第3回:楽譜とのカンケイを見直そう(2)
第3回アンケートへのご協力を誠にありがとうございます。皆様からお寄せ頂いたアンケートの結果を見ながら、引き続き演奏者と楽譜の関係を考えます。
前回は、2つの発見がありました。
- 初期の段階に位置づけられることの多い「譜読み」が、曲を仕上げるほぼ全てのアプローチと密接に結びつくものだということ
- ピアノから離れて、楽譜を「読み込む」ことが演奏に与える影響の大きさ
それでは、実際に楽譜を「読む」ときにはどんなことを意識しているのでしょう。
ただ「音取り」をするだけではなく、「表現の工夫に目を向けている」という方が半分以上を占めています。たとえば、次のようなコメントを頂きました。
- 作曲者・楽曲の背景などを参照し、楽譜上の指示やアナリーゼが形式的になり過ぎないようにする
より豊かな表現を目指して工夫を重ねていくうちに、「これでいいのかな?」とか、「もっと違う弾き方があるかも」という想いを抱くことはありませんか?そんなとき、人の演奏を聴いて新たな発見に出会う方も多いかもしれません。
聴くことで思わぬ発見やヒントに出会うこともある「音源」。第2回アンケートでは、皆様の音源との付き合い方をうかがいました。
六割強の方が音源を参考に譜読みを行っていることがわかります。
- フレージングや、ペダリング、内声と外声との音量のバランスなどを決める際に、音源を参考にする
- 曲の大体のイメージを掴むために聴く
- どのような表現があり得るのか知るため、多くの演奏を参考にする
- 仕上げの段階で楽譜を見ながら聴く
また、参考にするというだけでなく、復習やレッスンのような使い方も挙げられています。
- 楽譜を見ながら一緒に聞くことで身体にその音楽を染み込ませる
- ピアノの試験前や、ピアノの発表会前などに、曲を完璧に弾けるようになるための参考に
- 音源を聞きながら楽譜を目で追いかけ、譜読みの時間を短縮させるアプローチとして
- オーケストラや室内楽等の本番前に確認として
音源との付き合い方も、音楽の表現の仕方と同じく人それぞれ。非常に興味深い結果となりました。
他方で、音源を参考にしない、もしくは「譜読み」がある程度完成するまでは聴かない、という方もいらっしゃいます。あくまで楽譜から受け取る情報を頼りに自分の演奏を作り上げようと取り組んでいるようです。
そこでもう一つの「譜読み」のキー・アイテムの登場です。
楽曲の「分析」をすることで、その作品の世界をより深く知ることができますが、音源との付き合い方と同様、それを行うタイミングはさまざまでした。
「分析は特にしない」という方もいますが、頂いたコメントによれば、「譜読み=分析」と考えている方もいらっしゃいます。楽譜を「読み」、感じたことや考えたことを演奏へとつなげていくのですから、「譜読み」をして曲を把握することは、すでに「分析」であると考えることもできるでしょう。
第2、3回とお答えいただいたアンケートからは、ただ音を並べていくだけではなく「自分のイメージ」を表現するための様々な試行錯誤が、よりよい「譜読み」につながっていく...ということが改めて浮き彫りになってきました。
次回は、今回挙げた「譜読みのためのキー・アイテム」のさまざまな活用について考えていきたいと思います。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業及び音楽情報・社会コース修了を経て、同大学大学院器楽専攻(伴奏)修了。同大学院博士後期課程音楽学領域に在学中。主な研究対象はF. リストの歌曲作品。ドイツ・カールスルーエ音楽大学に協定留学。ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州財団給費奨学生。DAAD(ドイツ学術交流会)「ISK(語学研修奨学金)」奨学生。アリオン音楽財団2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞(史上最年少)。伴奏を中心とした演奏活動、複数の音楽雑誌への毎月の寄稿、CDライナーノーツの執筆及び翻訳を行う。