ピアノ曲MadeInJapan

◆番外編◆ クリスマス&お正月特集!

2011/12/22
寒さも一段と増し、慌ただしい年末気分が漂う今日この頃ですが...。こんな時こそ、音楽でしっかりと季節を味わいたいものです。今日ご紹介するのは、"この季節といえば!"という2曲、「戦場のメリークリスマス」と「春の海」です。難易度は、どちらも中級程度。特に中高生や大人の生徒さんには、オススメです。弾いて楽しむも良し、聴いて楽しむも良し、弾いて聴いてもらうはなお良し、です!

クリスマスといえば...坂本龍一「メリークリスマス・ミスターローレンス」
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senjo.JPGこの曲は、1983年の映画「戦場のメリークリスマス」のメイン・テーマとして、坂本龍一により作曲されものです。クリスマスのピアノ曲集には、必ずといっていいほど入っているこの作品。原曲はシンセサイザーによる壮大な音楽ですが、ピアノソロも味わい深くてなかなか素敵です。多くの楽譜は他の作曲家によりアレンジされたものですが、全音楽譜出版社刊「Avec Piano」版は、坂本龍一本人が編曲したものです。

作曲者:坂本龍一とは
評論家の秋山邦晴は、坂本龍一の音楽を「現代音楽の技術で作曲された今日の新しいポピュラー音楽」と評しています。東京芸術大学大学院修了後、シンセサイザーとコンピューターを駆使したバンドY・M・O(イエロー・マジック・オーケストラ)に参加した坂本龍一は、その先鋭的なカッコイイ音楽で一躍時の人となりました。メンバーに命名された「教授」という愛称は、よく知られていますね。クラシックとポップスの境界線を取り払ったような彼の音楽は、今も多くの人を魅了し続けています。

演奏にあたって
坂本龍一が、音楽家としてのみならず、主人公の一人としても出演したこの映画は、第二次世界大戦中のジャワの捕虜収容所が舞台となっています。閉ざされた収容所のなかで、東洋人と西洋人が出会い、傷つけ合い、殺し合う...。オルゴールのような冒頭部分に続く、5音音階のアジア的なメロディー。何度も繰り返されるその旋律が、心に沁み入ります。クラシック的なメロディーの歌わせ方(レガートで美しいスラーを描く)とともに、ポップス的なウラノリ(裏拍にアクセントを置く)を常に保ち続けることが、この曲を気持ちよく演奏するための秘訣でしょうか。

お正月といえば...宮城道雄「春の海」
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この曲は、1930年の勅題「海辺の巌」(勅題とは、天皇が新年の歌会始等のために毎年出題するお題のこと、ちなみに2012年は「岸」)にちなんで、宮城道雄が筝と尺八のために作曲したものです。後にフランス人女流ヴァイオリニストのルネ・シュメー氏によってレコード化され、世界的に知られるようになりました。来日中にこの曲を聴いて気に入ったシュメー氏は、翌日にはヴァイオリン用に編曲し、日比谷公会堂のコンサートで宮城道雄のお筝と協演!その日本的な親しみやすいメロディーに、聴衆は熱狂したそうです。他にも様々な楽器に編曲されていますが、ピアノソロ版としても「全音ピアノ・ピースNo.288」等のアレンジ譜が出ています。

作曲者:宮城道雄とは
日本の伝統音楽にクラシック音楽の要素を導入し、「新日本音楽」を打ち立てた宮城道雄。筝曲家として活躍した若い頃よりクラシックのレコードを聴き、和声や形式を独学で勉強、新しい邦楽作品の作曲に生かしました。特にドビュッシーやラヴェル、ストラヴィンスキー等、比較的新しい時代の音楽を好んだようです。 「春の海」も、クラシックの形式感や技術を応用した、当時としては斬新な雰囲気を持つ邦楽作品でした。

演奏にあたって
旅した瀬戸内海の美しさを描いたという、この作品。のどかな波の音で始まる第一部では、時にかもめの鳴き声が、テンポアップした第二部では、勇ましく行き交う漁船の様子が、そして第一部が反復される第三部では、再びのどかな春の景色が描写される、三部形式です。筝とは音階が異なるピアノでは多少弾きにくい部分もありますが、左手は筝、右手は尺八を思い浮かべつつ、スラーやスタッカート等のアーティキュレーションを正確に表現することで、原曲の雰囲気を存分に味わえるでしょう。

それでは音楽とともに、どうぞ良い年末年始をお過ごしください!

参考文献:
(楽譜)「Avec Piano」全音楽譜出版社
宮城道雄「春の海 宮城道雄随筆集」岩波文庫

須藤 英子(すどうえいこ)

東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
ホームページ http://eikosudoh.webcrow.jp/

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