コラム「ピアノを表現する言葉」
2004/11/26
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ソムリエに必要な才能といえば、もちろん微妙な味の差を感じ取ることのできる舌であったり、香りをかぎ分ける鼻もあると思いますが、それに加えてその微妙さを表現する能力が絶対不可欠です。つまり豊富な語彙や適切な表現を選ぶ力です。体を使う演技力もあるでしょうが、主に言葉を操る力になるでしょうか。
味や香りの表現と同じく、音や音楽を言葉で表現するのも非常に困難で、それを行おうとする人たちにとっては根本的な課題です。その問題にも関わらず、今後も学術論文、評論やエッセーなど、音や音楽についての言葉が語られていくことと思います。
ピアノの取材の過程で多くの優秀な技術者の方に出会うことができました。それらの方々は独特の、しかしながら非常に説得力のある表現でピアノを語ることがあります。このページではピアノの音や操作感を表現するにあたっての基本的な言葉を蓄積してみたいと思います。(1/14更新)
【更新履歴】
2004年11月30日 表現追加 T・T様、I・T様(アマチュア音楽家) K・R様(ピアニスト)よりご提供
2005年1月14日 表現追加 K・K様(音楽業界関係者) よりご提供
2004年11月30日 表現追加 T・T様、I・T様(アマチュア音楽家) K・R様(ピアニスト)よりご提供
2005年1月14日 表現追加 K・K様(音楽業界関係者) よりご提供
音についての表現 | 訳義・備考 |
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クリアな(透き通った/透明感のある) | ベヒシュタインなどにふさわしい表現か |
丸い(roundな) | 打鍵後にそのまま減衰するのではなく、そこから広がるような |
四角い/角張った | アタック後直線的に減衰するような印象か |
甘い | 「丸い」と似たような使い方。より文学的な言葉かも |
金属的な | 「鉄が鳴る」と言われることの多いスタインウェイの音が持つ特徴を表すのにレビューで使用 |
太い | 音質について。「丸い」などと類似だがより単純な音量の大きさを表現しやすいか |
重い(⇔軽い) | 演奏者にとっては操作性から音の印象が変わることもあり、音についての感想なのか、操作感への感想なのかを区別するのは難しいことがある。「軽い」は単調な音を表す場合もある |
よく通る | 単純な音量ではなく遠くまで響くような音質、ということか |
パワーのある | 主に音量が得易いことを示す。「低音のパワーがすごい」など |
玉を転がすような | よく調整された高音部は大抵このように表現できる |
華やかな(きらびやかな) | (T・Tさんより)「金属的な」というとネガティブなイメージがあるかも。スタインウェイをはじめとする現代ピアノは基本的に「華やかな」音を目指しているようにも感じる |
ぼやけた | (T・Tさんより) |
こもった(⇔はっきりした) | (K・Rさんより) |
明るい(⇔暗い) | (K・Rさんより)どのくらいのピッチで調律したかにも影響されるか |
割れた | (K・Rさんより)雑音が交じるという印象か |
オルガンのような | (I・Tさんより)バランスの良い和音の響き |
○○(楽器)のような | (I・Tさんより)様々な楽器の音に例えることがある。ピアノは伴奏などオーケストラの代用としても使われる楽器。他の楽器の音色をイメージできれば演奏表現や鑑賞・理解の引き出しが増えるだろう |
ベルベットのような | (K・Kさんより) 故アンリエット・ピュイグ=ロジェ女史の言葉。 「ベーゼンドルファーでカンタービレを奏する時のイメージ」として語っていました。(他の銘器では出せない)ベーゼンドルファーなればこそ、というのが印象的でした。その心は「撫でたくなるような、柔らかく滑らかで艶のある、深々とした音」 ということで、触覚的、官能的な表現でした。 |
もち肌のような | (K・Kさんより) 現役の日本人男性ピアニストのレッスン中の言葉。 ピアノはヤマハをご使用でしたが、 「柔らかく指に吸い付くような音」ということでした。その先生は、 「楊枝で突つくように弾いてはいけない、女の胸を愛撫するように指を(鍵盤に)這わせるのだ」とおっしゃっていました。取材していて、その先生の音はとても柔らかく、説得力がありました。 (ちなみに、レッスン生も成人男性でした...) |
ステンドグラスのような⇔曇天の | (K・Kさんより) イョルク・デームス氏の公開レッスンでの言葉。 ステンドグラスとは、燦然ときらめく、彩度・明度・輝度の高い、虹色フルカラーの音。曇天とは、くぐもった、重たい、モノトーンのグラデーション的音色の意味。 |
「宇宙から降ってくる音を作るのです」 | (K・Kさんより) スタインウェイの調律師タローネ氏が、ヤマハ技術者に語った言葉。時空を超越したような神秘的にして哲学的な言葉に、みな頭をひねったと聞いています。タローネは、神様が啓示を与えたような、闇を開くオーラに満ちた力強い音を作ったと言われていますが、上記の意味は、「人工的な片鱗が感じられる音ではいけない、自然そのものの音、生まれるべくして宇宙から生み出された星のような存在の音をイメージしなさい」ということだそうです。 |
木の温もりのある 潤いのある | (K・Kさんより) ベーゼンドルファー社のレードラー元社長の言葉 日本的な表現のようだが、ベーゼンドルファーが歌曲の伴奏や室内楽に適していることを語った時に出てきた表現。 |
安定感のある⇔浮遊感のある | (K・Kさんより) どっしりした音⇔揺れる軽い音、というイメージ。 |
朗々とした 伸びやかな | (K・Kさんより) よく伸びて響く音。現在の中国のブランド「パール・リバー」あたりをイメージさせます。 |
立ち上がりのいい | (K・Kさんより) 高速反応する音、輝かしい音 |
流れる音 たわむ音 | (K・Kさんより) エネルギーの流出や蓄積を感じさせる音 |
操作感についての表現 | 訳義・備考 |
タッチ(が良い/悪い/滑らか/重い/軽いetc) | 「タッチ」はピアノの業界で頻用される言葉だが、大変曖昧な言葉でもある |
反応が(早い/遅い) | アタックが遅すぎるとか連打性能が悪いとか |
反応が(良い/悪い) | フォルテやピアノ、音色変化のしやすさ |
実方 康介
頂いた表現方法については上記リストに加えさせて頂くことがあります。その際特に問題が無ければお名前(イニシャル、あるいはハンドルネームなど)を併記致します。
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