知りたい!みんなの「譜読み」

第11回:演奏と身体 第2回

2018/12/10
第11回譜読みと身体 第2回

しっかりと準備をして臨んだ本番、力を発揮していい演奏をしたいですよね。ただ、本番はどうしても緊張するものですし、普段と違う状態の中でパフォーマンスをしなくてはなりません。そのような中で、少しでも自分の力を発揮して演奏するにはどうしたらいいのかということを前回の記事で考えてみました。今回は、皆様からお寄せ頂いたアンケートの結果を見ながら、引き続き演奏と身体の関係を考えていきます。第6回アンケートへのご協力を頂いたみなさま、誠にありがとうございました。

まず、アンケートでは本番を迎えるまでの緊張についてお尋ねしました。

質問1:ステージに臨む本番の直前になって「それまで弾けていたところが突然うまくいかなくなったり、いくら弾いても自信がなくなってしまった」ということはありませんか?
グラフ

ほぼ半分に分かれましたが、本番当日前に緊張でうまく弾けなくなる、という方は少ないようです。これは意外な結果でした。筆者は音楽大学でピアノを専攻していたこともあり、日常的に自分自身を含め、本番を迎える人が周りにいたのですが、友人や知人と話していても本番当日前に「なんだかうまく弾けなくなってしまった」という話を良く耳にしていたのです。それでは、「はい」とお答えいただいた方はどのような状態になってしまうのでしょうか。

  • 指番号を忘れてしまった
  • 落ち込んでやる気を失ってしまう
  • 指使いが混乱して止まってしまう
  • 練習している時に突然メロディが浮かんでこなくなった。(=頭が真っ白になる)

こういった状態のまま、もしくは当日、より緊張した状態で臨んだ本番では一体どんなことが起こっているのでしょうか。せっかく積み重ねてきた練習ですから100%の結果を出したいところですが、現実はなかなかそうもいかないようです。

「本番で失敗してしまった」経験のある方は、その時どんなことが起こりましたか?
  • 暗譜がわからなくなり、頭が真っ白になってしまった。
  • テンポが速くなってしまった。
  • ミスタッチが増えてしまった。
  • 楽譜が急に目で追えなくなってしまった。
  • 指が震えてコントロールがきかなくなってしまった。

頂いたご回答を見ていきますと、頭が「真っ白」になってしまう、不安や震えから身体や指の動きのパフォーマンスがかなり低下してしまうようですね。精神的な面はいきなり克服するのは難しいかもしれませんが、「あれだけやったのだから大丈夫」と自分に言い聞かせられる、「たくさんの練習」が一番の解決になると思いますが、ただ時間を取ればいいというわけではありませんし、多くの曲に取り組まなければならなかったり、忙しかったりと、様々な要因で万全の練習時間を確保できないことも多いはずです。そこで、あまりの緊張でパフォーマンスが低下してしまったとき、どんな原因があったのかを改めて振り返ってみることで解決策を検討したいと思います。

本番前や本番中に緊張してしまうのは、どのような理由で引き起こされたとお考えでしょうか?
  • 練習不足
  • 普段、指番号を意識せずに練習していた。
  • 基礎的な練習(指のための練習曲など)が足りていない。
  • 経験と自己分析が足りない。
  • 普段の練習が音の流れに任せているだけで、きちんと押さえるべきところの練習ができていない。

こうして見ますと、緊張状態になって震えたときにもしっかりと指を支えるための"指づくり"や、音楽の理解が曖昧になっていることが大きな要因となっているようです。演奏以外に緊張する場面を振り返ってみましょう。例えば声を出すとき声が震えてしまっても、お腹に力を入れたり、足に力を入れて踏ん張ることでかなり改善してきます。それと同じく、指や腕なども"支え"が大きな助けになるはずです。「本番が近いから」とその曲をやみくもにたくさん弾くのではなく、しっかりとした身体を作ってあげる時間も定期的にとる必要があるはずです。また、同じ曲を反復しているだけではルーティン化してしまい、曲について"考える"機会が減ってしまいます。そうすると、緊張して身体が普段と違う状態でなくなったときの対処がしにくくなるはずです。実際、皆様の「緊張対策」を見てみますと、リラックスの他、"頭を使う"練習がかなり効果を発揮するようです。

皆様の「緊張対策」を教えてください。
精神面の対策
  • 深呼吸やストレッチをする。
  • 水筒に用意した温かいほうじ茶を飲む
  • 本番前は誰とも話さずテンションを保つ。
  • ステージを楽しむ!音楽に集中する!
  • 家での練習の段階で録画し、『ステージで最後まで弾ける自分』のイメージを常に持つ。
  • 自分のピアノを好きになる。
練習や実際の演奏中の対策
  • 右手、左手を別々に暗譜する。
  • 録音したり人に聴いてもらったりして、プレッシャーのかかった状態で起きるミスを見つける。
  • 暗譜がわからなくなったりした場合、"ここから弾けば大丈夫"、というリカバリーポイントを作っておく。
  • 本番弾いている最中、聞こえない程度にメロディを鼻歌でうたう。

普段と違う環境で弾くと、緊張したり、身体が上手く使えないといったことが起こるのは当然ですから、その中で自分のやってきたことを少しでも発揮できるよう工夫をしていく必要があります。日常の練習の中で"何か起こったとき"どうしたらいいかを考えながら、曲を細分化したり、整理していく作業を丁寧にすることが重要になります。特に「真っ白」になってしまうという方は「暗譜」がきちんとできていない、ということになると思いますが、暗譜はただ時間をとって練習をしても"身体で覚える"だけになってしまい、頭の中では曲が曖昧な状態になっているはずです。曲を部分ごとに分けたり、右手と左手など、曲を細かく"理解"しながら音楽を自分の中にしみこませていく必要があるでしょう。

演奏することは全身、そして頭と心もフル稼働することです。どちらかが欠けてしまっていたらやはり本番の緊張状態に打ち勝つことはできません。改めて音楽の流れと身体の動きとの関係性を意識しながら練習して、作品や自分をもっと知ることで、もっと自分の伝えたいことを、最大限に聴き手に伝えることができるのではないでしょうか。

次回は、「譜読みマイスター」の三ッ石潤司先生に、曲をより深く理解しての演奏するためのヒントを伺います。どうぞお楽しみに。


長井進之介
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業及び音楽情報・社会コース修了を経て、同大学大学院器楽専攻(伴奏)修了。同大学院博士後期課程音楽学領域に在学中。主な研究対象はF. リストの歌曲作品。ドイツ・カールスルーエ音楽大学に協定留学。ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州財団給費奨学生。DAAD(ドイツ学術交流会)「ISK(語学研修奨学金)」奨学生。アリオン音楽財団2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞(史上最年少)。伴奏を中心とした演奏活動、複数の音楽雑誌への毎月の寄稿、CDライナーノーツの執筆及び翻訳を行う。
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