第2回:楽譜とのカンケイを見直そう(1)
第2回アンケートへのご協力を誠にありがとうございます。今回は、皆様からお寄せ頂いたアンケートの結果を検討しながら、演奏者と楽譜の関係性を考えます。
まず、皆さまの「譜読み」スタート時のアプローチを知るため、「あなたの譜読みはどっち?」と伺いました。結果は以下の通りです。
八割近くの方が、実際に音を出すことで「譜読み」のスタートに立っています。「イメージを膨らませてから」派は二割強と少なめですが、ここには様々な方法や段階が含まれていると思われます。
「音の把握やテンポの設定をしてから」、という方もいれば、フレージングや強弱はもちろんのこと、動機や構造、和声などの「分析」も行って、曲をかなり深いところまで読み込んでから「さあ!ピアノで弾いてみるぞ!」という方もいらっしゃるはずです。
第一回のアンケートで「ピアノなしで譜読みをし、暗譜で演奏できてしまう」ピアニスト、ヴァルター・ギーゼキングのエピソードを紹介して下さった方がいらっしゃいました。
もちろん、このようなことができるまでに、彼は師であるカール・ライマーから厳しい訓練を受けていました。ライマーは徹底した耳の訓練と「暗譜」を重要視し、楽譜に即した演奏を求めていたのです。実際に、ギーゼキングの作品を把握する力は素晴しく、コンサート会場への移動中の数時間で曲のすべてを暗譜して演奏してしまうほどでした。
ギーゼキングの例は極端かもしれませんが、「音を出さずに読む」ことも、演奏のための「譜読み」として無視はできません。そう考えますと、「譜読み」は非常に幅広い意味を含んだものといえるでしょう。
さて、幅広い可能性を持つ「譜読み」ですが、どこまでを指す語なのでしょうか。
演奏する曲とのお付き合いの初期を「譜読み」と考えている方と、ほぼ仕上げに近いところまでを「譜読み」とする方で、大きく分かれています。
前回の記事で、ピアノを弾く方が曲を仕上げる際のアプローチには以下のような5段階があると書きました。
- 初見
- 譜読み
- 練習
- 暗譜
- 完成(本番、もしくは先生からマルをもらう)
アンケート「1」と「2」の結果を踏まえますと、「譜読み」は、初期の段階だけに行うものではなく、「完成」に近いところまでをカバーできるものだということが見えてきます。
なお、音を出さずに「読む」ことを「譜読み」としている方は2%ですが、アンケート「1」の結果とあわせて考えると、その中には多種多様なアプローチがあると思われます。演奏をより豊かにするキー・アイテムである「分析」「アナリーゼ」を「譜読み」の一部と考えている方もいらっしゃるでしょう。
楽譜を「読む」ことも、単に「眺める」から深く「考える」まで、幅広い意味を含むものだということがわかります。
連載開始前の第1回アンケートで「譜読みが終わる条件は?」とお尋ねしたところ、「一通り弾けること」というご意見がおよそ半分を占めていました。ただし「一通り」といっても、その意味することはやはり人それぞれ。「重視していることは?」という質問では「一通り」の中身に迫りました。この結果からは、「テンポ」が後回しにされる傾向がうかがええます。
前回の記事では「譜読み」を初期の段階に位置づけていましたが、追加アンケートで頂いたご回答を読み込むことで、曲を仕上げるほぼ全てのアプローチと密接に結びついていることがわかりました。
さらに、楽譜を「読む」ことの幅広さも見えてきました。ピアノを「弾く」行為から離れて、楽譜を「読み込む」ことが演奏そのものにどのような影響を与えるのか、次回以後では楽譜を「読む」ことを得意とする「譜読みマイスター」というべき方々に、お話をお聞きします。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業及び音楽情報・社会コース修了を経て、同大学大学院器楽専攻(伴奏)修了。同大学院博士後期課程音楽学領域に在学中。主な研究対象はF. リストの歌曲作品。ドイツ・カールスルーエ音楽大学に協定留学。ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州財団給費奨学生。DAAD(ドイツ学術交流会)「ISK(語学研修奨学金)」奨学生。アリオン音楽財団2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞(史上最年少)。伴奏を中心とした演奏活動、複数の音楽雑誌への毎月の寄稿、CDライナーノーツの執筆及び翻訳を行う。