第19回 山本 京子さん
ラ・クンパルシータからピアソラまで
■(株)音楽之友社
■定価:3,150 円(税込)
■"古典タンゴ~ピアソラ作品"まで、本格的に楽しめる連弾編曲集。「ラ・クンパルシータ」 「エル・チョクロ」「想いのとどく日」「アディオス・ノニーノ」「アレグロ・タンガービレ」「ブエノスアイレスの冬」の全6曲収載。
レベル:中~上級
■サウンドストリーム
■定価:2,800 円(税込)
■既刊「4 手連弾ブエノスアイレスの四季」( 音楽之友社)収録の「ブエノスアイレスの春」を更にバージョンアップ。ピアソラの十八番、フーガから始まる躍動感に溢れる作品で、フィギュアスケートの高橋大輔選手の演技でも使用されて話題となる。
レベル:中~上級
(作・編曲家、ピアニスト/当協会正会員)
コンサートで、曲に合わせてかぶる帽子の数々!客席から隠れがちな下パートでも、 インパクト大! |
はい、この時期にクラシックの基礎をみっちり仕込んでいただきました。ただ、ピアノで遊ぶことの方が好きで、先生から出された宿題はやらずに遊び弾きばかりしていて、毎日母に怒られていましたね。10歳の頃からは、海外のジャズやポピュラー楽譜を買って弾いていましたが、そのままでは物足りない。適当に自分で肉付けして遊んでいたのが、今につながっているわけです。
大学卒業後です。その頃、2台ピアノのコンサートに毎年出演していたのですが、一通り巷の作品を弾いてはみたものの、そのうち弾きたい曲がなくなってきたんですね。そこでピアソラを弾きたい⇒でも楽譜がない⇒それなら耳コピーして自分でアレンジしよう、ということで、自分たちが弾きやすく弾き映えするようにアレンジして演奏していました。それが大変好評で、出版につながったわけです。
編曲の手順としては、まずオリジナルのアナリーゼをしますね。そして、次に「自分の感動ポイントはどこか」「それをいかにピアノで最大限表現できるか」ということを追求して制作しています。ピアノは減衰音なので、楽器の特性に合わせて置き換えてアレンジします。アーティキュレーションや、どこがメロディーかすぐわかるように、またアナリーゼしやすいように、ということもすごく考えて記譜しているんですよ。
<収録楽譜>
リベルタンゴ/オブリヴィオン
(ショパン刊)
まず最初に、ピアソラ自身による演奏音源を聴いてみて下さい。楽譜に書き込みきれない作品全体の雰囲気が感じ取れると思います。この作品は、ピアソラ五重奏団の音源を参考に編曲しました。楽団の各楽器(バンドネオン、ヴァイオリン、ギター、コントラバス、ピアノ)の音色をイメージすることは、演奏する上で大きな助けになることと思います。
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- 速度表示はAllegro giusto、一貫したテンポを保ってください。左手でテンポやリズム感をリードしていき、それに右手のメロディーを乗せるようにすると演奏しやすいでしょう。
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- ピアソラの作品では、4 拍目や2 拍目半に強拍を置くと粋に仕上がります。
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- レッスンにいらっしゃる方の殆どに、ペダルを多用する傾向が見られます。ペダ ルは出来るだけ少なめに。リズム感やグルーブ感が表現できるよう、スラーのかかり方などを手がかりにペダリングを工夫してみてください。
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- 65 小節めからデュナーミクはやや控えめになります。69~70小節では、演奏者の自由を考慮して細かいデュナーミクを書き込んでいませんが、バンドネオンの蛇腹にためた空気(エネルギー)を70 小節目の1 拍目の和音で一気に噴出させるようなイメージを持ちながらp からf へ急激にcresc. させてください。
つい先日うれしい知らせが届きました。曲はこの楽譜にも収載されている「オブリヴィオン」ですが、とても美しい曲なので、ぜひ皆さんにも弾いていただきたいですね。
作曲は1987年頃。オリジナルは、フルート・ソロのための作品として唯一のものです。ピアソラの作品は、自身が楽団などで演奏する為の「スタンダード作品」とクラシック演奏家のために作曲された「クラシック作品」の大きく二つに分類されます。
「タンゴ・エチュード」は、後者のクラシック作品のひとつです。クラシック作品とはいっても、ピアソラの作品です。まず、リズムを大切に、アクセントを効かせ、バンドネオンで演奏しているタンゴを想像して演奏することをお勧めします。
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- 最初はMolto marcato e energicoとあるように、とてもはっきりと、力強く。
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- 中間部Meno mosso e piu cantabile 気分を変えてよく歌ってください。
エチュードという題名であっても、練習曲というカテゴリーに入らない、小品ではあっても一つの完成された楽曲です。音色を工夫して表現してほしいと思います。例えば28~29小節目など、フルートならではの音色を彷彿とさせてほしいものです。
この「タンゴ・エチュード」の場合、ピアソラ自身による音源はありませんので、フルートソロの音源を色々聴くこと、ヴァイオリン・ソロでも良い音源がありますので探してみてください。ギドン・クレーメルが「トレーシング・アストル」というCDに「タンゴ・エチュード」を収録していますが、これもお薦めです。
そして、可能であればオリジナルの楽譜を参照すること。「タンゴ・エチュード」はフルートソロの為の楽譜の他に、作曲者自身による和声編曲楽譜:アルト・サックスとピアノの為の或いはクラリネットとピアノの為の楽譜も"アンリ・ルモアーヌ社"から出版されていますので、是非参考にしてください。
楽譜というのは、演奏者に向けた手紙みたいなものだと思うんですね。そこに込められたメッセージを想像しながら、楽譜から読み取ったものを演奏に生かしていただきたい=演奏は楽譜以上なんです。私はよくレッスンで、「どうして楽譜どおり弾くの?」と思わず言ってしまって、生徒さんに驚かれるんですが、テンポは真っ直ぐなんだけど、ピアソラ独特の前のめりのリズム感や弾みなど、細かいニュアンスは100%楽譜に書けないんですね。そのあたりを楽譜から読みとって、表現していただけたらうれしいですね。
私の楽譜はあくまでも"編曲"なので、楽譜に縛られることなく、これを元に皆さん自由に弾いていただければと思います。「同じ楽譜でも違う味付け」というのもぜひ試みてくださいね。