PIT-INN Tel : 025-787-3413

● 2010年5月8日(土)神奈川
  「川崎・しんゆり芸術祭アルテリッカ2010」
  会場:昭和音楽大学テアトロ ジーリオ ショウワ
  Tel.044-952-5024

● 2010年5月21日(金)東京
  国府弘子 meets 吉田美奈子
  会場:ヤマハホール Tel.03-3572-3139


ピティナ編集部
【GoogleAdsense】
ホーム > ピアノステージ > > Vol.12-1 S...