【こどものためのJAPANピアノ作品集3】平吉毅州作曲『春になったら・・・』
ピアノレッスンの現場で、バイエルやメトードローズ、ツェルニーやブルグミュラー等の教本と併用して、日本のピアノ曲をもっと気軽に使っていただけたら・・・という想いから、日本人作曲家の作品集をご紹介する「こどものためのJAPANピアノ作品集」。第3回は、平吉毅州『春になったら・・・』です。
平吉毅州(ひらよしたけくに)先生(1936?1998)は、合唱曲「気球にのってどこまでも」の作曲者です。「ランラーラララララ」と手を叩きながら歌う、ポップな音楽!ワインとヨットをこよなく愛するダンディなおじさまでいらした、と風の噂に聞きます。
ピアノ曲は、こどものための作品が圧倒的に多く、他にも『虹のリズム』や『南の風』等の素敵な作品集があります。今回ご紹介する『春になったら・・・』(カワイ出版)は、作曲者が十数年に渡り毎年1曲ずつ作曲した作品を集めた遺作集で、後半には連弾小品集が掲載されています。ソロ作品17曲には、作曲者自身による詩や注意書きが添えられていて、イメージを膨らませやすくなっています。
難易度は「バイエル併用程度」。ここでは、手の移動があまりない曲(バイエル50番ぐらいまで)を「★」、手の移動が活発な曲(バイエル100番ぐらいまで)を「★★」、テクニック的にも音楽的にも難しい曲(バイエル以上)を「★★★」とし、各々の曲について、私自身の演奏によるYouTube音源と簡単なレッスンポイントを加えさせていただきました。普段のレッスンの彩りに、また発表会のとっておき作品として、この素敵な曲集をぜひお使いください!
1 「春になったら・・・」【★★】ハ長調
天真爛漫な曲。右手と左手がお話しているような感じでしょうか。途中一瞬イ短調に陰り、また明るくなっていく辺りが、イメージの膨らませどころ。
⇒冬から春先の発表会にオススメです!
2 「踊るピーナッツ」【★】ハ長調
楽しげなスタッカートと、時々現れるきれいなレガート・・・。作曲者の言葉によると、どうやら踊っているピーナッツと、床の上をころがっていっちゃうピーナッツ・・・の模様。その対比をユーモラスに描けると、楽しいですね。
⇒スタッカートとレガートの練習に!
3 「プリンとプルンのふざけっこ」【★★】ハ長調
「プリンと'プルーン'のふざけっこ」かと私は勘違いしていたのですが、英語名「Play among pudding」から推測すると、プリンが2人、のようです。右手プリンと左手プリンが、押したり蹴ったりふざけっこ。途中、短調でレガートの箇所は、2人で何か企んでいるのでしょうか。
⇒スタッカートとレガートの練習に!
4 「ギンナンはじけてどこいった?!」【★★】ハ長調
なんと言っても曲の最後、コーダ以降のオチが素敵な曲!平吉作品らしい粋なリズムや転調の面白さが、顔を覗かせています。左手にとても低い音のスタッカートが、それも「?!」な感じで2回登場します。どうしても音が大きく出てしまう低音で、その微妙さが表現できるかが、ポイントですね。
⇒秋の発表会に!
5 「悲シイカラ踊ルノサ」【★★】イ短調
4/4 + 3/4 拍子という難しい拍子ですが、4拍子の1&3拍目、そして3拍子の1拍目を意識することによって、自然に「踊れる」ようになるでしょう。交互に現れるフォルテ(強)とピアノ(弱)は、音の大きさの変化ではなく、気持ちの変化として考えると、弾きやすいです。
⇒拍子感を育てる練習に!
6 「ひとりなんだもん」【★★★】イ短調
3拍子なのに2拍子のようなアーティキュレーションが書き込まれている点が、難しいです。その違和感を上手に表現に結び付けられると、「ひとりなんだもん」という雰囲気を出せるのかもしれません。
⇒拍子感を育てる練習に!
7 「朝になったよ!」【★】ト長調
さわやかでかわいらしい曲。曲の半ばのクライマックスで、1小節間のフェルマータ付き休符が出てきます。その無音状態をいかに楽しめるかが、ポイントでしょう。
⇒フェルマータの表現練習に!
8 「キリンのむれは草原を駆ける 」【★】ニ短調
曲の途中でコロコロ拍子が変わる変拍子の曲。やはり拍子感を研ぎ澄ますことで、自然にアーティキュレーションが付いてくるでしょう。最後のシメが、かっこいい曲です。
⇒拍子感を育てる練習に!
9 「アリ?アリ?アリャリャ?」【★★】ト長調
アリさんらしい、繊細なスタッカートを求められる曲。半ばから現れる減5度の音程が外しやすいので、大切に弾くと、表現も同時にできて一石二鳥!
⇒スタッカートの練習に!
10 「いなくなってしまったお人形」【★】ニ短調
「スタッカートがあまり鋭くならないように」、と作曲者の注意書きがあります。ポツンポツンと涙が滴るようなやわらかいスタッカートで弾けると、和声感も感じられるでしょう。
⇒スタッカートの練習に!
11 「踊り明かそう祭の夜は」【★★★】ト長調
これぞ平吉作品!ポップなノリがたまらない曲です。まず聴きながら体を動かして踊ってみると、リズム感を捉えやすいかもしれません。手の形を保ったまま横にずらしていく等、ジャズ的な和音の掴み方ができると、少し楽に弾けるでしょう。
⇒リズム感を育む練習に!
12 「だれもいない夏」【★★】イ短調
6/8 + 5/8 拍子という難しい拍子。5拍子の字足らずな感じが表現できると、寂しい雰囲気が出てくるでしょう。曲の半ばのクライマックス部分で、フォルテで響く悲しい和音が、哀愁をそそります。
⇒拍子感を育てる練習に!
13 「とりとめのないお話」【★★★】ホ短調
右手も左手も美しいメロディーを持つ、複音楽的な曲。短調の中に時々顔を出す長調の響きが、あまりにも美しくて涙が出そうになります。ピアニッシモやピアニシッシモをいかに優しく弾くかがポイント!
⇒大人の生徒さんの発表会に!
14 「だれと踊ったの?」【★★】ニ短調
5/4拍子のリズミカルな曲。曲の半ばの意表をつく転調と粋なリズム感が、しゃれた雰囲気を出しています。最後の1フレーズが、私には「それはヒ・ミ・ツ」と言っているように思えてなりません!
⇒拍子感を育む練習に!
15 「じゃれて、甘えて、親猫仔猫」【★★】ト長調
軽やかでこじゃれた曲。3拍子の中に時々顔を出す2拍子が、活発な感じです。最初の♯系から、途中の♭系への転調を、いかに表現できるかがポイント。どれが親猫でどれが仔猫なのか・・・、いろいろとイメージが膨らみます。
⇒調性感を育む練習に!
16 「ヒヨコが一羽 親にはぐれて日も暮れて・・・」
【★★★】イ短調
5/4拍子のユニークな曲。まさにヒヨコがヨチヨチといったリズムで構成されています。曲の半ば、複雑な半音階で下降する部分は、とても現代的な響きがして、覚えるのが難しいかもしれません。
⇒拍子感を育む練習に!
17 「にわとり一家のある日の出来事」【★★★】ト長調
確かに「出来事」が感じられる劇的な曲!冒頭、4拍子なのに3拍子に感じられる部分は、とてもひょうきんな感じがします。曲の半ばで♭系に転調しますが、そこからが物語の聞かせどころ!いろいろなイメージを膨らませて、思いっきり楽しんで弾きましょう。
⇒空想力豊かな生徒さんの発表会に!
東京芸術大学楽理科、大学院応用音楽科修了。在学中よりピアニストとして同年代作曲家の作品初演を行う一方で、美学や民族学、マネージメント等について広く学ぶ。04年、第9回JILA音楽コンクール現代音楽特別賞受賞、第6回現代音楽演奏コンクール「競楽VI」優勝、第14回朝日現代音楽賞受賞。08年、第8回オルレアン国際ピアノコンクール(フランス)にて、深見麻悠子氏への委嘱・初演作品が、日本人として初めてAndreChevillion-YvonneBonnaud作曲賞を受賞。同年、野村国際文化財団、AsianCulturalCouncilの助成を受け、ボストン・ニューヨークへ留学。09年、YouTubeSymphonyOrchestraカーネギーホール公演にゲスト出演。現在、現代音楽を中心に、幅広い活動を展開。和洋女子大学・洗足学園高校音楽科非常勤講師。
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