第04回 武田真理ピアノ教室
1.絡まっていた糸が自然に解けるように-その1-/ 2.絡まっていた糸が自然に解けるように-その2-/ 3.聴衆の心に響くピアノ/ 4.小学生から音大生まで貫く指導/ 5.生涯のレパートリーを子供のうちから持たせる
1.絡まっていた糸が自然に解けるように ─その1─
当協会評議員、室内楽・協奏曲委員長、指導法研究委員会チーフ、 フェスティバル実行委員、運営委員とピティナでも幅広く活躍中の武田真理先生。
88年より全国各地でピアノ指導法に関する公開講座・公開レッスンを開催し、各地で好評を得ている。
更に98年より、名古屋日響楽器、大阪三木楽器にて、専門コースの指導にあたり、 その門下は小学生から大学院生まで、全国に広がっている。さらには海外の音大に 進む生徒も少なくない。現在、東京音楽大学教授。
本日は、小学生から芸高、東京音大の演奏家コースに通う高校生まで、4名の生徒さんと、当協会会報編集・広報委員の江夏範明先生には、今日はご父兄のお立場でお越しいただきました。
─ 今日いらしている生徒さんとの出会いで印象的だったのは?
武田:湯川さんとの出会いは印象的でした。彼女は、1年間程、独学でピアノを続けていましてね。今は東京音大の演奏家コースの高校2年生です。独学だったわけですが、すごく良かった。高校へも、ピアノがとびきり上手な人を1、2名推薦で入れるシステムがあるのですが、私のところへ来てわずか1年弱で入ったんです。
─ どのような理由があって、独学で勉強されていたのですか?
湯川:知り合いの紹介で、先生にお願いすることになったのですが、中学校1年くらいの時に、いろいろとピアノに対する行き詰まりがあり、それから1年間、すこしピアノから離れた時期がありました。その時は先生につかず、一人で勉強していました。
─ なぜ、中学校の時期に、行き詰まりがあったのでしょうか?
湯川:その時習っていた先生は、頭ごなしに叱ったりとか、それじゃ駄目だって理由も言わずに直そうとしたり、それで凄く圧迫感があって、それでピアノが嫌いになりかけていたんです。そんな時、知人の紹介で武田先生のところに来ました。
─ 先生のレッスンは如何ですか?
湯川:武田先生のレッスンは、ああしなさい、こうしなさいではなく、相談のような感じ。先生から影響される要素が、たくさんあります。すごく広い範囲でやってくださって、例えば絵画とか、時代背景から音楽に通ずるものを教えてくださるし、すごく視界が広がって、いろんな面から勉強できます。時間もたっぷり取ってくださいます。
─ 湯川さんも、高校二年生にしてしっかりとした音楽観を持ってらっしゃるんですね。
武田:持っていますね。だからものすごくはっきりしてるの。分からないことは分からない、やりたくない事はやらない。(笑)やらされ感でピアノを弾いていないと思います。
彼女はとても個性的な演奏をしますので、コンクール等では評価されない場合もありますが、でも「個性」は大事なことだと思います。やはり個性がないとやっていけない世界ですから。
─ レッスンは、音楽感を持っている子を、押さえ込まないで引き伸ばしてあげるような感じでしょうか
江夏(父):そういう子には先生は素晴らしいご指導をされていると思います。一番その子の良い所が出てくるんじゃないかなあ。とにかく技巧的に弾けないところを解除するというのが素晴らしいから、弾けるようにはとにかくしてくれる。その上で音楽を作ってくださいます。
─ 湯川さんも、高校二年生にしてしっかりとした音楽観を持ってらっしゃるんですね。
武田:持っていますね。だからものすごくはっきりしてるの。分からないことは分からない、やりたくない事はやらない。(笑)やらされ感でピアノを弾いていないと思います。
彼女はとても個性的な演奏をしますので、コンクール等では評価されない場合もありますが、でも「個性」は大事なことだと思います。やはり個性がないとやっていけない世界ですから。
江夏:そういう子には先生は素晴らしいご指導をされていると思います。一番その子の良い所が出てくるんじゃないかなあ。とにかく技巧的に弾けないところを解除するというのが素晴らしいから、弾けるようにはとにかくしてくれる。その上で音楽を作ってくださいます。
─ レッスンは、音楽感を持っている子を、押さえ込まないで引き伸ばしてあげるような感じでしょうか。
湯川:そうですね。「直っていない!」という教え方ではないです。
江夏(父):自分がこう弾きたいというものがあるのに、「どうして直せないの?」ということではなく、先生は自由に弾かせてくださいます。でも弾けないところだけは、きっちりと厳しく教えてくださる。きちんとした形で弾けるようになったら、音楽という事に対しては、あまりいじらない。だからうちの娘も、すごく楽しくやっていると思います。
─ 更にその上を求めて、ということですね。
1.絡まっていた糸が自然に解けるように ─その2─
◆江夏真理奈ちゃん(小6)と今年コンペティションのデュオで共演した佐藤さつきちゃん(中1) |
─ 他の生徒さんは?
武田:江夏真理奈ちゃんと、佐藤さつきちゃんは公開レッスンを受講してからうちに来ました。
江夏(父):武田真理先生に大阪でお会いしたときに、「先生、実はうちの娘が、二度ほど先生に教えていただいていますが、覚えてらっしゃいますか?」って聞いたら、「覚えてるー」って先生がおっしゃって、それでお願いすることになったんです。
─ 公開レッスンの時、先生に習いたいと思ったきっかけは?
江夏:短い時間の中で、とっても分かりやすかったから。最初、先生が風邪をひいていて声がすごく低くて、怖いなと思ったんですけど、レッスンをやっているうちに楽しい!って思いました。
─ 武田先生のレッスンはどうですか?
江夏:楽しい!レッスンにくるのが楽しみです。神奈川県から2時間近くかけて1人で通っています。
◆野牧愛さん(高1)は、武田先生のご指導を受け、今年芸高に見事合格! |
─ 野牧さんからも武田先生のレッスンについてお伺いしたいと思います。
野牧:そうですね。神経が頭から手にビっと通って伝わってくる感じがします。絡まっていた糸が解れてきて、自然に弾けるようになってくるというような。あとは、内面的な感情とかもどんどん教えてくださいます。
─ 目に見えないものがあるんでしょうか?
江夏:そうなんですよね(笑)私もピアノ指導者として教える立場から見ても、非常に勉強になる先生です。先生のピアノは上品で美しい。だから皆うっとりして、自然と真似しているのかもしれない。オーラですね。(笑)熱気というよりも、心の中から何かが伝わってくるような感じなのです。
あとは、先生は崩れたものが嫌いで、リズムが悪い等は、きちんと直した上で次のことを教えてくださいます。
武田:リズムが壊れているものっていうのは、どうしても評価が分かれます。それが良いと思う人もいるかもしれませんが、嫌いな人の方が多いから。例えば歌い方一つとっても、テンポを変えて歌う人は評価の分かれる元になります。きちんとした拍感を持った上で音楽を作って行くことを目指しています。
─ テクニックの面での先生のご指導は?
江夏:そのものはあまり細かくおっしゃらないのですが、勝手に動くようになる。
全員:そう!
─ 何故なのでしょうか・・・・・。
野牧:頭が動くからだと思うんですけれど・・・。
湯川:毎週学校で教えていただいていますが、一週間前に言われたことを含めて、更に新しいことをどんどん、絶対に流れを止めないでくださるから、自分でわからなかったこともすぐに整理がついて、前に進んで行けます。
─ レパートリー中心にレッスンされているのでしょうか?
武田:そうですね、曲を中心にですね。曲の中からテクニックを上げていくという事をやってきました。例えば、ピティナのコンクールを受ける中で、必要なことを学んで行けると思います。予選の曲は一通り全曲やって、その中から選んでいくと、バランス良くいろいろな要素が含まれているので、全部網羅できてしまう・・。さつきちゃんは今年D級の課題曲全部やりましたね。
2.聴衆の心に響くピアノ
─ コンクールへの取り組み、というのは、どのように捕らえてらっしゃいますか?
武田:本番の数っていうのはすごく大切ですから。あとは、審査員よりはやはり、聴衆だと思います。聴衆に対してどれだけ届くかという事を自分の中で常に考えてもらいたいです。いろんな反応(とんでもない聴衆やとんでもない審査員)を受け止める力。悪い意味での「とんでもない」ではなく、意外な反応というのもあると思います。本番じゃないと分からないことってあると思いますし、そういうことを体験していくと何かを掴んで帰ってくるんです。レッスンの中だけでは体験できないと思います。精神で音楽って変わってきてしまう。その時の気持ちで。聴衆が喜んでくれる(自分の演奏を理解してくれる)と感じた時に、良い演奏が出来るのではないでしょうか。
江夏:コンクールを通していろいろ学べるっていう事を教えてくださる先生でもありますね。駄目だった時にも、先生がいろんな事を言わないんですよ、子供たちに。
─ コンクールをステージとして考えられているのでしょうか。
武田:そうですね。ステージでどれだけ自分のやっていることが相手に届くかっていう事じゃないですか。その届き方も、自分が届くと思っていても届かなかったりしますね。もともと全部体験できるのはステージだと思うし、その緊張感もすごく大事だと思うから。どうしても本番がないと、気持ちが行かないでしょ?本番の度に、みんな上手になっていくんですよ。もちろんいい結果が出ると良いなと思って練習するんですけれど、それだけじゃないですよね。
江夏:一回一回のステージで子供は伸びて行きます。その経過を、先生がどういう風に感じて子供を導いてくれるというのが、うちの子の場合は上手くいきましたよ。勝つことはそんなに重要視していませんでした。
武田:同じペースでやってきましたね。自分の中で出来る限りのことをやるという事を目指しています。
─ 野牧さんは、昨年、日本でのオーディションに合格し、武田先生と一緒にジーナバックアウアー国際ピアノコンクールに行かれましたね。国際コンクールに先生と行けるというのはすごく良い体験ですよね。
野牧:もうすごく心強かったです。結果的には、自分の思ったとおりの演奏ができたので良かったで.。コンクールを受ける中で学ぶことはすごくいっぱいありました。各国から集まったコンペティターたちの演奏も聞くことができますし。
武田:その前日のリハーサルで、他の人の演奏を聴いて、皆すごい弾けそうに見えたようで、更にアメリカのピアノも日本と違う感覚だったようで、リハーサルの時は「どうしたの?」というくらい音がでなかったですね。色々な体験の中で、精神的にも鍛えられたのではないでしょうか。
3.小学生から音大生まで貫く指導
─ 今日いらしていただいた生徒さんの他に、どのような年齢層の方がいらっしゃいますか?
武田:今一番小さい年齢が小学校3年生。上は、ピアノ指導者の方もいらっしゃいます。熱心に月に一回くらいいらっしゃって、ピティナの課題曲を自分で弾いて持ってきます。
あとは、卒業生の子が留学するために来たり。
─ 先生の生徒さんは専門家を目指している方が多いのでしょうか?
武田:音大・音高生の他に、中学生も多いです。小学生もいます。やはり専門を目指している子が多いですが、小学校・中学校のうちに決めるのではなく、そのような道も頭に入れながら・・という感じでやっています。
─ 小学生から大学生までとても幅の広いご指導をされていますね。
武田:だいたい7歳くらいからの子は、音大、その先の研究科、大学院まで進んじゃうと、10年以上のお付き合いになりますね。
江夏:小さいうちから音楽大学まで、全部一貫して先生が指導されているので、子供が20歳担ったときのことを考えて、長い目でご指導くださる先生だと思います。
でも偏ったりすることなく、例えば他の先生の公開レッスンもうけてごらんとおっしゃってくださるし、「ホームの先生」として信頼関係がきちんと出来ているので、どんどん他の先生のレッスンを受けることを進めてくださいますね。
武田:地方の子や、高校、大学生などは「ダブルレッスン。」2名の先生につけています。良い面と悪い面両方ありますが、いろんな刺激を自分に与えると自分が変わってくるから。若いうちは、いろいろなものを吸収して欲しいですね。どれが正解というのはないので。いろんなものを見たり聞いたり、伸びる材料が増えます。一番大事な時期だと思います。
江夏:小学生の指導ができて、音大の話ができる先生です。今多くの場合、子供の教育と音大は別ものという感じで、分離していますよね。このような立場の先生は、貴重な存在ではないでしょうか。
5.生涯のレパートリーを子供のうちから持たせる
─ では、小学生の時から音大の先生にみていただく良さとは?
江夏:そうですね。小さい子用の教え方、音大生の教え方って分けていらっしゃらないので、専門家に教える教え方を子供にもちゃんとしてくださる先生です。
武田:同じですね、要求することは。でもそれはね、できるのよ。少しは分かりやすい言葉を使っていますけれども。
─ レッスンは大体何時間くらいですか?
武田:1人1時間~2時間取っています。
江夏:弾いている曲が多いので、先生も一生懸命やってくださるので、どうしても二時間くらいになってしまいますね。びっくりしたことは、三年生の子にも、二時間くらい。
音大の生徒さんと同等のレッスンを小さい子にしてくださるんです。
─ 音大生と、小学生と同じレッスン内容なのですね。
江夏:武田先生のレッスンは明解。ぐちゃぐちゃと弾いている曲をレッスンに持っていったとします。その曲がレッスンの中で、コツを掴んで何故か弾けるようになってしまうんです。本当に不思議ですよ。例えばショパンのエチュードのOp.10-4をレッスンに持っていくと、実際に演奏してくださり、耳から部分的な演奏を伝えていただいてコツを掴んでしまうんです。
─ 小学生でショパンエチュードですか?
江夏:はい。小学生でショパンのエチュード、プロコフィエフの3番ソナタ等を練習しています。小学校3年生の時に先生にお願いすることになりましたが、その後急激に伸びました。コンクールで審査員の先生から、年齢を感じさせない演奏だという講評をいただいたこともあります。あと、音(音質)に関して、先生は上手に教えてくださいます。だから一個一個の音がすごくはっきりと、ホールの後ろの席まで聞こえてくるんですよ。
─ 先生は大学生でも演奏するような作品を小学生に弾かせることに対して、どのようにお考えですか?
武田:曲の内容の深いところまでは要求していません。今その曲を完成させなくとも、何回も弾いて、レパートリーとして一生持っておけば良いと思っています。絶対大人でないと弾けないような曲、例えばベートーヴェンの後期ソナタなどは、小学生には弾かせませんが、ある程度テクニックを培うような曲をやると、すごく伸びるんですよ。初めて16歳で弾くのではなく、11、12歳から弾いていて、16歳で舞台で演奏したら違いますよね?早いうちに弾いてれば20歳になった時に円熟味が出てくる。
─ 特に小・中学生などは、技巧にばかり走ってしまう危険性は?
江夏:音楽がちゃんと入るように先生がしてくださるので、大丈夫です。大人みたいに弾けるようになるんです。そこ家に帰って100回200回練習しなきゃね、という教え方ではない。
「ああ、ここはこうすれば良かったんだ」って事に気づかせてもらえます。その場で弾けるようにする、不思議な力が先生にはあります。
あとは決して先生のコピーではない、ということも挙げられるのではないでしょうか。
武田:それだけは自信持っていえます(笑)。みんな違う演奏になるわよね。
湯川:同じ高校生でも、演奏スタイルは、10人いれば10通りですね。
─ 生徒さん達の演奏、聴いてみたいですね。
武田:そうそう、来年の3月25日にこまばエミナースで、野牧愛ちゃんと江夏真理奈ちゃんのふたりがリサイタルをします。
プログラムをご紹介しますね。
─ 未来のピアニスト達の演奏、楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。
江夏真理奈&野牧愛ピアノリサイタル
2003年3月25日(火) 19:00開演プログラム:江夏 真理奈(小六) ハイドン ピアノソナタ 第52番 変ホ長調 全楽章 ショパン バラード 第一番 ト短調 Op.23 プロコフィエフ ロミオとジュリエットより抜粋 プロコフィエフ ピアノソナタ 第三番 イ短調 Op.28 野牧 愛(高一) バッハ トッカータ ホ短調 ショパン ピアノソナタ 第二番 変ロ短調 Op.35 全楽章 スクリャービン 24の前奏曲 |