ローベルト・シューマン(1810~1856)の「花の曲」ほど、この作曲家の本質を突いた作品があるだろうか。「花」は象徴に過ぎず、幻想と迷妄の中を往きつ戻りつ彷徨する詩人の姿が浮かぶ。
Category XV「花 Flower」
2016/12/22
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Category XV「花 Flower」
花をタイトルにした曲を考えると、高度な技術を要したり、深い精神性を求める方向には行きにくい。E.シラス(1827~1909)の優れた例もあるが、概ね安直なサロン・ピースに陥りがちである。そのため、このカテゴリーでは世俗と折り合う品性が問われることとなろう。ピアノで「花」を表現した第一世代のアプローチの多様性を見てみよう。
グスタフ・フリューゲル(1812~1900)の澄んだ空気感、のびやかさの何と対照的なことか。ここではタウベルトに捧げられた6曲の小品集「野の花 Op.29」から第4曲「陽差しの中に」を選んだ。広々とした天地のもと、陽光と微風の中に咲く花を描く。
デンマークを代表する作曲家、ニールス・ゲーゼ(1817~1890)はライプツィヒに学び、ゲヴァントハウスの指揮者として活躍。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の初演を行ったことなどで知られる。その音楽は絵画的で田園的な温和さに一貫する。「花園の中で」は3曲からなる「イディール集 Op.34」の第1曲。
ローラン・バッタ(1817~1879)は名演奏家として知られたバッタ三兄弟の次男。僅かに20点余りのピアノ小品を残したが、その作品は都会的洗練と魅惑に満ちている。「夜想曲第3番」の副題を持つ「ヴィオレット(すみれ)」は花になぞらえたあでやかな女性の姿を描いたものだろう。
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