子どもの可能性を広げるアート教育

第11回 「色々なリズムを体感してみよう!」

2008/12/19
【今週のお勧めサイト】 子供を対象にしたコンサートを数多く企画しているPierre Charvet氏のサイトより。指揮者Roth氏とのディスカッション風景や企画のプロセス等が映像でご覧になれます。http://pierre-pics.blogspot.com/
第11回 「色々なリズムを体感してみよう!」 -Cite de la Musique子供&ファミリー対象コンサートより
11月15日(土)パリ20区にあるCite de la Musiqueにて、「Pulsez!」という子供&ファミリー向けコンサートが行われました。Pulsez!とは、色々な拍子を体感してみよう!という意味。文字通り、様々な拍子やリズムが登場する、とても楽しいコンサートでした。約1000人のホールは、1席の残りもないほど満席でした。今回はその様子をリポートします。

◆ 次々に繰り出される、様々な拍子・リズム

60分のコンサートで、拍やテンポの異なる9曲が紹介されました。指揮はOrchestre Les Sieclesを率いるFrancois-Xavier Roth, プログラム構成と司会進行は作曲家Pierre Charvet。
まずは、プログラムからご紹介しましょう。

リュリ:「トルコ人の儀式のための行進曲(Marche pour la ceremonie des Turcs, Alceste ou le triomphe d'Alcide, Rondeau pour la Gloire)」
テレマン:「食卓の音楽(Musique de table no.1, Rejouissance)」
シャルパンティエ:「テ・デウム(Te Deum, Prelude)」
ヴィヴァルディ:「四季」より夏(L'ete, Final)
ラモー:「ダルダニュス」よりリゴドン(Suite de Dardanus, Rigaudon)」
シュトラウス:「美しく青きドナウ(Le beau Danube bleu)」
バーバー:「弦楽のためのアダージョ(Adagio pour cordes)」
マントヴァーニ:「ストリート(Streets)」
ブーレーズ:「打ち手のない槌(Le Marteau sans maitre, L'artisanat furieux)」
スペシャル・ゲスト&全員で合唱


◆ リュリの華麗な曲で幕開け

第11回 コンサートの幕開け、まずチェロ、コントラバス奏者がステージ中央に着席します。でも・・・?次が出てきません。「あれ、他の演奏者は?」と思って見ていると、小さい音で「タン タタ タン タタ タン・・・」と2拍子のリズムを刻みながら、マラカス、タンバリン等の打楽器が一人ずつ出てきます。そしてリュリの華麗な宮廷音楽とともに、管楽器のグループがステージ袖から登場。
それに続いて、11人のヴァイオリンと4人のヴィオラ奏者が、ホール後方から軽やかなステップを刻み、聴衆に目線を投げかけながら登場してきます。まるで宮廷のサロンで、軽やかに行進しながら入場する音楽隊のようです。

この演奏会のテーマは、「拍子」を身体で感じること。
まずは2拍のリズムを、リュリの曲で体験します。2拍の軽快なリズムと、風のように軽やかなフルートが心地よさをもたらしてくれます。続くテレマンは3拍子のメヌエットで、雰囲気が変わります。

3曲目に移る前に、リズムの世界の面白さを体感するため、パーカッション芸が披露されました。ステージ脇に机が4つ並べられ、パーカッショニスト4人がイスに。長い木製スプーンを両手に持ち、ふっと手を上げたと思うと、見事な腕さばきで「タカタカタカ!」と目にも止まらぬ速さでリズムを打っていきます。ちょっとコミカルな演技が笑いを誘い、会場は一気に興奮状態!なんと机の上に、水が入ったコップも置かれていました。でも、どんなに激しくリズムを打っても一滴もこぼれません、これはお見事!その後、スプーンを金属鍋に持ち替え、響きの違いも楽しめる仕掛けもあり、これには子供たちも大喜びでした。

3曲目、シャルパンティエの曲には付点のリズムが登場。『テ・デウム』は主に17世紀、戴冠式などの大行事の際に使われた賛美歌です。

4曲目は有名なヴィヴァルディ「四季」より『夏』です。演奏に入る前に、ヴァイオリンのソリストがゆ~たりしたテンポで冒頭部分を弾いてみます。「テンポが変わると、音楽も変わってしまいます。これだとちょっと感じが出ませんね?」と指揮者。その後普通のテンポで弾くと、実に生命力に溢れた「夏」が表現されました。2通りの演奏で、子供たちにテンポの重要性を教えます。

5曲目はラモーのリゴドン。ルイ14世時代に流行した宮廷舞曲です。2拍子の軽快な音楽にのり、輪になって軽く飛び跳ねながら踊ります。

続いては3拍子の代表格、ワルツ。リヒャルト・シュトラウスの『美しく青きドナウ』が紹介されました。指揮者は指揮しながら後ろを振り向き、「1・2・3、1・2・3」と手でリズムを数え、子供たちに拍の刻み方を伝えていました。


◆ 調性音楽から、無調性音楽へ

第11回
(c) cite de la musique

ここで一転、7曲目のバーバー「弦楽のためのアダージョ」は、拍を取るのが難しい1曲。アダージオの緩やかなメロディが、音色を変化させつつ、途切れることなく続きます。定まった拍のある音楽、ない音楽の違いは、音楽全体の印象にも大きく関わってきます。その対比がよく分かるプログラムでした。

さあ、ここでまたパーカッション芸の登場です。今度は机ではなく、パーカッション4台を自在に操ります。普通に打ち鳴らすだけでなく、強弱をつけたり、側面を打ったり、スティックをボールペン?などに持ち替えたり、指先で鳴らしたり、ドラムを持ち抱えながら底の紐をギターのようにかき鳴らしたり。ここでもコミカルな演技をしながら、打楽器の様々な可能性を引き出し、会場を大いに沸かせていました。前半のスプーン芸と合わせて、リズムの世界の奥深さが十分に伝わったようです。

最後の2曲は、現代作曲家マントヴァーニとブーレーズによる小品。マントヴァーニは、NYのような大都市の雑踏と騒音を表現した曲、ブーレーズは小編成でやや東洋的な響きの曲です。
調性音楽のリズム、拍、音程、テンポを聴かせた後、無調性音楽までしっかりプログラムに含めるあたりに、独創的な工夫が見られました。

そして、米国からスペシャル・ゲストを迎えてのラスト。ジャズ&ソウルシンガーのGiovanni von Essenが登場し、スティービー・ワンダーの曲をフランス語に読み替えて、全員で合唱です。こんな時は、普段よくしゃべるフランス人でも少し恥ずかしいのか、初めは声がなかなか出ません。「今日は皆ちょっとおとなしいのかしら?」の一言に、歌声が一気に大きくなりました。最後は2拍子のソウルフルな歌で締めくくり、コンサートは大盛況のうちに終わりました。


Cite de la Musiqueでは、土曜日にConcert Educatifという教育的内容のコンサートを行っており、毎回児童や家族連れで賑わいます。またオンラインで、過去のコンサートやCD音源などが視聴可能です。ご興味のある方はぜひご覧下さい。
http://www.cite-musique.fr


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筆者ブログ:パリの音楽・アート雑記帳


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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