ロンドンレポート

ミニ・モーツァルト No.1: 生演奏と触れ合う0歳からの音楽クラス

2012/12/25
日本語English】 【No.1No.2

目の前にヴァイオリンが来た!
ミニ・モーツァルト No.1: 生演奏と触れ合う0歳からの音楽クラス

ロンドンで人気の0歳から通えるベビーミュージックのクラス『ミニ・モーツァルト(Mini Mozart)』は、プロの音楽家による歌や楽器の生演奏で行われる。赤ちゃんの音楽との最初の出会いのクラスは、どのような形で行われているのだろうか。そして、生演奏で行うクラスの赤ちゃんへのメリットとは何だろうか。

--- イベント情報---
名称:
ミニ・モーツァルト(Mini Mozart)
対象:
ベビークラス(0-15か月頃) / トドラークラス(15か月―3歳の幼児)/ 兄弟クラス(0~4歳)
日時:
平日の午前中45分間ずつ、毎週1回
場所:
ロンドン市内12か所(クラウチエンド/フィンチリー/ハムステッド/ハイゲイト/イズリントン/メイダベール/マスウェルヒル/セントジョンズウッド/ノッティングヒル/スイスコテージ/ウィンチモアヒル)
参加:
タームごと申込み、1ターム15週前後、約100~135ポンド(1回あたり約8~9ポンド)
URL:
http://www.minimozart.com/

0歳からの音楽クラスとは?

楽器を囲んで座って見入る

赤ちゃんは、いつから音楽のクラスに参加できるのだろう?実は、自由に体を動かすこともできず、言葉もしゃべれない赤ちゃんを連れて、本当に小さい頃から参加できる最初のクラスのひとつが、音楽なのだ。従って、赤ちゃん対象に童謡を歌う集まりは、児童館や図書館、音楽クラスなど、様々な場所で頻繁に行われているが、ただ何となく歌って楽しむだけではなく、音楽教育の土台として意識して構成されたところはなかなかない。

ミニ・モーツァルトは、母親が赤ちゃんを連れて自信を持って出かけられるようになったらいつでも参加可能だ。ロンドン市内12か所にある会場では、新生児から約15か月までのベビークラスと、15か月以降3歳までのトドラークラスが開かれ、0歳から4歳までの幅広い年齢がミックスしたクラスもある。

1クラスあたりの子どもの数は17~18名程度。全会場あわせて約27のクラスがあるが、定員締切となることも多く、各タームあわせて460名程の子どもが参加している。数ある音楽クラスの中でのミニ・モーツァルトの特徴は、毎回2人のプロの音楽家が参加し、生の音楽でのみ進められ、そのプログラムの中には音楽教育的な要素が組み込まれている所だ。その45分間のベビークラスの様子をのぞいてみよう。


目の前での楽器と音との出会い

体を使った音楽エクササイズ


触りたくなる衝動は自然

ミニ・モーツァルトのクラスは、コミュニティセンターや教会などの場所で行われている。ベビーカーが並べられた入口を入ると、赤ちゃんを連れた母親やナニーがフロアに円を描いて座って談笑している。新生児から15か月くらいまでが対象のベビークラスでは、まだ母親の腕で抱かれている小さな赤ちゃんから、ひとりでお座りができるようになった子、輪の向こうまでハイハイして行く子など、様々。徒歩圏内で、これが初めてのベビークラスという人が多く、近所の月齢の近い赤ちゃん連れ同士の最初の交流の場ともなっている。

今日はいつもの先生がお休みのため、創始者で今は全体のマネジメントをしているクレアが自らヴァイオリンを片手に、代理としてやってきた。ミニ・モーツァルトでは他に、フレンチホルン、オーボエ、サクソフォーン、チェロ、バスーン、トロンボーン、ギター、アフリカの楽器コラなどの楽器を演奏する先生がいる。同じ先生がクラリネットとフルートを週替わりで吹いてくれることも。それらの楽器の先生が楽器の演奏から歌やお話などのアクティビティ全てを率い、ピアニストが、ピアノやキーボードで伴奏を務める。

まずはみんなで「1,2,3,手を振ってこんにちは...」と手を振って歌って先生とお友達にあいさつ。この時も、何となくではなく、はっきりと右、左、右、左、と時計の振り子のように振り、「高い声で歌って~」と手を高く掲げながら歌うとピアノも高い音をキラキラと鳴らし、「低い声で歌おう~」と床に手をかざして歌うとピアノも低い音でゴロゴロと奏でる、というように、リズムや音の高低を体の動きやピアノの音と意識的にあわせている。

「みんなにごあいさつしたから、楽器にもあいさつしようね!」と、「ハロー、ヴァイオリン、ハロー、ピアノ」と歌ってあいさつすると、ヴァイオリンが出てくる。クレアがヴァイオリンを肩にはさみ、短い曲をいくつか弾くと、それまで色々な方向を見ていた赤ちゃんたちも、驚くほど、音の出てくる方向をじっと見て、大きく動く弓の動きを目で追っている。その様子を見たクレアは、ひとりひとりの赤ちゃんの目の前を歩き、時にかがみこみながら弾いて回った。目の前に楽器が来ると、自然に手が出る子どもたち。するとクレアは、その子が触ろうとした弦をポン、とはじいてみたり、間近で見せてあげたりする。


ウォームアップで音の高さ、リズム、呼応の感覚を養う

音楽にあわせてマラカスをふれるかな?

前半はウォームアップとして、いくつか音楽のエクササイズをする。例えば、先生の歌に一フレーズごとに'呼応'して歌い返したり、子どもにマラカスを持たせて、歌とピアノの速さにあわせて「シェイク、シェイク...」と振って「ストップ!」でぱたっと止めたりと、単純なリズムやフレーズ、速さをゲーム感覚で行う。または、「つま先のちっちゃなノミが、膝、おなか、鼻を通って頭まで行くよ!」と下のドから上のドまで歌いながら、指先で赤ちゃんのつま先から頭までをよじ登るように触って行き、今度は音も1つずつ下りながら頭からつま先まで戻る、というエクササイズ。

クレアはこう説明する。「赤ちゃんたちは、音が1つずつ高くなっていくのを聞きながら、それにあわせて、体を触られている部分も上へ上へと上がっていくのを感じます。こうして、音階の段階的な性質を理解していくのです。」

「ウォームアップでは、音の高さやリズム、呼応の感覚を養います。言うなれば、クラスの中のアカデミックな部分。クラスが始まったばかりの時間帯は、赤ちゃんたちも柔軟に受け入れやすい時でもあります。一フレーズごとにエコーする歌では、赤ちゃんの時には大人が歌いますが、これは参加する大人たちに、ここはあなた方大人が自分の子どもと音楽を通して交流する場であって、私たち音楽家はそれを助ける役割なのだということを、認識してもらうことにもつながります。自分の親が自信を持って歌うのを聞くのを子どもは非常に喜びますし、呼びかけと応答、音楽でのギブ&テイクをするのを子どもに見せるのですが、この呼応の感覚はクラシック音楽においてとても大切な要素なのです。」と話す。



おとぎ話を聞きながら童謡を歌おう

パラシュートのダイナミックな動きは魅力

クラスのメインのパートは、週替わりのミニ・ミュージカル。よく知られたおとぎ話を、先生がみんなの前を歩きながら、時に小道具やジョークを交ぜて話してくれる。話の進行にあわせて、次々とおなじみの童謡を入れ込む手法だ。例えば、『赤ずきんちゃん』のお話では、赤ずきんちゃんがおばあさんのお家に行く時に、子供たちが大好きな『バスの車輪(Wheels on the bus)』の歌を歌いながらバスに乗ったり、『こげ、こげ、ボート(Row, row, row your boat)』を歌いながらボートで川を渡ったり、夕方になって空を見上げて『きらきら星』を歌ったりというように、少しずつお話の枝葉を変えながら歌を入れていく。みんなそれが分かっているので、赤ずきんちゃんが「おばあさん、何でそんなに頭が大きいの?何でそんなに肩、ひざ、つま先が大きいの?」と話しかけると、次は『頭、肩、ひざ、ぽん(Head, shoulders, knees and toes)』を歌うな、と予想してわくわくするようになる。

毎週違うお話が楽しめるようにと、それぞれ8つほどの歌を組み込んだおとぎ話が、20バージョン程用意されている。1タームで60曲ぐらいを使うが、毎回全部変えるのではなく、何度も出てくる曲もある。「今日はあの歌をやらなかったけど、今度はぜひ入れて!」と言われる、みんなが大好きな曲があるからだ。新米ママや、外国から来た母親にとっては、『きらきら星』くらいしか英語の童謡を知らなくても、新しい歌も何度も聴くうちに覚えていくので、メジャーな童謡をたくさん使ってくれるのはうれしい点だ。

日本の手遊び歌のように、歌にあわせてリズムを取ってゆらしたり、ジャンプさせたり、手をたたいたりと、体も動かすので、赤ちゃんにも歌が耳だけでなく、体からもしみこんでいる。タームが始まるまで一度も聴いたことのなかった歌でも、タームの終わりの頃には、まだ数か月の子でも、その歌が始まると喜んだり、自分から手をたたき出したり、ジャンプさせてもらえることが分かって喜んで待っていたりするようになる。これだけ幼くても、同じ曲を繰り返すことによって、赤ちゃんの方も耳と体と頭をリンクさせ、予期することができるようになってくるのだ。


最後は音楽にのって遊ぼう

シャボン玉を追って

お話の最後には、先生が大きな円形のパラシュートを出してきてくれ、みなで上下に振って遊ぶ。この時も、ピアニストが短い曲を弾くのにあわせて、ゆっくりで静かな曲の時にはゆっくりと、速く楽しい曲の時には速くと、振り方を変える。子どもたちは、一緒に振ったり、下で動きを見たりして楽しんでいるが、カラフルで大きなパラシュートが大胆に動くので、曲の様子が目で見てよくわかる。「次は速く!」などと言葉は使わず、次々に織り交ぜられる特徴の異なる曲によく耳を澄ませていないといけないので、スリリングだ。

最後には、先生がシャボン玉を吹いてくれる。子どもたちは、ピアノの音にのってゆらゆらと動くシャボン玉を目で追ったり、手を出してつかもうとしたり、動き回ったりと楽しそう。こうして、音楽の中で楽しく遊んだ後には、ヴァイオリンとピアノにお別れ。先生がまたヴァイオリンを出してきて、歌とピアノにあわせて、楽器とお友達に手を振ってお別れをして、クラスが終わる。

盛りだくさんな45分間で、ほとんど言葉で説明する時間などはないが、次々と繰り広げられるアクティビティと音楽の演奏のされ方の背後には、音楽の大切な要素と楽しみを伝えようとする意図がある。次回は、ミニ・モーツァルトの創設に至った経緯や、選曲やプログラミングの背後にある考えなどを、創始者クレアへのインタビューとしてご紹介する。

取材・執筆:二子千草


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