◆番外編◆ 特級セミファイナル邦人作品特集!
2011/08/12
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ピティナ・ピアノコンペティション特級セミファイナル・・・、邦人作品を必ず演奏するよう、義務付けられているラウンドですね!例年、いくつかの邦人課題曲の中から選択する課題選択制ですが、今年は「出版されている作品なら何でもOK」という自由選択制になり(※)、来週8月18日(木)のセミファイナルでは、7名のセミファイナリストが全員違う邦人作品を演奏されることになりました!
45分から55分というセミファイナルの自由プログラミングの中でも、邦人作品はひとつのチャームポイントとなり得る曲ですね。クラシックの名曲ほどには知られていない曲が多いだけに、どのような作品を選ぶか、またそれをいかに演奏するかによって、全体のプログラムの印象まで大きく変えてしまう可能性があります。
今日は◆大人のためのJAPAN番外編◆として、7名のセミファイナリストが選ばれた邦人作品各々について、各作曲家の特徴や各曲の作品解説、また聴きどころなどを、ご紹介したいと思います!
※編集部注:ピティナの新曲課題曲募集事業で採用曲が無かったため。新曲が採用される年は、そちらが優先的に課題曲となります。
作曲家について
7名が選ばれた作曲家の内訳は、武満徹氏が2名、一柳慧氏2名、西村朗氏2名、そして徳山美奈子氏1名です。武満、一柳両氏は、共に1930年代生まれの日本を代表する大作曲家。また西村、徳山両氏は、共に1950年代生まれの、今最も脂がのった世代の作曲家です。今回選ばれた作品から見る各作曲家の特徴を、端的にひと言で表すならば、武満氏は「音と沈黙」、一柳氏は「音の空間性」、西村氏は「アジア的宇宙」、徳山氏は「現代日本」といったところでしょうか・・・。
各曲解説
以下、各々の作品について短い解説を書かせていただきました(演奏者順)。
1 梅田智也さん /一柳慧作曲「イン・メモリー・オヴ・ケージ」
一柳氏の師で、アメリカを代表する現代作曲家ジョン・ケージの追悼公演のために作曲された。大譜表3段にわたって書かれた、弱音を基調とする静謐な作品。曲の最後で、C(ド)、A(ラ)、G(ソ)、E(ミ)、H(シ)と、John Cageの名前にまつわる音が、彼が得意とした ピアノの内部奏法(弦のミュートやピチカート)によって響き、長く余韻を漂わせる。
2 太田実花さん/西村朗作曲「ピアノのための《オパール光のソナタ》」
ドイツのピアニスト、クリスティ・ベッカーの1998年10月22日の誕生日のために作曲された。10月の誕生石オパールが、様々な光と輝きを放つような作品。細やかな音色の糸が、西村氏らしいアジア的な強烈さを帯びながら、濃厚で艶やかな光の生地へと七変化してゆく。
3 内匠慧さん/武満徹作曲「ロマンス」
武満氏の最初期の作品。生涯で唯一作曲の指導を受けた作曲家、清瀬保二氏に献呈されている。後期の作品とは異なる力強さや土着的なメロディーの中にも、やはり彼本来の沈黙性が垣間見られる。
4 阪田知樹さん/武満徹作曲「雨の樹・素描 2 -オリヴィエ・メシアンの追憶に-」
武満氏の最後のピアノ曲。大江健三郎氏の短編「頭のいい雨の樹」にインスパイアされて作曲された「雨の樹」シリーズのひとつで、敬愛するメシアンの訃報を聞いて書かれた。「武満トーン」と呼ばれる儚くロマンチックな音楽が、沈黙の合間に現れては消えてゆく。
5 菅原望さん/徳山美奈子作曲「ムジカ・ナラ-ピアノのために-」
第6回&第7回の浜松国際ピアノコンクールで、2次予選の課題曲となった曲。約80名の参加者がこぞって選曲したという、魅力的な作品。奈良出身の徳山氏ならではの洗練された和風情緒と、作曲者いわく「若いからこそ弾けるリズムや疾走感、ユーモア、ロックやジャズなどの要素」が、バランスよく配置されている。
6 中川真耶加さん/西村朗作曲『ヴィシュヌの化身』より「1.マツヤ(魚)」
ヒンドゥー教の神ヴィシュヌの化身たちをテーマした、6曲からなる組曲の第1曲。「川で出会った魚が巨大魚となり、神の化身として大洪水を預言する...」という物語に基づいて書かれている。音や音型のリピートを基調とした澄んだ流れの中に、時に西村氏らしいアジア的旋律が顔を覗かせる。
7 奥村百合名さん/一柳慧作曲「雲の表情 I (Andante con moto)」
10曲から成る「雲の表情」シリーズの第1曲。一刻も同じ姿をとどめない雲の造形が、動的に描かれている。大譜表3段にわたって書かれた楽譜からは、「重層化された時間」や「各時間を分かつ空間性」といった一柳氏の作曲思想が見て取れる。
聴きどころ
演奏時間としては、西村朗作品を演奏されるお二人が最も長く、プログラムの中に占める邦人作品のボリュームも、最も大きいと言えましょう。西村作品は、楽譜的にも音数が多く複雑で、譜読みにも苦労しますが、一度手の内に入るとドップリ浸かれるような、独特の世界観と物語性があります。
反対に、楽譜としてはシンプルながら、その世界観を表現するには研ぎ澄まされた感性が必要なのが、武満徹作品でしょう。無難に弾いてしまうと何てことない曲が、その感性如何では忘れがたい曲となる可能性がおおいにあります!
一柳慧作品は、共に約3分と短いながら、大譜表3段の楽譜は、譜読み的にも解釈的にも難しいでしょう。作曲者が意図する「空間性」が、音の密度や質感の変化によっていかに表現されるかがポイントです。
その点徳山美奈子作品は、場面変化が分かりやすく、人懐っこさがあります。イメージがハッキリと浮かぶようなメリハリある展開が、この作品の魅力につながるでしょう。
なお参加要項にも、「特級セミファイナルの邦人作品については、視奏してもかまいません」とある通り、現代作品は暗譜をしない、という暗黙の了解が存在します。これはおそらく、暗譜をするにはあまりに譜面が複雑すぎることと、無理に暗譜して間違えられるよりは、しっかり楽譜を見て一音一句間違えずに弾いて欲しい、という作曲者の想いに起因するものと思われます・・・!もちろん、暗譜で完璧というのが、最高なのかもしれませんが。。。
いずれにしても、「なんだか良い曲だったな」という聴き手の印象こそが、邦人作品のキーポイントでしょう。どんな良い曲に出会えるかを楽しみに・・・、セミファイナル、乞うご期待です!
45分から55分というセミファイナルの自由プログラミングの中でも、邦人作品はひとつのチャームポイントとなり得る曲ですね。クラシックの名曲ほどには知られていない曲が多いだけに、どのような作品を選ぶか、またそれをいかに演奏するかによって、全体のプログラムの印象まで大きく変えてしまう可能性があります。
今日は◆大人のためのJAPAN番外編◆として、7名のセミファイナリストが選ばれた邦人作品各々について、各作曲家の特徴や各曲の作品解説、また聴きどころなどを、ご紹介したいと思います!
※編集部注:ピティナの新曲課題曲募集事業で採用曲が無かったため。新曲が採用される年は、そちらが優先的に課題曲となります。
作曲家について
7名が選ばれた作曲家の内訳は、武満徹氏が2名、一柳慧氏2名、西村朗氏2名、そして徳山美奈子氏1名です。武満、一柳両氏は、共に1930年代生まれの日本を代表する大作曲家。また西村、徳山両氏は、共に1950年代生まれの、今最も脂がのった世代の作曲家です。今回選ばれた作品から見る各作曲家の特徴を、端的にひと言で表すならば、武満氏は「音と沈黙」、一柳氏は「音の空間性」、西村氏は「アジア的宇宙」、徳山氏は「現代日本」といったところでしょうか・・・。
各曲解説
以下、各々の作品について短い解説を書かせていただきました(演奏者順)。
1 梅田智也さん /一柳慧作曲「イン・メモリー・オヴ・ケージ」
1993年作曲、演奏時間約3分、楽譜出版ショット社
一柳氏の師で、アメリカを代表する現代作曲家ジョン・ケージの追悼公演のために作曲された。大譜表3段にわたって書かれた、弱音を基調とする静謐な作品。曲の最後で、C(ド)、A(ラ)、G(ソ)、E(ミ)、H(シ)と、John Cageの名前にまつわる音が、彼が得意とした ピアノの内部奏法(弦のミュートやピチカート)によって響き、長く余韻を漂わせる。
2 太田実花さん/西村朗作曲「ピアノのための《オパール光のソナタ》」
1998年、約10分、全音楽譜出版社
ドイツのピアニスト、クリスティ・ベッカーの1998年10月22日の誕生日のために作曲された。10月の誕生石オパールが、様々な光と輝きを放つような作品。細やかな音色の糸が、西村氏らしいアジア的な強烈さを帯びながら、濃厚で艶やかな光の生地へと七変化してゆく。
3 内匠慧さん/武満徹作曲「ロマンス」
1948年、約4分、ショット社
武満氏の最初期の作品。生涯で唯一作曲の指導を受けた作曲家、清瀬保二氏に献呈されている。後期の作品とは異なる力強さや土着的なメロディーの中にも、やはり彼本来の沈黙性が垣間見られる。
4 阪田知樹さん/武満徹作曲「雨の樹・素描 2 -オリヴィエ・メシアンの追憶に-」
1992年、約5分、ショット社
武満氏の最後のピアノ曲。大江健三郎氏の短編「頭のいい雨の樹」にインスパイアされて作曲された「雨の樹」シリーズのひとつで、敬愛するメシアンの訃報を聞いて書かれた。「武満トーン」と呼ばれる儚くロマンチックな音楽が、沈黙の合間に現れては消えてゆく。
5 菅原望さん/徳山美奈子作曲「ムジカ・ナラ-ピアノのために-」
2006年、約7分、マザーアース
第6回&第7回の浜松国際ピアノコンクールで、2次予選の課題曲となった曲。約80名の参加者がこぞって選曲したという、魅力的な作品。奈良出身の徳山氏ならではの洗練された和風情緒と、作曲者いわく「若いからこそ弾けるリズムや疾走感、ユーモア、ロックやジャズなどの要素」が、バランスよく配置されている。
6 中川真耶加さん/西村朗作曲『ヴィシュヌの化身』より「1.マツヤ(魚)」
2002年、約12分、全音楽譜出版社
ヒンドゥー教の神ヴィシュヌの化身たちをテーマした、6曲からなる組曲の第1曲。「川で出会った魚が巨大魚となり、神の化身として大洪水を預言する...」という物語に基づいて書かれている。音や音型のリピートを基調とした澄んだ流れの中に、時に西村氏らしいアジア的旋律が顔を覗かせる。
7 奥村百合名さん/一柳慧作曲「雲の表情 I (Andante con moto)」
1989年、約3分、ショット社
10曲から成る「雲の表情」シリーズの第1曲。一刻も同じ姿をとどめない雲の造形が、動的に描かれている。大譜表3段にわたって書かれた楽譜からは、「重層化された時間」や「各時間を分かつ空間性」といった一柳氏の作曲思想が見て取れる。
聴きどころ
演奏時間としては、西村朗作品を演奏されるお二人が最も長く、プログラムの中に占める邦人作品のボリュームも、最も大きいと言えましょう。西村作品は、楽譜的にも音数が多く複雑で、譜読みにも苦労しますが、一度手の内に入るとドップリ浸かれるような、独特の世界観と物語性があります。
反対に、楽譜としてはシンプルながら、その世界観を表現するには研ぎ澄まされた感性が必要なのが、武満徹作品でしょう。無難に弾いてしまうと何てことない曲が、その感性如何では忘れがたい曲となる可能性がおおいにあります!
一柳慧作品は、共に約3分と短いながら、大譜表3段の楽譜は、譜読み的にも解釈的にも難しいでしょう。作曲者が意図する「空間性」が、音の密度や質感の変化によっていかに表現されるかがポイントです。
その点徳山美奈子作品は、場面変化が分かりやすく、人懐っこさがあります。イメージがハッキリと浮かぶようなメリハリある展開が、この作品の魅力につながるでしょう。
なお参加要項にも、「特級セミファイナルの邦人作品については、視奏してもかまいません」とある通り、現代作品は暗譜をしない、という暗黙の了解が存在します。これはおそらく、暗譜をするにはあまりに譜面が複雑すぎることと、無理に暗譜して間違えられるよりは、しっかり楽譜を見て一音一句間違えずに弾いて欲しい、という作曲者の想いに起因するものと思われます・・・!もちろん、暗譜で完璧というのが、最高なのかもしれませんが。。。
いずれにしても、「なんだか良い曲だったな」という聴き手の印象こそが、邦人作品のキーポイントでしょう。どんな良い曲に出会えるかを楽しみに・・・、セミファイナル、乞うご期待です!
須藤 英子(すどうえいこ)
東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
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