ピアノ・レビュー

ファツィオリ・暫定レビュー

2006/06/08

ファツィオリ  FAZIOLI

ファツィオリは1978年に創立されたイタリアのピアノメーカーです。100年以上の歴史を重ねている名門メーカーが数多いヨーロッパにあっては新興といってよいでしょう。ファツィオリが特異なのは、歴史が浅いにも関わらず世界最高峰のブランドイメージを既に確立していることです。

生産しているモデルはグランドピアノのみ。年間70台程度ということですので、かなりの少量生産です。もともと数が少ないうえ、日本国内ではあまり流通していないため「幻のピアノ」と言われることさえありますが、着実にその知名度は高くなりつつあります。

とはいえまだ普段は見ることすら珍しいピアノなのですが、今回は滋賀県栗東市の「さきら」ホール所蔵のフルコンサートピアノを取材させていただけることになりました。こちらは国内で始めてファツィオリを購入したホールだそうです。ファツィオリには奥行き308cm、4本のペダルを持つという巨大なモデルが存在しますが、こちらは奥行き278で、スタインウェイのD型(同274cm)などとほぼ同じサイズのピアノです。

外見は一般的な艶のある黒ですが、足の付け根近くに金色のライン(真鍮製と思われます⇒再確認したところ塗装でした)が入っていて、機能的な意味があるのかどうかは分かりません(おそらく機能的な意味はありません)が、塗装の黒の深みも相まって鮮やかな美しさを感じました。鍵盤蓋のFAZIOLIのロゴはシンプルで現代的な書体です。

弾いた印象では、バランス良く弾き易さと充実した音質を兼ね備えたものでした。このピアノを演奏できることは至福といっても良いくらいで、忘れ難い感触が残りました。その音には「艶めかしさ」と表現したい性質を感じました。ファツィオリの特徴をどれか一つ特にあげるとすればその部分です。私にとっては非常に魅力的ではありますがこれは強烈な個性です。ですので「楽器が主張し過ぎ」という感想を持つ人もあるかもしれません。音楽への関わり方によっては、スタインウェイやヤマハのピアノを選ぶ場合があることもまた想像できます。ファツィオリは演奏する曲を選ぶタイプの楽器ではないですが、すべてがファツィオリの音で鳴るということに慣れる必要があるのは、他のピアノを選ぶ場合と同様です。

ファツィオリを演奏したことがある、という何人かの方から、話をうかがったことがありました。手放しで褒める人と「たいしたことないよ」という人がほぼ同数で、これはどういうことなのだろう、と思っていました。私が今回の取材で得た印象からは、もしこの状態のピアノに触るとしたら、好みはともかく、その品質の高さは確信できるのではないかという感想を持ちました。とはいえ楽器の材質などに起因する製造段階での「当たり外れ」はどうしてもありますし、メンテナンスの状態の違いによって同じモデルであってもまったく別物、ということは良くあります。

ファツィオリのピアノはいまだ比べられる楽器が少ないために、その平均的な状態を知れるような環境にありません。「幻のピアノ」扱いは過度なブランドイメージの先行に繋がる可能性がありますし、そこに先入観を持っていれば、メンテナンス状況の悪いピアノに当たってしまった時に「対したことない」とがっかりする度合いも深いでしょう。スタインウェイやベーゼンドルファーほど評価が定まっていれば、調子を崩した楽器があったとしても「この楽器は調子が悪い」となります。しかし今後評価が定まっていく過程にあるファツィオリに対しては、好悪のどちらの感想を持ったにしても、極端なものになってしまう傾向は否めないと思います。このことには私自身もよくよく注意する必要を感じました。

なお、「さきら」には他にもフルコンサートピアノがあり、楽器庫にあったベーゼンドルファーのインペリアルにも触ることができたのですが、2台のピアノとも、状態が極めて良かったことは特筆したいと思います。管理担当の方のお話では非常に気を使ってメンテナンスをしているとのことで、その努力に敬意を感じました。

※本レビューは取材した楽器が一台のみであるため、「暫定版」とします。

実方 康介(2006/3/8)
試弾機種:F278
取材協力 栗東芸術文化会館さきら

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