ロンドンレポート

バービカンセンターの新体制:クリエイティブ・ラーニング 第3回

2011/08/18
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Come and Play!
バービカンセンターの新体制:クリエイティブ・ラーニング 第3回~Come and Play!/Disruption

「バービカン/ギルドホール・クリエイティブラーニング」の数々のイベントの中で、音楽に焦点をあてた、センターを大々的に使ったイベント「Come and Play!」と、バービカンならではの多様なアートジャンルを混交させた「Disruption」の様子をレポート。


Disruptionビデオ
--- 情報---
■イベント:COME AND PLAY!
 日時:2010年11月6日(土)、7日(日)10時~17時
 場所:バービカンセンター(Barbican Centre, Silk Street London, EC2Y 8DS)、ギルドホール音楽院 (Guildhall School of Music & Drama, Silk Street, Barbican, EC2Y 8DT)[地図]
■イベント:Disruption(混乱)
 日時:2011年1月29日(土)18:00~19:30
 場所:バービカンセンター ホワイエフリーステージ、地下クラブステージ
■クリエイティブ・ラーニング:The Barbican/Guildhall School Creative Learning Department

音楽に焦点をあてた週末「Come and Play!」

パーカッションワークショップ

「Come and Play!(来てみて演奏してみよう!)」と名付けられたこのイベントは、土日2日間に亘って、バービカンセンターとギルドホール音楽院の両会場を広く使ったイベント。バービカン/ギルドホール・クリエイティブ・ラーニングの主催する数々のイベントの中で、全館をあげて音楽に焦点をあてたものだ。

「あらゆる人にアクセスを」という、ミュージック&クロスアーツプロデューサーのアンが掲げたモットーを体現するように(No.2参照)、この週末は、土曜日にバービカンセンターの地下、一階、中二階と、ホールやシネマ、フリーステージやオープンスペースを、日曜日にギルドホール音楽院の中の部屋を開放し、無料もしくは廉価ないくつものワークショップが行われた。


ジャズワークショップ

対象は全ての年齢の人。バービカンセンターで行われたものの多くは、音楽経験のほとんどない子どもや家族、初心者などが対象のワークショップや全ての人が楽しめるステージが、ギルドホール音楽院では楽器を習いたい人や既に習っている若者、久しぶりに楽器を演奏したい大人など楽器演奏に興味のある人が主な対象となった。土曜のバービカンには2000人、日曜のギルドホールには1000人と、合計約3000人が参加した。

多様な角度からのクリエイティブな音楽づくり

当日のバービカンセンターは、親子連れで活気あふれていた。入口すぐの所には、道行く人が物を飾って楽譜にみたてたインスタレーションがあったり、階下のオープンスペースでは色とりどりの素材を使って楽器を作る親子たちの姿、中二階からはサックスやクラリネットでジャズにトライする若者の演奏と声が、と賑やかだ。この日センターの中は、大きく4つのセクションに分かれていた。「Have a go(やってみよう)」「Make Zone(つくってみよう)」「Explore(たんけんしよう)」「Watch and Listen(見よう、聞こう)」。


フォーク音楽のワークショップ

「Have a go(やってみよう)」では、初心者が楽器にトライできる。その場で楽器を借りても、自分で持ってきてもいい。3歳以上の親子が対象で、ヴァイオリン、チェロ、トランペットなどのクラシック楽器、ギターなどのロック、バンジョーでフォークミュージック、タンバリンやジャンベなどのパーカッション、サックスやクラリネットでのジャズの5か所に分かれ、様々なジャンルの音楽の楽器を試すことができる。午前10時から午後4時まで、グループワークショップが何度か繰り返され、全て無料で予約参加できる。バンジョーのセッションでは、子どもたちはインストラクターと一緒に輪になって座り、楽器の持ち方や鳴らし方を習った。パーカッションは小さい子どもに人気で、クッションの上に座った子どもたちの前に、次々にタンバリンや太鼓類が置かれ、インストラクターの動作にあわせてたたいたり、左右に分かれて違うリズムをたたきあったりした。


手作りの楽器で遊ぶ

「Make Zone(つくってみよう)」では、自分で楽器を作ってみて、どうやって音が出るのか、そのしくみを発見しよう、というもの。今回は「パーカッション・ビュッフェ」「ギターづくり」「オーボエづくり」の3つ楽器づくりワークショップが行われた。こちらは素材代2ポンドで予約参加できる。「パーカッション・ビュッフェ」では、ビュッフェ台にドラムを作るための素材が、枠となる「フレーム」、たたく「膜」、共鳴する「シリンダー」、バチ類、それに音に変化を与えるものなど、種類ごとにそれぞれ色々な素材や形、大きさのものが置いてある。親子でそれぞれから好きなものを選んで組み立て、飾り付け、持ち帰ってよいというユニークな企画。その他、空き箱を使ったギターづくりや、ストローを使ったオーボエづくりも少し上の年齢の子に人気で、真剣に作業をしていた。


トリオを指揮しよう

「Explore(たんけんしよう)」はギルドホールコネクトのメンバーが中心となって、クリエイティブな音楽の楽しみ方を簡単に試してみるコーナー。「Play Me」と題されたコーナーでは、ミュージシャンやテクノロジーを操って音楽づくりを体験することができる。トリオの前に立ち、人や楽器を指でさしたり大きさを身体で表したりしながら指揮をすると、あわせて即興で演奏をしてくれるものや、'クレッシェンド''もっと速く'などが書かれたフリップを自由に掲げると、マリンバがそれにあわせて演奏に変化をつけてくれるもの、電子楽器テルミンを演奏するミュージシャンの手を左右上下に動かすことで電子音を変化させるものまで。「Cast Your Note(音を飾ろう)」では、道行く人が壁にかかった何本もの紐に、用意された紙コップや毛糸など色々な物を好きな所に飾ることで、一定の時間が来たらそれを楽譜に見立ててミュージシャンが即興でセッションをするという、非常に現代的なクリエイティブな試みに参加できる。

「Watch and Listen(見よう、聞こう)」としては、ロビー階のフリーステージでジャズやフォーク、パーカッションなどのコンサートが代わる代わる演奏されるのをコーヒーを飲みながら聴いたりする他、シネマで『美女と野獣』の映画の音楽を一緒に歌ったり、家から持ってきた楽器や「Make Zone」で作った楽器、もしくはその場で楽器を借りて、プロのミュージシャンが無声映画にあわせて演奏するのを見て自分たちでもやってみるというイベントが行われた。


ギルドホール音楽院でピアノを体験

日曜日のギルドホール音楽院では、予約制の無料ワークショップが行われた。フォーク、ロック、パーカッション、ピアノ、合唱というジャンルで、8歳以上の若者から大人まで、現在演奏している人から昔演奏したことがある人、いつか弾きたいと思っていた人まで、あらゆるレベルの人を対象として、グループでのワークショップが行われた。単純に楽器を弾くという経験の他に、アンサンブルで他の人と一緒に演奏する楽しみ、楽譜が読めなくても音楽を作って演奏できるという経験など、新しいスキルや楽しみ方の発見のきっかけになった。

また、これからどうやって音楽の勉強を続けていくかについてのアドバイスが、2日間両会場において、アーツカウンシル・イングランド、サウンド・コネクションズ、メイキング・ミュージック、フェデレーション・オブ・ミュージックサービスなどの団体から提供された。この日受けた刺激を、そこで終わらせて欲しくない、という姿勢の表れだ。


学生が作るファッションショー・ステージ「Disruption」

Disruption(混乱)のパフォーマンス

もう一つの「Disruption(混乱)」と題されたイベントは、音楽とファッションとをあわせたユニークな試みだ。バービカンのアートギャラリーで2010年10月から2011年2月まで開催された「Future Beauty: 30 Years of Japanese Fashion(未来の美:日本のファッション30年)」に絡めて行われた一連のイベントの一つだ。

日本ファッション展では、1980年代から現在まで日本のファッション界をリードし世界に紹介してきたデザイナーの刺激的な作品が展示された。それにあわせて、ファッションや日本文化に関連するトーク、ワークショップ、クラス、映画上映、演劇上映など様々なイベントが期間中合計30以上行われた。「Disruption」はこの中でも開催期間全体をかけて準備され、終了間際に集大成として開催されたファッションショーで、この一つのパフォーマンスの中には、バービカンの持つネットワークならではできる様々なジャンルのアートが織り込まれている。

多ジャンルのアートが一つのパフォーマンスに集大成

プロジェクトがスタートしたのは、2010年9月。バービカンが主な対象としている東ロンドンの中・高等学校から参加校が選ばれ、学校の先生方がクリエイティブ・ラーニングのスタッフと企画についてミーティングを開始。10月にファッション展が始まると、先生と生徒たちはバービカンのアートギャラリーを訪れ、自分たちの目で展示を見学した。そこで見つけてスケッチブックに書き留めた印象やアイディアをもとに、11月からは本格的なワークショップが始まった。

8週間に亘るワークショップでは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの指導陣が毎週火曜日の夕方2時間ずつ大学のサイトにて、生徒たちにコスチュームデザイン、ヘッドウェアやアクセサリーのデザイン、作り方、さらにスタイリングから写真や動画の撮影までの実践的な指導を行った。生徒たちが日本ファッション展から持ち帰り、服作りに反映させたのは赤・白・黒の色使い、髪とアクセサリーには'ボリューム'というポイントだった。そしてテーマは、東ロンドンと東アジアのファッションを混交し、都会的なハイブリッドを提示することに設定された。


フューチャーバンド

それと並行して、ギルドホール音楽院の指導者が中心になって、9~16歳の若者たちによるフューチャー・バンドのメンバーもファッション展を見学し、そこからイメージを膨らませて音楽づくりを始めた。音楽づくりは、ギルドホール・コネクトのバンドの音楽づくりと基本的に同じである(コネクトNo.3参照)。若者たちが音楽づくりに取り入れたアイディアは、日本のファッションに見た'影'と'空間'、そして'折りたたむ'というイメージだった。

当日のファッションショーも、ただ作製した服をモデルが着て歩くという形ではなく、ダンスと音楽とで作るパフォーマンスの形で披露されるというユニークなスタイル。ダンスは、服をデザインした生徒たちと同年代の13~18歳の若者で構成されたブルー・ボーイズというダンスグループが振付家の指導を受けながら、それらの服を着てパフォーマンスをするためのダンスを作った。

また、当日のパフォーマンスのための音楽は、コネクト出身のジョー・ウィリスが日本や日本のファッションからインスパイアされた音楽を作った。ダンサーたちの本番のヘアとメイクアップは、Tony & Guyと資生堂のアーティストが生徒たちの服作りを視察してデザインし、当日施した。さらに、ステージのデザインも、このパフォーマンスのための建築デザイナーのコンペが行われ、そこで選ばれた作品と照明がステージ上で実現という形で発表された。


観客を誘導するドラム隊

1月29日当日には、18時から30分間、ロビー階のフリーステージにおいて、フューチャー・バンドによるオリジナル音楽の演奏が行われた。パフォーマンスが終わると、観客を誘導するように、ステージ横からジョー率いるドラム隊が列を組んで演奏しながら地下のスペースのクラブステージへと移動し、ファッションショーへバトンタッチ。ファッションショーは、特別にデザインされたステージ上で、オリジナルの音楽と照明にのって、生徒たちがデザインした服を身にまとったダンサーたちがそれぞれの服を見せるためのオリジナルの振付のダンスで約30分間のダンスステージを披露した。ステージを見ていた服をデザインした生徒たちからは、歓喜の声援が飛び交った。

このように、一つのパフォーマンスの中に、ファッション展の見学、服飾デザイン、服作り、音楽作り、ダンス作り、撮影、パフォーマンス、建築、照明、自分たちや他の人たちの作品に聴衆として参加...と、多種多様な要素が盛り込まれた、非常に成功したイベントとなった。この企画は、バービカンとギルドホール音楽院、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションといった組織と、個々のアーティストやグループ、企業といった、大きなコラボレーションの輪を生かしたものであり、また視点を変えればこの企画がそうしたコラボレーションの輪を作り、新たな発展の可能性を示したとも言えよう。

取材・執筆:二子千草


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