ピアノとコーチング

第13回 NOと言えなかった私

2008/02/13

私には苦い経験があります。

それは、NYから帰国して間もない頃、まだ生徒さんが5人ぐらいしかいない私は、新しい生徒さんとの出会いを求めていました。
そんな中、地元のミニコム誌に出した私のピアノ教室の案内を見て、訪ねてきてくださった50代の女性Aさん。昔習ったピアノをもう1度、基礎から勉強し直したいとのご希望でした。私は、大人の生徒さんが来てくださったことが嬉しくてたまりませんでした。

でも、レッスンを数回進めたところで、Aさんには、強い思い込みがあり、自分を変えようとしないこと。私の言うことを全く聞こうとしないので、指導が機能しないといった、困った問題点があることに気づきました。 2ヶ月を過ぎた頃、ふとした会話から、実はAさんは心の病気で、その治療とリハビリのためにピアノを習い始めたことを知りました。
それを聞いた私は、「力になりたい」「音楽の力でAさんの苦しみを少しでも救えることができたら」と使命感に燃えました。

正直言うと、せっかく来てくださったAさんに続けてもらいたい、成果を出したいといった欲もありました。 しかし、告白したAさんは、ほっとしたせいか、ハイテンションで一方的に話すことが多くなりました。これではレッスンになりません。
私は責任感と義務感の中で戦い、その重さに押しつぶされそうになっていました。さらに、Aさんの住むグループホームや作業所にアドバイスを求めたのですが、返事が来なかったことで、さらに孤独感が高まりました。 ある日のコーチングのクラスで、心の病気を持った人とのコーチングは、専門知識や資格を持たないコーチを引き受けてはいけないこと。また、既にコーチングが始まっている場合は、中止し、専門家に相談するなど、様子をうかがったほうが良い場合があると知りました。


様子をうかがった方が良い場合

1.一方的に話し、人の話を聞けない
2.不眠が一週間以上続いている
3.感情の浮き沈みが極端に激しい
4.時間や約束が守れず、ドタキャンが何度も続く
5.妙なハイテンション
6.被害者的な言動が続く
7.アルコール依存症
8.すべてが依存。自分で動けない
9.自分をひどく責める
10.自分をコントロールできない(過食・拒食)

ピアノを教える技術や意欲さえあれば、Aさんを助けられるとおごり高ぶった気持ちを持っていた私は、社会復帰されようと頑張っているAさんにNOという勇気もなく、ずるずるとレッスンを続けてしまいました。
今思うと、病気治療のことを知った時に、すぐ担当医師やカウンセラーの連絡先を聞き、困ったときは判断を仰げるような体制を整えるべきでした。
その他、心理カウンセラーの資格をお持ちのピアノの先生の情報を捜し、ご紹介する方法もあったと思います。 結局、数ヵ月後に結局レッスンをお断りすることになりましたが、それは罪悪感も重なって本当に重い心のしこりになってしまいました。

もし、レッスンが全く機能しないと感じたとき、また、生徒さんの心の状態が良くない場合、あきらかに何かが気にかかる場合は、無理に続けたり、長引かせてはいけません。
専門家に相談されることをおすすめします。

詳しい専門知識は必要ないとしても、心の病気について、ピアノ教師としても、どういうものであるか、どういう症状なのかある程度の情報を得ていた方がいいと思われます。心の病気について簡単にわかりやすく説明されているサイトをご紹介します。
参考にしてください。
日本精神科看護技術協会HP


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