ピアノステージ

Vol.11-1 祝・ピアノ誕生300年 II.鍵盤楽器の歴史探訪

2010/03/01
鍵盤楽器の歴史探訪


オルガンの音色 -3種のオルガンによる祈りの響き-
オルガンの仕組みと歴史
オルガン

 鍵盤楽器の祖「オルガン」の誕生は、ピアノよりはるか昔、2000年以上も前に遡り、その形は、水の力でうごく「水オルガン」でした。"鍵盤を付ける"という発想やその配列は、今のピアノが引き継いでいます。音を出す仕組みからみると、打楽器的であるピアノに対し、オルガンは管楽器的。鍵盤を押すことで異なるパイプに空気を流して音が出ます。1つのパイプで1つの音高の音しか出せない代わりに、鍵盤の左右に並ぶ「ストップ」のノブで音色を操作していきます。東京芸術劇場のオルガンは、世界でも珍しく、スタイルの異なる3つのオルガンを、両面に併設。様々な形、長さ、太さのパイプが、なんと9千本!合唱を理想とした「ルネサンス・オルガン」、室内楽的な要素も沢山取り入れられた「バロック・オルガン」、オーケストラ的な「モダン・オルガン」の音色が味わえます。
 オルガンが教会での礼拝に関わるようになったのは、10世紀頃。教会の巨大化に伴い、大型のオルガン曲も増え、現在では、多数のコンサートホールに設置されています。

ピアノとオルガン
オルガン

 ショパンドビュッシーブラームスなど、かつてのピアニストはみな、オルガニストでした。昔はオルガンの技法でオルガンを弾いていたのが、時代がくだるとオルガニストとピアニストが一緒になったので、フランクメンデルスゾーンなど、ピアノの技法を取り入れたオルガン曲が作曲されるようになったのです。

Message
国内の何百何千ものコンサートホールのオルガンは、みんなパイプの音色や鍵盤数が違います。その点はいつも88鍵であるピアノとは異なりますね。オルガンは、顔があり、空気を送る肺があり、発音する口があります。ですから、これだけ巨大でも、「機械」というよりは、「生き物」も近いところに位置します。全国各地のこの「生き物」のようなオルガンの音色、歌声をぜひ楽しんでみてください。
おはなし&演奏:大塚直哉先生
聴いてみよう!
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「グリーンスリーブス変奏曲」(ルネサンスオルガン)
vol11_003.gif 17世紀頃のイギリスの民謡に基づく変奏曲。ある時は歌で、またある時は鍵盤楽器だけ、時には合奏などと、様々な様式で演奏されているが、今回はルネサンスオルガンのみで変奏します。10数種類の変奏を通して、次々と音色が変わっていくのをお楽しみください。
Youtube
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J.S.バッハ:「トッカータとフーガニ短調」より(バロックオルガン)
バッハのオルガン曲でもっとも有名な「トッカータ」の部分を、
バロックオルガンで演奏します。オルガンは、トランペットやシャルマイなどの他楽器を真似した音が多数ありますが、この曲では、オルガノ・プレーノ(=フルオルガンの「これぞ、オルガン!」という基本の響きを聴いていただきます。倍音列順に音を重ねたもので、「ラソラー、ソファミレドーレー」という有名な重厚な響きを生み出します。)
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フランク:「プレリュード、フーガと変奏曲」より(モダンオルガン)
ピアノが盛んに用いられるようになった19世紀になってきても、ピアニストはオルガンを弾き続けていました。そんな中、教会のオルガニストでもあったフランクが書いたこの曲は、ピアノの演奏技法がとりいれられています。フランスのロマンティックな音色のモダンオルガンの、オーケストラのような響きをお楽しみください。




チェンバロの音色-バロック時代の宮廷舞踏とともに- チェンバロ
チェンバロの魅力

  チェンバロは、歴史的にはピアノより古い楽器です。1500年代から1700年代の終わりまで、ポピュラーな楽器として人々に愛されていました。国や時代によって様々な形があり、英語ではハープシコード、仏語ではクラヴサンと呼ばれます。
 小さな爪(プレクトラム)ではじいいて音を出します。強く弾けば強い音が出るわけではないため、物理的な強弱の幅は、ピアノよりも狭いといえるでしょう。しかしその分、「表現の幅を広げる工夫の多彩さ」は、チェンバロの魅力の1つでもあります。例えば、物理的には音はほとんど大きくならなければならないけれど、音の長さや微妙な重ね方によって、クレシェンドの感じを表現していくのです。

バロックダンスの舞踏譜
バロックダンスの舞踏譜
バロックダンスとは

 バロックダンスとは、国王ルイ14世の時代を中心にフランスで確立され、その後ヨーロッパ中の宮廷へと広まりました。バロックダンスの振り付けは音楽とともに記述され、今も約350種類が舞踏譜として残されています。その振付には、貴族が舞踏会で踊るためのもの(舞踏会用)と、オペラやバレエの中で踊られらプロフェッショナルな作品(劇場用)とがあります。当時、宮廷のダンス教師はみんな音楽家でもあったわけで、そこからもバロック舞曲は実際のダンスの動きと密接な関わるがある、ということが分かります。

Message
今回は17~18世紀フランスのクラヴサン楽派の作品にスポットを当てます。ルイ王朝の繁栄のもと、華麗な宮廷文化や貴族のサロンなど人々の社交の場には常に音楽が欠かせないものであり、チェンバロは大活躍していたことでしょう。華やかなバロックダンスと共にイメージをふくらませながら聴いて頂ければ幸いです!
おはなし&演奏:芝崎久美子先生、浜中康子先生
聴いてみよう!
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C.ペッツォールト(1677~1733):
メヌエット「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳」より
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メヌエットは、華やかな舞踏会で貴族たちによって踊られた代表的な宮廷舞踏の一つです。長い間バッハの作品と言われ親しまれてきたこの曲は、近年ペッツォールトの作品であることが判明しました。
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L-C.ダカン(1694~1764):かっこう「クラヴサン曲集第一巻より」
かっこうの鳴き声が印象的な作品。フランスで好まれたロンドー形式で作曲されています。
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J-Ph.ラモー(1683~1764):タンブーラン「クラヴサン曲集」より
オペラ・バレの大家であり、音楽理論家としても活躍したラモー。彼の作品には民族音楽の要素も多く取り入れられています。当時の異国趣味をほうふつとさせるエキゾティックな響きをお楽しみください。
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J-B.リュリ(1632~1687)=J-H.ダングルベール(1635~1691):
パッサカリア「アルミード」より
パッサカリアは、低音モティーフの繰り返しに乗って様々なメロディーやパッセージが繰り広げられる、壮大な舞曲です。この曲は、リュリのオペラ「アルミード」の中で人気の高かったパッサカリアをダングルベールがチェンバロ用に編曲したものです。チェンバロならではの多彩な"装飾音"は、時代の美意識を反映しているといえましょう。当時のフランスの建築や家具、調度品を思い浮かべてみてください。直線よりも曲線が好まれ、複雑で繊細な装飾が随所に施されています。装飾音は、音楽において単なる飾りではなく"美"を表現するための必要不可欠な要素だったのです。今回はダンス教師ラベルの振付によるダンスをご覧いただきます。



フォルテピアノの音色-ピアノの誕生とヴァルターの響き-
フォルテピアノ
1784年ピアノフォルテ・レプリカ 名取孝浩氏所蔵
フォルテピアノとは

 ハンマーや音量が小さく、鍵盤の深さもモダンピアノの約半分で、全体的に小型だといえます。モーツァルトが活躍していたころは、3人くらいで運んでサロンや貴族の家で弾かれていました。コンセプトもかなり違っていて、現代のピアノは大きなホールで響かせることもできるような迫力や音量、力強さを備えていますが、フォルテピアノは。音量よりも細やかな息づかいや繊細なニュアンスを表現することを得意としています。アクションは現代のピアノよりずっとシンプルでしたが徐々に複雑になり、また音域も拡大しています。

ヴァルターの魅力

 モーツァルトは、ウィーンに移ってからは、ヴァルターが制作した楽器で作曲しているので、この楽器が持つ美学というものが曲の中にも生きています。モーツァルトの楽曲を演奏するとき、現代のピアノではある程度セーブしないとモーツァルトの気品が失われてしまいますが、ヴァルターでは気品を失わずに楽器の100%を使って演奏でsき、それが奏者にとって楽しいところです。安定や性能という面では現代の楽器に軍配が上がると思いますが、性能では測れない、楽器の進歩の中で切り捨てられてきた微妙なニュアンスのようなものが、この楽器の魅力です。

Message
ヴァルターは弾き続けるほどに、手になじんでこまやかなニュアンスで応えてくれる楽器です。現代の楽器は、音のシャワーのような迫力を出すことができますが、フォルテピアノが使われていた時代は、自分から音色に耳を傾けていくというようなところがあります。そしてその音色は、現代とはまた違った魅力を持っていますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
おはなし&演奏:大関博明先生、久元祐子先生
聴いてみよう!
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モーツァルト:トルコ行進曲「ピアノソナタK.331 」より
モーツァルトがウィーンに移り住んでから書いたオペラ「後宮からの誘拐」をフォルテピアノのために書き換えたような雰囲気をもっています。当時、ウィーンの人々にとってトルコは侵略してくる恐ろしい国でしたが、それと同時に人々はトルコの文化や音楽にも関心を持っていた、という背景の中でこの曲は作られました。
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ベートーヴェン:悲愴(第2楽章)「ピアノソナタop.13」より
彼のモーツァルトに対するあこがれと、モーツァルトよりも激しいものを求める想いの両方が入った作品です。ベートーヴェンの後援者のワルトシュタイン伯爵は、ベートーヴェンに対して、モーツァルトの魂をハイドンの手によって受け継ぐようにと言いました。ベートーヴェンはその言葉通りにハイドンに師事して、モーツァルトにあこがれながら自分の世界を築いていきました。この曲では、彼がモーツァルトの単調の世界にすごく惹かれて、それを延長した世界を作っていったことが分かります。モーツァルト
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モーツァルト:「ヴァイオリンソナタK.304」
モーツァルト愛好家の中でも人気のある作品のひとつです。この曲が作られた当時、モーツァルトは旅先のパリで母を亡くして失意のどん底にいたので、よく母の死と結びつけて考えられます。直接母の死をきっかけに書いた曲ではありませんが、曲の中に含まれている儚さ、悲しみ、憂いといったものを感じ取っていただければと思います。



モダンピアノの音色 -ピアノの完成とさらなる進化-

お話:武田真理先生

 今から300年前、バルトロメオ・クリストフォリというイタリアのメディチ家に仕えていた楽器製作者の方が、今まで強弱のつかなかったチェンバロなどの鍵盤楽器に対して、強弱のつく「ピアノ・フォルテ」という楽器を考案されました。その影響を受け、ドイツのジルバーマンが、「フォルテピアノ」の製作を手がけました。ジルバーマンが甥に伝え、そこからツンペをはじめとした優秀な12人の弟子たちが、7年戦争によってロンドンに渡り、そこから、イギリス式アクション、ウィーン指揮アクションという2つの流れで発展していくことになります。
 ピアノの歴史は、「戦争」や「市民革命」「産業革命」など、時代の背景にも非常に影響をうけています。そして、作曲家の音楽的な要求も、ピアノの進化に影響しており、たとえば、ベートーヴェンは、この楽器を大きく変えた作曲家のひとりだと思います。そして、ベヒシュタイン、スタインウェイなどが設立された1853年は、近代ピアノの幕開けという重要な年だと私は考えています。

 300年の歳月を経て、ピアノというがきは、様々な改良を重ねられ、現在の楽器になりました。当初のクリストフォリのピアノと現代のピアノでは大きく変わってきたのが、テクニックだと思います。フォルテピアノから現代のピアノになるという過程で、ピアノという楽器は、どんどん改良され、より強く、より遠くまで響く楽器となり、ピアノ曲も技術的にも難易度が増し、音量も ppp ・・・から fff ・・・まで、表現の幅もものすごく広くなってきたわけです。
 そういった300年の亜由美を身近なものにして、現代のピアノになった経緯、それに伴って作曲家の作品が変わってきた経緯、タッチが変わってきた経緯などを感じ取ってほしいと思います。

スタインウェイ&サンズ(D-274)
スタインウェイ&サンズ(D-274)
ピアノ300年記念コンサートで使用のグランドピアノ。世界のコンサートホールで、もっとも多く使用されている伝統的なピアノ。
ヤマハ AvantGrand N3
ヤマハ AvantGrand N3
1世紀以上培ってきたピアノづくりの技術と、最新のデジタル技術を融合して作り上げた新しいピアノ。現代の様々な制約の中でも「本物のグランドピアノ体験」を可能にしている。
カワイクリスタルグランド(CR-40A)
カワイクリスタルグランド(CR-40A)
世界で唯一の「宝石のような輝きを放つ」グランドピアノ。ピアノにかつてない異次元の美しさと価値をもたらしたカワイの芸術作品。

⇒ピアノ300年記念コンサートの詳細はこちら


ピティナ編集部
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