第4回:演奏の「引きだし」を広げるには・・・その1『音源』
その1『音源』
これまでに頂いたご意見から、みなさんの「譜読み」のアレコレ、「自分の演奏」を作るための「お悩み」が見えてきました。
どんな音色で弾こう?
どれくらいの速さで弾こう?
どこがクライマックスになるだろう? ...などなど。
前回の記事では「考えがまとまらない」「もっと自分の演奏の幅を広げたい」という時は他の人の演奏を聴くことが大きな助けになるとお話しました。
様々な演奏を聴いていると、譜面と大きく違うテンポや楽譜に書かれていない音や装飾の挿入など、解釈の多様さに驚くことがありますよね。
それは非常に勉強になりますが、新たな悩みも出てきます。
- 自分で考えていた解釈と大きく違っていたので、自信がなくなった
- 解釈がたくさんあり過ぎて、どれがふさわしいのか判断できなくなることがあった
- 初めに聞いた音源の演奏で自分の中の曲に対するイメージが固定化してしまった
- 自分勝手な演奏になり、深く解釈せずに演奏してしまった
- ある演奏を参考にしていたら先生に変な癖だけ真似していると叱られた
また、聴いて参考にした解釈と、自分の身体とのバランスが一致するとは限りません。次のエピソードはそれを表しています。
子どものころ、ピアニストにあこがれて「こう弾きたい!」と思っても、指や腕の長さ、身体の大きさがまったく違うので、真似しようとしてもうまくいきません。
聴いた演奏の速さや強さを真似するだけではなく、「なぜそうしたいのか」「どうすればよいのか」をよく考えることが大切ですね。また別のエピソードをご紹介します。
さらに、曲を弾く環境によっては、「こう弾きたい」という想いだけではうまくいかないこともあります。
これは難しい問題を含んでいます。
コンクールや試験の場に合わせて「こういうスタイルで演奏できる」と示すことは重要な学びの過程ですし、演奏の引き出しを増やすことにもつながります。
ただし、それもいきすぎると以下のような問題が発生してしまうようです。
先生からのアドバイスや情報だけに頼るのではなく、作品から様々なものを読み取り、自分の解釈を完成させるためには「なぜそう弾く(きたい)のか」が自分の中で明確になっていなくてはなりません。
特に、研究が進むにつれて変化していく装飾音のいれかたなど、演奏法の情報をあつめて演奏に反映していくことは、解釈の可能性を広げていきます。最終的に「一般的」とされる弾き方を自分が選択しないにしても、知っておくことはやはり大切でしょう。
もちろん、場合によっては、即興的に演奏を変えていくことも求められますが、自分の中にベースとなる演奏を確立しておくことで、「自由さ」も輝きを増すでしょう。
前回のアンケートでは、自分なりの演奏を確立するためのキー・アイテムとなる「アナリーゼ」を、みなさんがどのように役立てているかうかがいました。
- 和声や形式を意識することで、主観的な表現に自信が持てる。
- 調性を感じながら演奏したら、曲の表情が変わった。
- 曲の背景、作曲家自身のことを知ることで、曲のイメージが膨らむ。
- 曲の中でどこを聴かせたいかを意識することができ、演奏にメリハリがついた。
- 内声、外声のバランスが取りやすくなったり、響かせる音がわかるようになる。
- 構造が理解しやすくなり、暗譜が早くなった。
- 分析するようになってから譜読みが早くなった。
- 終止形がわかり、段落がよりはっきりした。
- 弾くだけではわかりづらかったフレージングの疑問が少しずつ解決するようになった。
- 対旋律を意識することで演奏が立体的になった。
「~してみよう!」というアイディアは「自分なりの演奏」を作り上げるための大切な第一歩です。そのアイディアに自信をつけるためにも、曲と深いお付き合いすることができる「アナリーゼ」は大きな助けとなります。「弾く」ことだけではなく、自分の好きな演奏を探すヒントにもなり、「聴く」可能性の幅もより広がるはずです。
次回は「アナリーゼ」をもっと身近に感じて、「譜読み」をより楽しいものにできる方法について考えていきたいと思います。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業及び音楽情報・社会コース修了を経て、同大学大学院器楽専攻(伴奏)修了。同大学院博士後期課程音楽学領域に在学中。主な研究対象はF. リストの歌曲作品。ドイツ・カールスルーエ音楽大学に協定留学。ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州財団給費奨学生。DAAD(ドイツ学術交流会)「ISK(語学研修奨学金)」奨学生。アリオン音楽財団2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞(史上最年少)。伴奏を中心とした演奏活動、複数の音楽雑誌への毎月の寄稿、CDライナーノーツの執筆及び翻訳を行う。