わくわくポピュラーガイド

第19回 山本 京子さん

2011/11/25
楽譜のご紹介
「タンゴ・タンゴ」(4手連弾)
ラ・クンパルシータからピアソラまで
「タンゴ・タンゴ」(4手連弾) ラ・クンパルシータからピアソラまで
■編著:山本京子
■(株)音楽之友社
■定価:3,150 円(税込)
■"古典タンゴ~ピアソラ作品"まで、本格的に楽しめる連弾編曲集。「ラ・クンパルシータ」 「エル・チョクロ」「想いのとどく日」「アディオス・ノニーノ」「アレグロ・タンガービレ」「ブエノスアイレスの冬」の全6曲収載。
レベル:中~上級


「ブエノスアイレスの春」(4手連弾)
「ブエノスアイレスの春」(4手連弾)
■編著:山本京子
■サウンドストリーム
■定価:2,800 円(税込)
■既刊「4 手連弾ブエノスアイレスの四季」( 音楽之友社)収録の「ブエノスアイレスの春」を更にバージョンアップ。ピアソラの十八番、フーガから始まる躍動感に溢れる作品で、フィギュアスケートの高橋大輔選手の演技でも使用されて話題となる。
レベル:中~上級
第19 回は、演奏者&聴衆を魅了する"ピアソラ"の編曲で世界的に著名な、山本京子さんにお越しいただきました!(掲載:Our Music296号/2011年10月31日発行より)
山本 京子さん
山本 京子さん
(作・編曲家、ピアニスト/当協会正会員)

やまもときょうこ◎神戸女学院大学音楽学部ピアノ専攻卒業。卒業後は演奏活 動や後進指導のかたわら、子供のための作品を作曲、発表。朝日放送制作のドラマの音楽を作曲、演奏。2000 年よりピアソラ作品のピアノ編曲楽譜の出版を重ね、現在それらは17冊に及ぶ。編曲活動を通して国内外の演奏家達との交流を深めており、山本京子の作品はトップアーティストからアマチュアまで多くの支持を得ている。とりわけピアノ・デュオ・クトロヴァッツにとって山本京子編曲によるピアソラ作品は主要なレパートリーとなっており、ウィーン楽友協会ホールや、リスト・フェスティバル、ラクセンブルグ音楽祭など、多くのコンサートで演奏されている。ヨーヨー・マ、キャサリン・ストット、アルゲリッチ・プレゼンツ・プロジェクト(イタリア他)、klangfruehling音楽祭(オーストリア)、山中湖国際音楽祭などに作品を提供。2011年よりアルゲリッチ・プレゼンツ・プロジェクトの作曲家に登録されている。また、2005 年より武田有賀とのピアノ・デュオmumukiで演奏活動中。mumukiのコンサートタイトルは「22世紀のクラシック」。演目は、ピアソラに限らずジャンルを問わない。時空を超えて支持されると思われる作品を編曲して発表している。
帽子
コンサートで、曲に合わせてかぶる帽子の数々!客席から隠れがちな下パートでも、 インパクト大!

インタビュー

ピアソラに魅せられて
─ 幼少の頃は、クラシックピアノを習っていらしたのですか?

はい、この時期にクラシックの基礎をみっちり仕込んでいただきました。ただ、ピアノで遊ぶことの方が好きで、先生から出された宿題はやらずに遊び弾きばかりしていて、毎日母に怒られていましたね。10歳の頃からは、海外のジャズやポピュラー楽譜を買って弾いていましたが、そのままでは物足りない。適当に自分で肉付けして遊んでいたのが、今につながっているわけです。

─ ピアソラに出会ったのは、いつ頃ですか?

大学卒業後です。その頃、2台ピアノのコンサートに毎年出演していたのですが、一通り巷の作品を弾いてはみたものの、そのうち弾きたい曲がなくなってきたんですね。そこでピアソラを弾きたい⇒でも楽譜がない⇒それなら耳コピーして自分でアレンジしよう、ということで、自分たちが弾きやすく弾き映えするようにアレンジして演奏していました。それが大変好評で、出版につながったわけです。

─ 確かに山本さんのアレンジは、グリッサンド、パーカッシブな奏法、二人の手が交差するなど、弾き映えするので、皆さんご自分でも弾いてみたくなるのでしょうね。アレンジの際気をつけていらっしゃることは?

編曲の手順としては、まずオリジナルのアナリーゼをしますね。そして、次に「自分の感動ポイントはどこか」「それをいかにピアノで最大限表現できるか」ということを追求して制作しています。ピアノは減衰音なので、楽器の特性に合わせて置き換えてアレンジします。アーティキュレーションや、どこがメロディーかすぐわかるように、またアナリーゼしやすいように、ということもすごく考えて記譜しているんですよ。

課題曲のアドバイス
─ 今春イタリアで開催された、アルゲリッチ・プレゼンツ・プロジェクトのコンサートでは、山本さんの編曲された「リベルタンゴ」が2回も演奏され、大ブレイク。コンサートの成功の一因となったそうですね。その同アレンジが、ステップ課題曲(展開3)にもなっていますが、ワンポイントアドバイスをお願いできますか? (下囲み参照)
「リベルタンゴ」(展開3)アドバイス
<収録楽譜>リベルタンゴ/オブリヴィオン(ショパン刊)
<収録楽譜>
リベルタンゴ/オブリヴィオン
(ショパン刊)
★作品について

まず最初に、ピアソラ自身による演奏音源を聴いてみて下さい。楽譜に書き込みきれない作品全体の雰囲気が感じ取れると思います。この作品は、ピアソラ五重奏団の音源を参考に編曲しました。楽団の各楽器(バンドネオン、ヴァイオリン、ギター、コントラバス、ピアノ)の音色をイメージすることは、演奏する上で大きな助けになることと思います。

★演奏の留意点
速度表示はAllegro giusto、一貫したテンポを保ってください。左手でテンポやリズム感をリードしていき、それに右手のメロディーを乗せるようにすると演奏しやすいでしょう。
ピアソラの作品では、4 拍目や2 拍目半に強拍を置くと粋に仕上がります。
レッスンにいらっしゃる方の殆どに、ペダルを多用する傾向が見られます。ペダ ルは出来るだけ少なめに。リズム感やグルーブ感が表現できるよう、スラーのかかり方などを手がかりにペダリングを工夫してみてください。
65 小節めからデュナーミクはやや控えめになります。69~70小節では、演奏者の自由を考慮して細かいデュナーミクを書き込んでいませんが、バンドネオンの蛇腹にためた空気(エネルギー)を70 小節目の1 拍目の和音で一気に噴出させるようなイメージを持ちながらp からf へ急激にcresc. させてください。
─ その他、世界のトップアーティスト達からの信頼も厚いと聞いておりますが、ヨーヨー・マ氏も、来年のツアーで山本さんアレンジを採用されたそうですね。

つい先日うれしい知らせが届きました。曲はこの楽譜にも収載されている「オブリヴィオン」ですが、とても美しい曲なので、ぜひ皆さんにも弾いていただきたいですね。

─ 同じくピアソラの「タンゴエチュード第3番」(展開2)についても、アドバイスをお願いできますか? (下囲み参照)
「タンゴエチュード第3番」(展開2)アドバイス
★作品について

作曲は1987年頃。オリジナルは、フルート・ソロのための作品として唯一のものです。ピアソラの作品は、自身が楽団などで演奏する為の「スタンダード作品」とクラシック演奏家のために作曲された「クラシック作品」の大きく二つに分類されます。

★演奏の留意点

「タンゴ・エチュード」は、後者のクラシック作品のひとつです。クラシック作品とはいっても、ピアソラの作品です。まず、リズムを大切に、アクセントを効かせ、バンドネオンで演奏しているタンゴを想像して演奏することをお勧めします。

最初はMolto marcato e energicoとあるように、とてもはっきりと、力強く。
中間部Meno mosso e piu cantabile 気分を変えてよく歌ってください。

エチュードという題名であっても、練習曲というカテゴリーに入らない、小品ではあっても一つの完成された楽曲です。音色を工夫して表現してほしいと思います。例えば28~29小節目など、フルートならではの音色を彷彿とさせてほしいものです。

★ピアソラのピアノ編曲を演奏するにあたって

この「タンゴ・エチュード」の場合、ピアソラ自身による音源はありませんので、フルートソロの音源を色々聴くこと、ヴァイオリン・ソロでも良い音源がありますので探してみてください。ギドン・クレーメルが「トレーシング・アストル」というCDに「タンゴ・エチュード」を収録していますが、これもお薦めです。
そして、可能であればオリジナルの楽譜を参照すること。「タンゴ・エチュード」はフルートソロの為の楽譜の他に、作曲者自身による和声編曲楽譜:アルト・サックスとピアノの為の或いはクラリネットとピアノの為の楽譜も"アンリ・ルモアーヌ社"から出版されていますので、是非参考にしてください。


─ 最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
山本京子さん

楽譜というのは、演奏者に向けた手紙みたいなものだと思うんですね。そこに込められたメッセージを想像しながら、楽譜から読み取ったものを演奏に生かしていただきたい=演奏は楽譜以上なんです。私はよくレッスンで、「どうして楽譜どおり弾くの?」と思わず言ってしまって、生徒さんに驚かれるんですが、テンポは真っ直ぐなんだけど、ピアソラ独特の前のめりのリズム感や弾みなど、細かいニュアンスは100%楽譜に書けないんですね。そのあたりを楽譜から読みとって、表現していただけたらうれしいですね。
私の楽譜はあくまでも"編曲"なので、楽譜に縛られることなく、これを元に皆さん自由に弾いていただければと思います。「同じ楽譜でも違う味付け」というのもぜひ試みてくださいね。

─ 来年は"ピアソライヤー"とのこと、益々のご活躍をお祈りいたします。本日はありがとうございました。
▲ページTOP

ピティナ編集部
【GoogleAdsense】
ホーム > わくわくポピュラーガイド > > 第19回 山本 京子...