第03回 亀井晧太郎さん
■亀井さんの演奏:♪mp3 9m43s ラヴェル/夜のガスパール「スカルボ」 |
第8回大阪国際音楽コンクールアマチュア部門(ヴィルトーゾコース)で優勝された亀井皓太郎さん。グランミューズ部門(Yカテゴリー)でも去年、全国大会第3位になられた。ラヴェル作曲『スカルボ』での確かな技巧と構成力。ショパン作曲『バラード4番』での溢れる歌心。奇をてらうことのない彼の演奏は、彼自身の人間性にもよく表れている。ピアノとの付き合い方から、ピアノを通じた様々な出会い、コンクール、そして東京六大学ピアノ連盟での活動。それら1つ1つの経験を確かに自身の糧にしている彼の話を、共感と共に聞かせていただいた。
都立新宿高校卒業、明治大学商学部3年次在学中。5歳からピアノを始める。高校2年の時に初めてピティナに参加、第27回ピティナ・ピアノコンペティションF級地区本選優秀賞。日本クラシック音楽コンクール高校の部全国大会入選。スガナミピアノコンクール銀賞。第30回ピティナ・ピアノコンペティショングランミューズ部門Yカテゴリー全国大会第3位、同入賞者記念コンサートに出演。「ラ・フォル・ジュルネ」におけるコンサート企画に出演。第8回大阪国際音楽コンクールアマチュア部門(ヴィルトーゾコース)第1位、合わせて特別賞、ハイアット賞受賞。2007年、明治大学交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を共演。ピアノを武田一彦氏に師事。明治大学ピアノの会KLAVIERメンバー。好きなピアニストはホロビッツ。(2007年11月5日現在)
石川伸幸(以下、石川):どうも、こんにちは。そして第8回大阪国際音楽コンクールアマチュア部門、優勝おめでとうございました。
亀井皓太郎(以下、亀井):こんにちは、ありがとうございます。
石川:まず自身のピアノ歴をお聞きしたいのですが、いつ頃始められたのですか?
楽しく、自由に
亀井:5歳くらいの時に始めました。あまり覚えていないのですが、どうやら自分からやりたいと言って始めたようです。最初の先生が優しくて綺麗な先生で新しい曲の楽譜をくれてそれが嬉しくて、色んな曲を自由に弾かせてもらいました。楽しいなという印象は覚えています。
石川:なるほど、素敵ですね。亀井さんの小さい頃のピアノに対する印象はとても良かったんですね?
亀井:とても良かったです。それこそやらせられるという感覚は全く無かったですし。
石川:5歳から始められて、その先生にはいつまで?
亀井:年長から小4の時までですね。小4の時に香川から神奈川に引っ越すのですがその時まで。その引っ越したところで新しい先生について。その先生には小4から中1までお世話になりました。それで中1の時に東京に引っ越して、それから今もお世話になっている武田一彦先生に師事し始めます。
石川:なるほど、3人の先生に習われたのですね。年長の頃から今まで、常に楽しくピアノを練習してきたのですか?
亀井:そうですね、なんか自分で楽しんでればいいなっていうのが大きくて、コンクールとかはむしろ嫌でした(笑)。
石川:コンクールというものの存在は知っていたんですか?
亀井:それはもちろん知っていましたよ(笑)。ただコンクールではなく発表会によく参加していましたね。好きな時に好きなように練習して楽しむ、というのがその頃から最近でも変わらないピアノに対するスタンスかもしれません。
石川:なるほど、小学生の時に弾いた印象的な曲とかありますか?
亀井:小学生の頃は知識としては知らなかったんだけど、知識として知ったのは本当に大学に入ってからで。とにかく小さい頃から色んな曲を弾かせてもらって、小3の時にはショパンのエチュードを弾いていました。「革命」とか「黒鍵」とか。小4で英雄ポロネーズとか(笑)。それらが印象的でしたね。
石川:すごいですね(笑)。亀井さんの手、とても大きいですよね? 小3、4でそれらの名曲を弾くとなると物理的な問題があると思うのですがその頃からも大きかったのですか?
恵まれた大きな手
亀井:徐々に大きくなっていったんですが、小1の時にトルコ行進曲を弾いた時に頑張って手を開いていたのを覚えていますが。その時から大きくなったらいいなと思っていて。でもドからレはすぐ届くようになりました。
石川:最終的に今はどれくらいですか?
亀井:ドからファです(写真参照)。ドからミは楽勝です(笑)。
石川:恵まれている手ですね、羨ましいです。話が脱線してしまったのですが、中1の時に武田先生に師事し始めるんですね?
亀井:はい、そうです。
石川:武田先生はピティナでもご活躍されている有名な先生ですが、それは本格的にというか音高、音大受験なども視野に入れて本格的に勉強をしようと思ったのですか?
ピティナ初参加、そして受験
亀井:いや、本格的にとか受験とかは当時全く考えてなくて、いい先生に習いたいという想いで武田先生に習おうと決心したんですよ。
石川:なるほど。プロフィールを見ると高2で初めてピティナに参加しますが、これは先生に勧められて参加したんですか?
亀井:先生には師事し始めてから参加するよう毎年勧められていたんですが、「いや結構です」みたいな感じで参加しなかったんですよ。ただ高2の時に自分の中で考え方の変化があって。今までは一人でやって楽しんで面白いなという感じでしたが、その頃に自分の演奏を聴いて欲しい、聴いてもらいたいという考え方にシフトしていったんです。
石川:それはつまり、聴衆を意識し始めたんですか?
亀井:うーん、学校の音楽の時間とかに友達にピアノを聴かせたりするじゃないですか。そうやって周りにいる友人、知人に自分の演奏を聴いてもらうのは好きでしたから、それが少しずつ意識的になってきたんだと思います。それで高2の時にコンクールに出てみようと決心しました。
石川:その時のコンペではF級に出場し、地区本選優秀賞を受賞しますね。コンクールというものに出てみてどうでしたか?
亀井:細かいことはあまり覚えてないんですが、一皮むけたなという感覚は今でもはっきりと覚えています。
石川:その感覚は同感ですね。何と言うか音をしっかり聴くようになるし、音楽がどんどんろ過されていくというか。
亀井:ええ、その感覚はありますよね。
石川:高3の時はG級に参加されますね?
亀井:はい、一般大学のための受験勉強をやりつつG級に出場しました。その時は2次予選まで行きましたがさすがに受験勉強にも時間が取られてあまり練習できなかったんです。2次でベートーベンのピアノソナタ第3番の第1楽章とラヴェルのスカルボを弾いたんですがそれが酷評で、「嗚呼、もういいや」みたいな感じで受験勉強へとモードを切り替えました(笑)。スカルボは自分にとってとても衝撃的かつ大好きな曲だったので、その酷評はずっと心残りでした。
石川:受験勉強との両立はやはり大変だと思いますが、高校時代は具体的にどれくらい練習したのですか?
亀井:学校のある平日は2時間くらいでした。あとは夏休みに集中的に練習したり。ただ受験勉強もそうなんですが、一日中練習とか勉強とか出来ないんですよ。1日10時間とか、考えられないです(笑)。毎日ピアノに触ってはいましたが。
石川:なるほど。それでも毎日の継続はやはり力になったんだと思います。話を聞く限りではもともと音大進学は全く考えなかったんですか?
亀井:全くというわけではなかったんですが、ピアノ科に行きたいと思ったことは無かったです。というのも趣味で作曲をしていてとても楽しかったんで、それで作曲科に行ってみたいなと思ったことは少しありましが、思うだけで実行に移すとまでにはならなかったです。
石川:ピアノ演奏に限らず、とにかく音楽が好きなのですね。そして明治大学に入学されて、大学公認のピアノサークルKLAVIERに入りますね?
大学入学、サークルと六連
亀井:はい。サークルに入ったことは自分にとってとても大きなことで、そこで先輩達や他大の友人からグランミューズ部門や様々なアマチュアのためのコンクールのことを知ることになります。コンクールのことに限らずクラシック音楽全般、現代音楽など博識な人達が大勢いて、今でも色々な刺激を受けています。そして何より、東京六大学ピアノ連盟という素晴らしい組織で活動できたこと、出来ていることが非常に大きいです。この組織は色々な意味で衝撃的な組織でした。衝撃的ですよね?
石川:ええ、衝撃的ですね。補足しておくと、東京六大学ピアノ連盟(通称、六連)は東京大学(東京大学ピアノの会)、早稲田大学(早稲田大学ピアノの会)、慶應大学(慶應義塾ピアノ・ソサィエティー)、上智大学(上智大学ピアノの会)、立教大学(立教大学PIANOの会)、明治大学(明治大学ピアノの会 KLAVIER)の6つの大学のピアノサークルから構成される連盟ですね。合同の演奏会や飲み会、イベントを通して多くの出会いがある。人との出会いも、曲との出会いも含めて。いくつかのサークルはインカレサークルで音大生もいます。高校生まではいわゆるピティナっ子だったという一般大学生は大勢いますし、諸国際コンクールに出場している先輩もいます。とにかく六連の演奏会は総じてハイレベルですね。僕は慶應義塾ピアノ・ソサィエティーのメンバーでして、慶應代表の次期六連理事に内定していますから、去年明治代表の六連理事をされていた亀井さんは僕にとって六連の先輩になるわけです。僕にとって亀井さんが衝撃的と言っても過言ではないのですが(笑)。今年の9月に六連の第五回オールデュオコンサートで亀井さんが編曲し弾かれた2台8手のビゼー=ホロヴィッツ=亀井皓太郎の「カルメン変奏曲」(近日、ミュッセより発売予定)は衝撃的でしたよ。
亀井:ありがとう。その「カルメン変奏曲」もそうだけど、一緒に弾いてくれる仲間との出会いも含めて沢山の人達とピアノを通じて知り合うことが出来た。去年Yカテゴリーに参加したグランミューズ部門に出場しようと決心したのも、大阪国際音楽コンクールに出場しようと決心したのも、そもそも大学生になってコンクールというものに積極的に参加し始めたのも六連で出会った先輩、友人達の影響だといってもいいと思いますし、大学生になってからも毎年音楽に対する考え方がいい意味で変わっていきました。
石川:素晴らしいですね。去年、今年と様々なコンクールに出場してみてどうでしたか?
亀井:そうですね、特にグランミューズ部門に出場して思ったことはYカテゴリーではなくて年齢が上のカテゴリーの人達を見て、すごいな、仕事と両立してよく出来るな、って驚きと共に感動を覚えたのは印象に残っています。自分が就職してもピアノを続けてそんなふうになれたらいいなと思いました。
石川:とても共感します。是非、ピアノは続けて欲しいです。今年は明治大学交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を共演しましたね?
亀井:はい。大学のホールでタキシード着て演奏しましたよ(笑)。大学の学生課の方々を含めて大学が様々な課外活動を支援してくれますから、実現出来た企画だと思います。大学のオケと僕が所属しているピアノサークルのコラボレーションです。今流行の、コラボです(笑)。また来年の3月8日(土)にはProject GO!という団体の演奏会でパルテノン多摩大ホールにて関東圏の大学から集まったオケメンバーとガーシュインのラプソディー・イン・ブルーを共演します。
石川:素晴らしい企画ですし、とても羨ましいです。ピアノを勉強している人にとってコンチェルトをオケと弾くのはもはや夢で憧れですが、亀井さんはその機会に大変恵まれていますね。今後はどのようにピアノと付き合っていくのでしょうか?
アマチュアとして、音楽と共に人生を
亀井:そうですね、先ほども言いましたが就職してもピアノは続けますし、演奏会やコンクールにも参加し続けると思います。大学生の間もその先も音楽を仕事にしようとは思いませんが、真摯に学ぶ姿勢を持ちながら弾いていきたいと思います。レッスン代などは厳しいですが週2回の塾講師のアルバイトで稼いだお金で工面しています。とにかくピアノが好きで音楽が好きで、自分の中にある学びたい弾きたいという強い気持ちを大切にしながらピアノと付き合っていきたいと思います。
石川:素晴らしいですね、本当に共感します。音楽を仕事にしないというのは、やはりアマチュアとしてということですか?
亀井:そうですね。上手いとか下手とかそうゆう次元ではなくて、仕事、職業として音楽に関わっていればそれはやはりプロなのだと思います。上手いからプロだというのも、下手だからアマチュアだというのも絶対ではないでしょう。「音楽」という大きな存在の中でそれぞれがそれぞれの位置にいてしかるべきではと思います。そこに上下はなくて根本的な優劣もない。だから僕は僕の立場で音楽に関わっていきたいと思います。
石川:なるほど。亀井さんが生きていく中で、音楽の位置というのはどのようなところにあるのでしょうか?
亀井:一言で言うと、非常に重要です。これからもピアノを学び続けるし、音楽と共に人生を歩んで行く。こんな感じです(笑)。最近は特に演奏で伝えたい、という気持ちが強くなりましたから表現もしていきたいですね。より一層オープンに、意識的にも無意識的にも聴いて下さる人達とつながりたいと思うようになりました。
石川:そうゆう気持ちはアマチュア、プロ関係なく持ち続けて欲しいと思います。ピアノは個人的なものだと思われがちですが、そんなことはなくて沢山の人とつながることが出来ます。それもまたピアノの魅力の1つかもしれません。亀井さんにとってこれからピアノは時に武器となり手段となり、時に癒しとなり勇気となることでしょう。是非ともその気持ちを忘れずに充実したピアノライフを送って欲しいと思います。今日はありがとうございました。
亀井:はい。こちらこそ、ありがとうございました。
(2007年11月5日 明治大学にて)
武田一彦先生からのコメント 今年は亀井君が大阪国際音楽コンクールで見事第1位を頂き、また昨年度は、グランミューズ部門(Yカテゴリー)で、第3位を頂きましたことを大変うれしく思っています。彼は何よりもとにかくピアノが大好きで、そのことが演奏にもよく現れています。とても繊細な感覚、すばらしい集中力を持ち合わせており、意欲的にたくさんの曲を勉強してきてくれますので、これからがますます楽しみです。今後も彼のようなピアノ大好きな『グランミューズな大学生』が増えてくれますことを願っています。 |
慶應義塾志木高等学校卒業、慶應義塾大学文学部在学中。小学校時代はサッカーに、中学校時代はボクシングに打ち込む。高校在学中より本格的にピアノを習い始める。ピアノと室内楽を多喜靖美氏に、作曲を糀場富美子氏に師事。慶應義塾ピアノ・ソサィエティー(KPS)、慶應義塾カデンツァ・フィルハーモニー(室内楽サークル)メンバー。第1回ピアノ愛好家コンクール(アマチュア&シニア部門)第1位。国際アマチュアピアノコンクール2007(B部門)第2位。第31回ピティナ・ピアノコンペティショングランミューズ部門(Yカテゴリー)地区本選優秀賞。