ピアノ学習者の「救世主」たるフリードリヒ・ブルグミュラー(1806-1874)の弟、ノルベルト(1810-1836)は兄を凌ぐ鬼才として知られたが、僅か26歳で早世。残された少数の作品はピアノソナタ、ピアノ協奏曲、2曲の交響曲、4曲の弦楽四重奏を含む濃密な内容である。遺作として出版された「ポロネーズ」は平明でたおやかな優美さを持つ作品。
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ショパンの例が示すように、ポロネーズはマズルカやワルツより一回り大きく、中庸なテンポの堂々たる3拍子の舞曲という印象がある。作曲家としては気力を要する曲種といえよう。リズム感が明快で肉体的な踊りの性格が強いため、即興性・幻想性の介入する余地は少ない。それぞれ踊り手も、その背景も全く異なる印象のポロネーズを並べてみた。
ドイツのリートの大家、フリードリヒ・キュッケン(1810-1882)のピアノ曲は十指に満たない。この初期の「華麗な大ポロネーズ」はその最も大きなスケール感を備えた作品で、短調の劇的な序奏で幕を明ける。こうした主部と対照的な序奏を置くポロネーズは独特の流行の一つとなった。ショパンの「英雄ポロネーズ」は、その最も先鋭的な例だろう。
この世代を代表する巨人ヒラー(1811 - 1885)に「ポロネーズ」を当てがうのは相応しくない気もするが、ここでは短調のポロネーズを入れたかった。ヒラーの魅力を一言で述べるなら、知性と情熱の高次な調和にあろう。シンプルなポロネーズは決然として、迷いがない。
ヴィースバーデン出身のヨーゼフ・ルンメル(1818-1880)は誇張を嫌う穏便な作曲家のようである。何気ない平穏さの中に淡い情緒を反映させる。「別れ」はゲディケのポロネーズによるディヴェルティスマンとされ、原曲がどのようなものかは不明だが、音楽的な脚色はルンメルのものであろう。清明さの中に憂いと愛惜が漂う。最後にベートーヴェンの「告別ソナタ」のモティーフを暗示、別れの辞を述べるかのようだ。