ベゾッツィはパリ音楽院ヅィメルマン門下の逸材で、一見控え目ながら先進的で品位ある独創性に富む。とりわけ同門のCh.V.アルカンに与えた影響は大きいようだ。両者の後期の傑作「エスキス集」がほぼ同時期に書かれているのも興味深い。ここに挙げた「猛禽」(「12の性格的エチュード」Op.19の終曲)も、その衝撃的なタイトル、華麗なピアニズムによって、アルカンに先立つ作品となっている。厳格な古典的指向、奇抜なセンス、明晰な音感、隠者的気質によって、この二人はドゥーブルのようだ。
Category IX 「鳥」
「鳥」を題材としたこの世代のピアノ曲としては、シューマンの「予言の鳥」、リストの「鳥に説教する聖フランシス」、ヘンゼルトのエチュード「もし私が鳥であったなら」などが知られている。いずれも作者の本質を突いた名曲であるが、ここではそれら以外を紹介しておこう。
ゴドフロア同様、ハープからピアノへと転向したクロワゼーズはOp.223に及ぶ作品の他、Op.なしのそれを上回る数の作品、編曲を残している。その大部分は愛好家が家庭で学び楽しむための平易な小品で、比較的難易度の高いコンサート・ピースも幾らか含まれる。その一つが「つばめと囚われびと」で、彼の代表作として知られていた。
以前の「ピアノ・ブロッサム」に取り上げたプレーガーの「自由の鳥」をここに再録した。ライプツィヒ出身のプレーガーは後年ロンドンに移住した時点で、Op.60番代までの番号を廃して以前の生硬な書法を一新、「近代」への息吹きを呼び込んだ。「自由の鳥」はそうした経緯を象徴する作品。創作者とその土壌との深いつながりについては、もっと考察の必要があるだろう。
マグデブルク出身のルイ(ルードヴィヒ)・リーベの「つばめ」はクロワゼーズとは対照的に活気に溢れ、賑やかな街の気配が伝わって来る。「サロン・エチュード」というサブ・タイトルはつばめの飛翔をアルペジオの練習に重ねたもの。こうした概して陽気な音楽が忘れられてしまうのは、陽気さは時代や地域の持つローカル性に連結し易く、陰気さ、悲哀はより普遍性につながり易いからではないだろうか。
リーベの「つばめ」はしかし、中間部において時代を越え、突如ポップで南国風なものとなる。つばめは一体どうしたのかと驚く。