ロシア・ピアニズムの始祖、アレクサンドル・ドュビュク(1812-1898)が残した400曲を超えるとみられるピアノ曲のうち、出版されたものは僅かで全貌は不明である。しかしいくつかの作品から彼が極めて高度なピアニズムを会得していたことは疑う余地が無い。コンサート・エチュード「レ・ムーシュ」はその好例といえる。ムーシュは蠅を指すが、双翅類全般をも意味しており、蠅などの如く、不潔なイメージを持っていない。
Category XVI「昆虫 Insect」
2016/12/22
Tweet
Category XVI「昆虫 Insect」
「蝶」などでも揃えることは可能だったが「昆虫」として4種の虫に分けた。静的な「花」とは対照的に、敏捷に動く虫の描写は技巧的なエチュードとしての機能性に結びつく。
アウグスト・ヴィルヘルム・アンブロース(1816~1876)は音楽学者として知られ、同時にピアニストだった。コンサート・エチュード「とんぼ」は、ピアニスティックな書法を用いて、実に巧みな描写に成功している。
猛獣の如き荒々しさと、茶目っ気を併せ持ったショー・マン、レオポルト・フォン・マイヤー(1816~1883)。その約300曲のピアノ曲は破天荒なもので、和声や対位法とは無縁である。それでもなお、彼独自の魅力を妨げることにはならず、却って必然的な書法となっている。「こおろぎポルカ」はシャブリエをはるかに先取りした機知が伺える。
フリッツ・シュピントラー(1817~1905)もまた400曲を超えるOp.番号付の作品を書いた。そのほとんどは簡易な初心者向けピアノ小品とはいえ、そこにはある種超俗的な達観がみられ、侮れないものがある。ここでは3曲の小品集「蝶」から第2曲を紹介しておく。単純ながら、ピアノ音楽の原点を感じさせる魅力を持つ。
【GoogleAdsense】