ベーゼンドルファーレビュー
ベーゼンドルファー Bösendorfer
グランド | ||
機種名 | 奥行き | 国内価格 |
---|---|---|
170 | 170cm | 7,560,000 |
185 | 185cm | 8,190,000 |
200 | 200cm | 8,715,000 |
214 | 214cm | 9,765,000 |
225 | 225cm | 10,815,000 |
280 | 280cm | 15,540,000 |
290 | 290cm | 16,590,000 |
アップライト | ||
機種名 | 高さ | 国内価格 |
130CL | 132cm | 3,885,000 |
※価格は2004年10月時点のものです |
スタインウェイに劣らない高いブランドイメージと知名度を持つピアノです。古い歴史を持ちながらも創業からの生産台数はスタインウェイの約1/10、ヤマハの1/100に過ぎませんが、日本では人気があるため、目にしたり弾く機会は比較的多いかもしれません。
深く、華やかで上質感ある音色は大きな特徴ですが、ベーゼンドルファーの最も魅力的な部分は操作する楽しさであると思います。よく「音の立ち上がりが遅い」と言われますが私もそのように感じました。ベーゼンドルファーの演奏では打鍵する瞬間の精度もさることながら、打鍵後の処理が重要と思いました。「鍵盤を押さえてから指を離すまでの所作に配慮する」「一音ずつ大事にする」という言い方が演奏のヒントになるかもしれません。
スタインウェイやヤマハなど、音の立ち上がりが鋭く、粒の揃った印象のある楽器は、正確な発音ができれば「そこそこ」の音が出ます。ベーゼンドルファーはそうした楽器とは対極にあります。一つ一つの音を掴み取るような感覚と、それに応じた動作が必要です。 とはいえ、それは難しいことではないと思います。普段打鍵後の動作をあまり意識しない人でも、ほんの数十分も弾けばコツが分かってくると思います。 最初は弾きにくいという印象を受けた速いパッセージの曲も、多少の練習で私でもそれなりにスムーズに弾くことができました。
ヤマハやスタインウェイのピアノは打鍵後に気を使わずとも「そこそこ」の音が出ると既述しましたが、ベーゼンドルファーの演奏に不可欠な弾き方が、他のピアノではまったく不要、というわけではありません。それほど意識せずとも楽器の特性上明らかにひどいことにはならない、というだけです。ですので、他のピアノを弾く時でも同じ部分に意識を向ければ、より美しい音を出せるようになることと思います。一つの音を出すということの大事さと、美しい音を出す方法を楽器そのものが教えてくれます。
ただし「生まれて初めてベーゼンドルファーを弾く」といった場面では、 かなり戸惑ってしまうかもしれません。決して演奏が難しい楽器とは思いませんが、個性が強いことは確かです。もし出場予定の演奏会場のピアノがベーゼンドルファーで弾くのが始めてであるのなら、事前に楽器店のショールームなどに行き、この楽器の特性を知っておいた方が良いでしょう。
各モデルともすべて上質感があるのですが、特にバランスのよさを感じるのは92鍵を持つ225でした。最も設計が古いとのことですが、変える必要性が無いのでしょう。また、ベーゼンドルファーは適切なメンテナンスと、適度な使用、経年変化によってより良い楽器になるようです。最小のグランドピアノである170は、新品ではやや物足りなさを感じることが多かったのですが、30年ほど経過した状態の良いモデル170を試弾したところ、実にベーゼンドルファーらしく、操作性も高い楽器で、まったく不満を感じませんでした。もしベーゼンドルファーを手に入れるとすれば、新品を自分の手で育てていくのも、状態の良い中古を探すのも、どちらも楽しい作業となるでしょう。いろいろな面で「生き物」のような楽器です。
「ベーゼンドルファーらしさ」はより大型のモデルほどわかり易いと思います。97鍵を持つ巨大な290インペリアルの操作性と音色の深さには心底ショックを受けました。一方、アップライトピアノにも驚かされました。スタインウェイは「鉄(フレーム)が鳴る」などと言われるのですが、ベーゼンドルファーは「箱が鳴る」と言われることがあります。アップライトではまさしくそれを体験できました。アップライトピアノは発音部が板で覆われているためグランドピアノに比べて音が小さくなります。しかしベーゼンドルファーのアップライトは箱全体、蓋や足といった部分ですら、音を出しているかのようで、そのハンデを感じさせません。全身で音楽を奏でているような、大変素晴らしい楽器でした。
取材協力 日本ベーゼンドルファー(2004年当時) 本社/東京ショールーム