アニハーノフ氏指揮・東京ニューシティ管弦楽団との
ピアノコンチェルト共演(2009年1月27日東京オペラ
シティ・コンサートホール)(C)Hirotaka Shimizu
愛実さんが、初めてピティナ・ピアノコンペティションに参加したのは、2001年の5歳の時。以降、6歳でC級(小6以下)、7歳でE級(中2以下)、8歳でJr.G級(高1以下)で全国決勝大会に進出し、金賞を受賞。翌年の全日本学生音楽コンクール優勝も含め、過去の最年少記録を次々と塗り変えていった。瞬く間に、「小林愛実」の名前は全国に拡がり、「神童」「天才少女」と呼ばれた。音楽関係者から子育て中の保護者まで広く、そして常に、注目の的であり続けてきた。
山口県から東京の二宮裕子先生のレッスンに、1人飛行機で通う生活から、一転。2年前より二宮先生宅のあるマンションに一家で転居し、エレベーターでレッスンに通う生活になった。
天性の感受性、音楽性、そして感覚的な真似の早さでもって、幼少期から目を見張る成長をとげてきたという愛実さんにとって、この2年間は、"与える段階から、徐々に自分で考える段階へシフトしている時期"と、二宮先生は位置づけている。
夕方、中学校から帰宅して一息つくと、二宮先生宅の一室でピアノに向かうのが、最近の愛実さんの日課だ。夜9時までは、自宅に戻らない。この3時間程をどう使うかは、愛実さん自身で考える。高い集中力を発揮して練習やレッスンに没頭するときもあれば、来客とのおしゃべりに花を咲かせたり、二宮先生とコンサートや買い物に出かけたりするときもあるという。
2007年4月より桐朋学園大学音楽学部付属の「子供のための音楽教室」に、特待生として入学。今まで特に勉強してこなかったソルフェージュ、コーラス、作曲などを通して、幅広く基礎力をつけている。パリのサル・コルトーやニューヨークのカーネギーホールでのコンサート、モスクワでのコンチェルトなど、国際舞台でも演奏を積み重ね、愛実さんの演奏の模様はフランスのテレビ局によりヨーロッパ全土へ放映され、大きな反響を呼んだ。昨年は東京倶楽部からの助成金もあり、初めてのCD収録も体験。こうした一つ一つの経験が、愛実さんのピアニストとしての素地を育んできた。
2004年8月 若干8歳で、ピティナ・ピアノコンペティションJr.G級(高1以下)金賞に輝く。
2006年10月 カーネギーホールでの演奏。足元にはまだ足台が。
2008年12月 二宮裕子先生宅にて。クリスマスツリーの前でレッスン後
2009年1月 コンチェルト終演後、指揮者のアニハーノフ氏とともに。 |
そして、2009年1月。聴衆は、13歳という年齢を忘れ、愛実さんの堂々とした表現豊かな演奏に、一気に引き込まれていった。今回の曲目は、ベートーヴェンの1番と、ショパンの2番のコンチェルト。コンチェルトのステージは、すでに10回を越える愛実さんではあるが、一夜のステージで2曲のコンチェルトを弾き切ることは、ベテランのピアニストでさえ至難の技だ。この2曲の演奏は、昨年ポーランドで経験したばかり。「1曲目で気を抜かず、すばやく2曲目に気持ちを切り替えていきたい」と、今回愛実さんの目標の一つとしていた。
いずれも、作曲家が若き日に作曲した作品だ。「彼女の年齢に関わらず、どれだけ本物の音楽を作っているかを聴き定めしてほしい。普段よく音楽を聴いている方々にも、良いと認められる音楽を目指しているのです。」と語られていた二宮先生の言葉がよぎる。背伸びをせず、二人三脚で曲の真髄をじっくり追求してきた、これまでの道程を感じた。
長い長い拍手を浴びて、にこやかにステージから下がってきた愛実さんは、二宮先生の腕に飛び込んだ。意外にも、愛実さんの目から涙が。1人のピアニストとして、オーケストラを巻き込み、聴衆のためにステージに立った。小さな体で、どれだけの責任と緊張を抱えていたのだろうか。
「すばらしい才能だった。この年齢であれだけの演奏ができるのは、神様からの特別な贈り物だろう。決して作られた演奏ではなく、自分のものとして、自分できちんと理解して表現していた。そして、観客を恐れないあの大胆さ。愛実さんは、生来のピアニストなのだろう。」――終演直後の指揮者のアニハーノフ氏は、こう褒め称えた。若い音楽家との共演を好み、積極的にオーケストラとの共演のチャンスを与えてきた彼にとっても、今回の才能との出会いは、格別の感動があったようだ。
地道なピアノの練習よりも、同年代の友だちと一日中遊びまわっていたい、という気持ちは、愛実さんも決して例外ではない。一方で、「人を感動させるピアニストになりたい」というのが、愛実さんの幼いころからの変わらぬ夢でもある。
「今までは、気持ちで何とか乗り切ってきたけれど、このようなコンサートの機会を重ねるうちに、人を感動させるには、その場の気持ちだけではどうにもならないということが、だんだん分かってきたような気がします。音を立たせることができなければ、観客席の遠くまで音が届かないし、音が届かなければ、気持ちなんて届かないし。これからもたくさんの方々の力を借りながら、練習も精一杯がんばって、自分には足りない部分を一つずつ自分のものにしていきたいです。」
次なるステージに向けて、また一歩大きく躍進していくだろうピアニスト愛実さんに、一層の期待と注目が集まる。
取材・文:霜鳥 美和/写真:清水 博孝
小林 愛実
こばやし あいみ◎1995年生まれ。3歳からピアノを始め、7歳でオーケストラとの共演、9歳で国際デビューを果たす。2001年よりピティナ・ピアノコンペティションに4年連続で全国決勝大会進出、2004年Jr.G級(16歳以下)にて出場最年少の小学3年(8歳)で金賞、併せてソナーレ賞、読売新聞社賞を受賞。2004年にショパン国際ピアノコンクールin ASIAアジア大会で第1位金賞、2005年には全日本学生音楽コンクールにて小学4年生で優勝、59年の歴史で初という快挙。海外でもこれまでにパリ、ニューヨーク、モスクワ、ポーランド等でコンサートを行っており、N.Y.カーネギーホールでの模様はヨーロッパ全土で放映された。2006?08年3度、カーネギーホール(AADGT主催)でコンサートに出演。山口県宇部市出身。山口県の栄光文化賞を3度受賞。2007年4月より桐朋学園大学音楽学部付属"子供のための音楽教室"に特待生として入学。2008年東京倶楽部特別助成金を受ける。8歳より、二宮裕子先生に師事し現在に至る。
<今後の主な予定> ワルシャワ 8月24日ショパン音楽祭にソロ出演/ブラジル 11月 ベートーベン協奏曲1番共演
|