第01回 田代 ユリさん
新春の装いも新たにスタートしたこの連載では、ホットでポップな情報を皆様にご提供していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!まずは"ステップポピュラー課題曲"にちなんだ、ポピュラー界のトップアレンジャー&プレーヤーの方々の素顔や新着情報を、インタビューを交えながらご紹介していきますので、お楽しみに!
記念すべき連載第一回目では、日本を代表するジャズピアニスト・オルガニスト・作編曲家として、国内のライヴ出演やTV出演はもとより、海外のジャズフェスティバル、コンサートツアーなど、長年トップを走り続けていらっしゃる田代ユリ先生にご登場願いましょう。(掲載:Our Music265号/2007年4月30日発行より)
ウインドアンサンブルシリーズ、ピアノ曲集、オルガン曲集など出版物多数。
・・・とすごいプロフィールを見ると近寄り難いイメージですが、とっ~ても気さくな飾らないお人柄で、セミナーでも分かりやすいトークが好評なのです。水泳やスカッシュも大好きで、旅行の際も水着を持参されるとか。チェロもプロの指導を受けて研鑚を積まれたそう。美味しい和食のお店を探すのもご趣味。ただ少し行かないとお気に入りのお店がなくなっていることが多く残念とのことでした。 |
佐土原 4才からクラシックピアノを始められたそうですが、先生がポピュラーに魅せられた、きっかけとなった1曲を教えていただけますか?
田代ユリ先生(以下、田代) 小さい時に見た、映画「オズの魔法使い」は今でもひとつのイメージとして残っていて、ポピュラー好きの一因になっているかもしれませんね。また「ウエストサイド物語」からは強烈なインパクトを受けたものでした。昔のことになりますが、クラシックコンサートに行くと喘息の発作が起きてしまってしばしば途中退席せざるをえなかった時期があり、そのあたりから軽めの小品を好むようになりました。作曲家の意図はともかく、それらクラシックピースも、私にとってはポピュラーナンバーとしてインプットされてきたように思います。
スタジオで洋楽ポピュラー録音に参加するようになってからは、出会う全ての曲が新鮮で魅力的でした。
佐土原 先生は数々のコンクール審査や後進の指導にもあたっておられますが、ポピュラーにこれから取り組む方へ、何かアドバイスをいただけますか?
田代 一口にポピュラーと言っても広い広い世界。少しずつ時代を溯ってみてはいかがでしょうか?"楽譜"からというよりも"耳"や"からだ"で、細部より全体を感覚的にとらえることから始めると良いのでは?
佐土原 クラシック同様、まずはたくさん聴くことが大事ということですね。先生の新刊『コンサートで弾きたい日本の歌1』は、クラシックしか弾いたことのない方にも入りやすいアレンジとなっていますが、「イメージを自由に展開させて、その時の気分を楽しみながら弾いてくださることを期待しています」と書かれています。自由に、と言われると戸惑う方にも、曲によっては情感溢れる「ことば」のイメージ付なので、曲想が膨らませやすいですね。例えば『春よ来い』では、「遠くの春の足音を耳をそばだてて探してみる」「目をつぶって春のにおいを思い出す」(中略)「おこたでウツラウツラ・・・」「お茶が入ったよ?」(^_^)など。
田代 イメージを広げるために色合いを変え、現代になじんだサウンドに、なおかつ奇想天外にはならないようにと、あれこれ考え時間をかけてアレンジしました。結構な量の五線紙がゴミ箱行きになったものです。
演奏技術としては中級を軸に、やさしいもの、コンサート向きのものもありますが、ピアノテクニックがたくさん詰まっていますので、日頃のスタディ、コンサートにも役立てていただけると思いますよ。
佐土原 「一歩退いて広く見渡すようなスタンスで、感情移入は抑え気味のほうが"いま風"になります」という先生のアドバイスは、常々私も感じていることですが、大変参考になりますよね。一冊を通して貫かれている日本的な叙情性を、皆さんもぜひ五感を使って味わってみてください。
・・・ところで、先生はずっとクラシックを勉強されていて、ポピュラーはスタジオでの仕事を通して腕を磨かれたという実践派と伺いましたが、ポピュラーピアノを弾くには特別なテクニックがあるのでしょうか?
田代 基本的なピアノ演奏技術についての違いはないのですが、それに加えて、センスを活かす技術と、表現時の多岐に渡るコントロールが必要となりますね。それには、指を動かすというよりもウタうつもりで、自分の音をよく聴くこと。また音符や記号だけにとどまらず、楽譜からたくさんのことを感じとる習慣をつけてほしいと思います。さらにリズムのトレーニングや、イメージを表現するトレーニングも欠かせませんね。
佐土原 誌面の都合上、具体的な譜例が掲載できないのが残念ですが、今年4月に発売されたばかりの『田代ユリ ジャズピアノコレクション Vol.1』は楽譜付きDVDで、クラシックをジャズフィーリングで演奏するための練習が、視聴者が一緒にトレーニングする形で進められています。(右図参照)
さながら田代先生の個人レッスンを受けている気分、何度も再現できるのも嬉しいですね。ピアノ一人でリズムを感じて弾くためには、アンサンブルでトレーニングを積むことが大事ということがよくわかります。
●●● 耳より情報 ●●● 田代ユリ先生のホームページでは、最新情報、コンサートリポート、ブログ等公開中!ご質問メールもお寄せいただけます。ピアノ仲間のページ<LETS>をごらんください。 応用5「私のお気に入り」/発展4「素顔のままで」「オリビアを聴きながら」/発展5「星に願いを」「エンブレイサブル・ユー」/展開2「私の彼氏」 |
オクト出版社(税別\2.000) 収録曲:「故郷」「春よ来い」「夏の思い出」「夕焼小焼」「冬景色」など14曲+夏&秋のメドレー2曲。中?上級レベル。 |
制作: ローランド アトリエビジョン(税別¥6.800) ※お求めは全国のローランドピアノ・デジタル取り扱い店にて。 収録曲:「ショパンワルツ イ短調」「エコセーズ」「アメイジング・ グレイス」(演奏画像)、「A列車で行こう」(楽譜のみ)、「モルダウ」によるジャズピアノへのアプローチセミナーも収録されています。 **ジャズピアノへの
アプローチはどんな感じ? 「モルダウ」を使って、学習要素別のアレンジ譜1?4による展開があり、全部で12段階の練習方法が紹介されています。田代先生のリズムサポートが随時入ります。
◆模範演奏⇒◆メロディーをボサノヴァのリズムで練習⇒◆メロディーを聴いて、バッキング練習⇒◆リズム+ラインを組み合わせたバッキングに挑戦⇒◆メロディーフェイクに挑戦⇒◆アドリブ(右手のみ)に挑戦(模範演奏有り)⇒◆全体の即興演奏(テンポを速めた例、模範演奏有り) |
田代先生直伝!
レッスンにおける ポピュラー曲活用のポイント ポピュラー曲は親しみやすい上に構成がわかりやすく主旋律がはっきりしているため、テクニックレベルに添った課題を盛り込んでのレッスンに大いに活用できると思います。生徒さんから"あれを弾きたい"というリクエストがあった場合にも、レッスン課題とどう結び付けるかを考えます。豊かな表現テクニックを備えてこそポピュラー曲の魅力を伝えられるという意味でも、ピアノ演奏技術向上が前提条件ですから、必ずポイントを設定し次へつなげてゆくことが大切です。 指導にあたるには、ポイントに合った楽譜を書いたり現場で効果的な即興性を養うなど、普段からの準備が必要ですね。先生が多種のポピュラー音楽を体験している必要もあります。 |
田代先生は、生徒さんの色々なニーズに合わせたテクニックエクササイズを折を見てかいておられるそうで、その数は膨大ものとか。その場で生徒さんに必要なものをサッと取り出せるようにしてあるとは、さすがです! |