第04回 中浴聡さん
■中浴さんの演奏:♪mp3 12m05s リスト/スペイン狂詩曲 |
2007年6月30日に武蔵野市民会館小ホールで行われた、東京六大学ピアノ連盟第12回定期演奏会での彼の演奏は記憶に新しい。小さなミスをミスと感じさせない大きなスケールで、満員の会場を熱狂の渦に巻き込んだリスト作曲『スペイン狂詩曲』。大阪国際音楽コンクールでの高校時代からの活躍。力むことのない音楽への姿勢は、様々な経験を積もうとする彼自身の原動力にもなっている。現役東大生として勉強に勤しむ彼の今までとこれからを聞かせていただいた
私立灘中学・高校卒業、現在東京大学理科2類2年次在学中(工学部化学生命工学科進学予定)。中学・高校時代はクラシック研究部に所属。小3のとき、和歌山音楽コンクール第1位。高校のとき、同コンクールで入賞。大阪国際音楽コンクールにて、アマチュアピアノ、アンサンブル両部門で金賞ならびに文化奨励賞受賞、コンチェルト部門で第2位(1位該当者なし)。現在、東京大学ピアノの会に所属し、東京六大学ピアノ連盟第12回定期演奏会、オールデュオコンサートに出演。これまでにピアノを出口美智子、宮下直子、東郷まどかの各氏に師事。好きなピアニストは特にいない。(2008年1月19日現在)
石川伸幸(以下、石川):どうも、こんにちは。そして大阪国際音楽コンクール入賞おめでとうございます。
中浴聡(以下、中浴):こんにちは。ありがとうございます。
石川:まず自身のピアノ歴を聴きたいのですが、ピアノはいつから始められたのですか?
やらされていたピアノを好きに
中浴:最初は幼稚園の時にヤマハのグループレッスンからでした。個人レッスンを受け始めたのが幼稚園の終わりくらいからです。その先生のところから、その先生の師匠さんにどんどん移って行ってという感じで勉強していました。小学校の終わり頃から出口先生に師事していて、先生が病気になられて中高は宮下直子先生に師事し、東京に出て来てからは東郷まどか先生に月2回くらい見てもらっています。
石川:なるほど。地元は和歌山ですよね?
中浴:はい、和歌山です。
石川:家族のみなさんは音楽をされていたのでしょうか?
中浴:母親がピアノをたしなんでいました。だから元々、ピアノが家にはありましたね。よくは覚えていないんですが、ピアノを始めるきっかけは母親だったと思います。いわゆるやらせられる、ということから始まったのは確かです。
石川:なるほど。しかし現在まで続くとなるとピアノを自発的に好きになる時が来るはずですよね?
中浴:そうですね、小学校高学年の頃から好きになって自発的に弾くようになりました。
石川:小学校高学年の頃から好きになり始め、中学と高校でクラシック研究部という部活に入られますが。
中浴:はい、この部活はバイオリンやチェロなどを弾ける人達もいて室内楽などが出来ました。とても充実していて、中高6年間所属していましたね。
石川:いい部活動ですね。その中高が名門の灘中学・高校なわけですが、灘中学を受験する時に音楽学校等への進学は頭の中にはなかったですか? その後に現役で東大に進学しますが。
趣味としてのピアノ、これまでの練習と今
中浴:音大に対しての魅力はずっと感じませんでしたし、もともとピアノで大学に進学しようというのはほとんど考えていませんでした。将来の仕事のことを考えるとやはり大変だと思いましたし、勉強の方で進もうと思い中学受験をしました。本当は和歌山の地元の私立中学に行くつもりだったんですが、運良く灘中学に合格出来たので灘中学に迷わず進学しました。小学校の頃に習っていた出口先生にも最初からピアノで進学するつもりはない、ということも言っておいたのは覚えています。
石川:なるほど。もう本当に趣味という感覚でピアノを弾いていたのですね? 何を弾いていたんですか?
中浴:そうですね、練習もあまりしなかったように思いますしピアノの前に座っている時間もあまり多くはなかったのではと思いますが、小学生の頃から中学終わりまではチェルニーとバッハなどを結構続けていて、30番、40番、50番の途中までやインベンションとシンフォニアをメインにそれと平行して他に様々な曲を弾いていました。それからはショパンのエチュードがメインになってきてという感じでした。出口先生門下の集いに「エチュードの会」というのがあって、要はエチュードしか弾けないのですが、その影響でエチュードはしっかりとさらうことが出来ましたね。今思えばそのおかげでテクニックはかなりついたと思います。とはいえ単純に趣味として真剣に楽しんでいる感じでした(笑)。
石川:そのスタンスは小学校の頃から今まで変わっていませんか?
中浴:そうですね、一生変わらないと思います。
石川:例えば東京六大学ピアノ連盟(以下、六連)の演奏会に向けてこの前弾かれたリストのスペイン狂詩曲なんかはどれくらい練習したのでしょうか? 以前からの毎日の練習など。
中浴:小さい頃は練習も結構やらされていたんですが物心ついてからはもう(笑)。そのリストにしても毎日の練習時間は特別普段と変わらないです。特に大学に入ってからは練習量もかなり減っているので、平日は1時間前後ですかね。弾かない日もあったりと、ヤバいですよね(笑)。ちなみに中高の時がだいたい1、2時間でしたからもともと長時間練習をするという習慣はありませんでした。
石川:ヤバくなんかないですよ(笑)。短い練習の中で充実した成果を出されていると感心してしまいます。そんな中、一貫して小学校の頃から現在まで様々なコンクールに参加されていますね?
中浴:そうですね、コンスタントに出場していますね。小学生の時に先生の勧めで参加したのが最初です。もちろんピティナにも参加していました。和歌山音楽コンクールや大阪国際音楽コンクールの他にも色々参加しているんですが、毎年夏に開催される大阪国際音楽コンクールが自分にとっても一番思い入れが強いです。現在進行形で進化しているコンクールでして、その運営のお手伝いもさせていただいています。
石川:中浴さんは大阪国際音楽コンクールの出場者でもありスタッフでもあるわけですが、そもそもの大阪国際音楽コンクールとの出会いはなんだったのでしょう?
大阪国際音楽コンクールとの出会い、東京大学ピアノの会
中浴:高校のときのクラシック研究部の先輩の親が事務をやっていて、紹介されたのが最初でした。アマチュア部門がとても充実しているコンクールで高校生の時から参加しています。2007年はアマチュア部門のコンチェルトコースに参加しました。グリーグのコンチェルトを弾きました。
石川:それはオーケストラと?
中浴:いえ、2台ピアノです。今年はコンチェルトが導入されて初めてだったのでピアノ伴奏だったんですが、いずれはオケとの共演を考えているようです。
石川:中浴さんなら大学在学中にオケとのコンチェルトも夢ではないですね。大学では言わずと知れた名門サークル「東京大学ピアノの会」に所属されていますが、東大に入られて絶対に入ろうと考えていたのですか?
中浴:むしろピアノの会に入るために東京大学に入学したと行っても過言ではないです(笑)。他のサークルには見向きもせずに入りました。
石川:なるほど(笑)。東京大学ピアノの会は30年以上の歴史がありますし、在学生・卒業生には現在でも活躍されている方が大勢います。中浴さんもその中のひとりなわけです。
中浴:最近では六連の演奏会にも出させていただいて。ピアノの会自体もインカレで人数も多いし色々な人がいますが、六連もそれに劣らない個性を持った組織で楽しいですね。演奏会もそうですし打ち上げやコンパなども楽しいです。色々な人と関われることは学生時代とても大切ですし、ピアノは基本的に練習など孤独ですからね(笑)。何と言うか、コンクールのためにピアノを弾いていたわけではなく、好きな曲を勉強して行く中でコンクールや演奏会などに参加して楽しんでいるんです。2008年にはグランミューズ部門にも参加しようと思っていますよ。
石川:是非、お願いします(笑)。今現在中浴さんは大学で何を学んでいるのですか?
中浴:専攻は化学生命工学です。本当に化学ばっかりです。
大学生として、アマチュアとして続けて行くこと
中浴:大学院に行くかどうか、まだはっきりとは分かりませんが、理系官僚がいいなと思っています。いずれにせよピアノは続けて行きたいと思ってますよ。ピティナでも活躍されている上の世代の人達を見ていると特に思います。特に、続けることが何より大切なんだと思います。続けることは必ず人生にプラスになるだろうし、上手い下手は別にしても続けることにこそ絶対的な意義があると思いますよ。ソロだけではなく連弾や室内楽も末永く続けて行きたいですしコンクールにも積極的に参加して行きたい。私は生涯アマチュアですが今はアマチュアのレベルがとても高いですし、プロでなければ高度な音楽表現が出来ないわけではないでしょうから。
石川:そうですね。ただアマチュアといってもとても幅広いと思います。プロ顔負けの演奏活動をしている人達もいれば、アマチュアのためのコンクールなどを知らない人達もいます。それは別に知らないからダメとかそういう次元の話ではなく、アマチュアの中にも色々な意識の人達がいるということでして、そんな皆さんがもっと相互交流し楽しみながらピアノを学んでいくにはどうしたらいいと思いますか?
中浴:コンクールというとどうしても相手より上手くという意識が無意識でも出て来てしまいます。そうすると一部ではありますがアマチュアの中でもあたかも階層化されて上位層が注目を浴びるようになって来てしまうのは否めないですね。構造的にはプロを目指す人達のためのコンクールと何も変わらないですね。
石川:もしかしたら、この問題提起自体ナンセンスなのかもしれませんが難しい問題です。僕ら大学生が出来るアイディアとして例えば、六連の様な組織が関西の大学の中でも生まれて来たら面白いのではとか考えるのですが。もしかしたらあるのかもしれませんが、そしたらいつか関東・関西合同演奏会とか(笑)。とにかくピアノが好きでピアノを学んでいる人達がもっともっと繋がって行けたらいいなと思います。僕ら学生が出来ることもまだまだあるんじゃないかと。
中浴:そうですね、まだまだ出来ることはあると思います。是非いろいろなところで活動が活発になればいいですね。学生のうちにピアノだけに限らず色々なことを学んで、どんどん挑戦して行きたいです。
石川:是非とも頑張って欲しいです。今日はありがとうございました。
中浴:はい。こちらこそ、ありがとうございました。
(2007年11月20日 東音ホールにて)
北野蓉子氏(大阪国際音楽コンクール実行委員長)からのコメント |
慶應義塾志木高等学校卒業、慶應義塾大学文学部在学中。小学校時代はサッカーに、中学校時代はボクシングに打ち込む。高校在学中より本格的にピアノを習い始める。ピアノと室内楽を多喜靖美氏に、作曲を糀場富美子氏に師事。慶應義塾ピアノ・ソサィエティー(KPS)、慶應義塾カデンツァ・フィルハーモニー(室内楽サークル)メンバー。第1回ピアノ愛好家コンクール(アマチュア&シニア部門)第1位。国際アマチュアピアノコンクール2007(B部門)第2位。第31回ピティナ・ピアノコンペティショングランミューズ部門(Yカテゴリー)地区本選優秀賞。