第6回:演奏の「引きだし」を広げるには・・・ その3『ペダルのアレコレ』
その3『ペダルのアレコレ』
前回の記事では、「アナリーゼ」で、表現の「語彙」となる和声感や、身体の使い方をより自由にしていくことについて考えました。
演奏者は、「伝えたい」という気持ちを具体的なものにしていくために、楽譜に散りばめられた沢山の情報を自分なりに解釈していかなくてはなりません。
伝えたい想いやイメージは人それぞれ。「譜読み」や「練習」を経て、人前で演奏するために、皆さんはたくさんのことを考えるでしょう。
人前で演奏する場にも色々ありますが、今回は代表的なものとして「演奏会」、「コンクール」、「試験」についてお尋ねしたところ、程度の差はあるでしょうが、演奏する場や状況に応じて皆さん演奏の仕方を変えていることがわかりました。それでは、具体的にどんな違いを意識しているのでしょうか。
- 試験では淡々と弾いていると感じることが多い。
- 演奏会では自由に。コンクールではきっちり基本にのっとって演奏する。
- テンポ、強弱も含めて表現をオーバー、かつシンプルに変化させる。
- コンクールでは、同じ課題を弾く(聴く)場合が多い。良い意味で 他の人との差異をつけて印象度を上げるには、ある程度、はっきりした、輪郭のある演奏が得だと感じることがある。
- 演奏会は自由な解釈で弾けるが、コンクールなどでは、あまり突飛なことはできない。
- コンクールで定石から外れすぎると怒られるが、コンサートなら客が喜んでくれれば良い。
頂いたご意見を見ると、試験では「シンプル」に、コンクールでは「楽譜通り」「きっちり」、「演奏会」では自由に・・・という傾向があるようですね。
演奏する場によって変えていくポイントの詳細とその効果については次回以降また検討していきますが、ピアノの演奏は、鍵盤を弾く指や腕の動きだけで成り立つものではありません。足も非常に重要な役割を果たしています。
譜読みをしている時に直接考えることは少ないかもしれませんし、曲、もしくは楽譜の種類によっては踏む(または足を上げる)タイミングが書かれていないこともありますが、足で操作する「ペダル」は、減衰楽器であるピアノから、声楽や他の楽器のように豊かに響く音色、色彩豊かな和声を紡ぎ出してくれるものです。
本番で演奏をする時には皆さん「ペダル」を自然に使っていると思いますが、いつから踏むのかを意識したことはあるでしょうか。
アンケートの結果、使用のタイミングにも色々な傾向があることがわかりました。
「譜読み」のはじめの段階から使う方と、曲ができあがってきた頃と、ほぼ半分に分かれた結果となっています。
- 曲の全体像を捉える為。
- ペダルの有無で曲のイメージが変わるので、最初から使う。
- 曲にもよるが、響きのイメージや和声感を掴むためにロマン派後期や近代の曲は開始した時から使う。
- 初見や譜読みの段階で音のイメージを作り、効果的なペダリングを考え、体と耳に覚えさせる。
- ペダルを使うのと使わないのでは響きが異なるので初期から使うが、ペダルに頼りがちになってしまうので、ペダル為しでも弾けることの確認は要ると思う。
- 最初から響きを意識して、手と足の動きを一体化させるため。
- 譜読みと、ペダルは関連付けて行った方が、曲を作るのが早くなると思う。
- 必要なものは初めから、表現も含め付けるべきだと思う。
- 響きをペダルに頼らない為。
- 譜読みの初期は、足にまで意識がいかず、音が混じって汚くなってしまうから。
- 音価を正確に把握するため。
- 初期の段階でペダルを踏むと、知らないうちにペダルでごまかしてしまうから。
- ペダルの使い方の練習も必要なので、ある程度弾けるようになってからが良い。
- 初めから使うと、ペダルに依存した演奏になるから。指でつなげて弾く、などの力もおざなりになりがち。運指を確立してから、肉付けツールの一つとしてペダルは使う。
- 初見や譜読み初期段階ではペタルの効果を感じにくい。曲のイメージを感じる為に、ある程度弾けてから使う。
- 間違った音を弾いていてもわからなかったら困るのである程度弾ける段階で使う。
- 左手の練習をしながらペダルを使うと効率が良いように思う。
最終的な完成を想定してペダルを「踏む」か、曲の輪郭が固まるまでは使わない、という点で分かれているようです。
今回の記事では、「ピアノを弾く」ときに、上半身よりも意識することを忘れてしまいがちな「ペダル」について少し考えてみました。こうして見てみると、ピアニストは文字通り「頭からつま先まで」フル稼働してピアノと向き合っていることが改めてわかりますね。
次回からはいよいよ、譜読みのプロである、「譜読みマイスター」の先生方にお話を伺い、「譜読み」をより豊かにしていくヒントをご紹介していきたいと思います。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業及び音楽情報・社会コース修了を経て、同大学大学院器楽専攻(伴奏)修了。同大学院博士後期課程音楽学領域に在学中。主な研究対象はF. リストの歌曲作品。ドイツ・カールスルーエ音楽大学に協定留学。ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州財団給費奨学生。DAAD(ドイツ学術交流会)「ISK(語学研修奨学金)」奨学生。アリオン音楽財団2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞(史上最年少)。伴奏を中心とした演奏活動、複数の音楽雑誌への毎月の寄稿、CDライナーノーツの執筆及び翻訳を行う。