Vol.10-3 ステージ探訪(2) 「パリ管」による ファミリー向けコンサート・リポート
ふと流れてきたワルツのリズムに、思わず身体が動いてしまうことはありませんか?子供にとって、音楽はまさに身体感覚で聴き取るもの。だから音楽との出会いはとても大切なのです。何の音楽を、どんな場所で、誰と一緒に、どの音楽家の演奏を、どんな気持ちで聴くのか。それらの波長が子供の感覚とぴったり合った時、子供は音楽との「幸せな出会い」をすることができるのです。 旅人と巡る、ワクワク音楽の旅
指揮者がタクトをさっと振り上げ、オーケストラが音を鳴らす―一見いつもと変わらないコンサート。そこに突然、何も知らない一人の旅人が飛び込んできます。 「ちょっと待って!ここで何をしているんですか?」「音楽を演奏しているんですよ」「そう!じゃあ、ここで踊ってもいいかな?」「それはだめだ!僕たちは、聴いてもらうために演奏しているんだから」「じゃあ、何の音楽を演奏しているの?」「舞曲ですよ」 こんなユーモラスな会話を皮切りに、指揮者とオーケストラが案内役となり、世界の舞曲を巡る旅が始まりました。 チャイコフスキーの甘美で優雅なバレエ音楽、ブラームスやバルトークのちょっと土臭い民族調舞曲、ラヴェルの高度に洗練されたパヴァーヌ、ヴィラ=ロボスが描くブラジルの熱い大地を感じさせる曲、バーンスタインが放つ迫力溢れるマンボ、そして熱気と興奮に包まれたパリの歓楽街を表現したオッフェンバック・・・。 プログラムの背景に、多彩な音楽の仕掛け
では、このコンサートにはどのような音楽的要素が盛り込まれているのでしょうか? プログラムは、ワルツ(オーストリア)、ポルカ(チェコ)、パヴァーヌ(フランス)、ボレロ(スペイン)、マンボ(アメリカ)等、様々な国の舞曲形式を盛り込んでいます。またリズム・拍子(3/4、4/4、3/8拍子 ・・)、音色(フルート、タンバリン、カスタネット等のソロ)、響きや色彩感(フランス、スペイン、中国、アラビア風・・)、テンポ(ゆったり~速い)、そして同主題の表現比較(チャイコフスキーとプロコフィエフの「ワルツ」)など、実に様々な要素が詰まっています。 またクラシックだけでなく、ミュージカル音楽も。レナード・バーンスタインの『マンボ!』(「ウェストサイド物語」より)では、奏者も聴衆も一緒になって"マンボ!"。締めくくりのオッフェンバック『パリの喜び』のフレンチ・カンカンも、会場の大喝采を誘います。コンサートが終わり会場を出ても、リズムの余韻がいつまでも身体に残っていました。 今回パリ管弦楽団を指揮したファイサル・カルイ氏(Fayçal Karoui)は、「ワルツやポルカなど様々な舞曲をオーケストラで演奏し、子ども達に聴かせたいというのがこのコンサートの趣旨です。脚本担当のエレーヌ(Hélène Codjo)は、『世界を旅する』というコンセプトで、各国音楽の違いをよく見せてくれたと思います。素敵な旅になったと思いますよ」。 音楽が描く世界の大きさは、小さい子供にも分かる
音楽が描き出す世界は、果てしなく広く、時には楽しく愉快で、時には甘美で満ち足りていて、時には神秘的で、時には陽気さと悲哀が同居している― それは私たちが生きる世界でもあり、それと「どう出会うか」はとても大切です。 この世界には、人間や動植物の数と同じくらい、多彩な音や響きが存在します。例えば初めて動物園に行った子が、「キリンさんの首なが~い!」とびっくりするのと同じように、「この曲聴いたことないけど、なんだか楽しいな。みんなも楽しそうだし。どんな曲なんだろ?」というように、「実際に見ること、聴くこと」は、子どもにより鮮明なインパクトを与え、知的好奇心を呼び覚まします。 自分から一歩踏み出したくなる、そんな音楽との「幸せな出会い」を演出してくれるコンサートに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか? 取材・文 菅野恵理子
<演奏曲目一覧>
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」より『花のワルツ』 ブラームス:ハンガリー舞曲 第5番 バルトーク:6つのルーマニア民俗舞曲 第5・6番 ラヴェル:「マ・メール・ロア」より第1曲『眠りの森の美女のパヴァーヌ』 チャイコフスキー:「眠りの森の美女」より『ワルツ』 プロコフィエフ:バレエ音楽「シンデレラ」より『シンデレラのワルツ』 オッフェンバック:「ホフマン物語」より『舟歌』 チャイコフスキー:「くるみ割り人形」より『アラビアの踊り』『中国の踊り』『スペインの踊り』 ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ 第2番 バーンスタイン:ミュージカル「ウェストサイド物語」より『マンボ!』 オッフェンバック:バレエ『パリの喜び』(ローゼンタール編曲版) |